君と30日のまた明日

黒蝶

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4日目

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机の中に教科書を入れようとすると、中から大量の塵が出てきた。
…僕が空気だから、ということだろうか。
今日は憂鬱な通院だ。いつもより遅くなると彼女に伝えておくべきだったかもしれない。
「…今日も来るとは限らないか」
そんなことを口走ってしまっていたものの、いつもと変わらずヘッド音をした。
「穂村さん、どうぞ」
放課後はまず診察に向かう。
真っ白な部屋に静かな音…そして、少し苦痛な診察。
「体調はどうかな?」
「あんまりよくないです」
正直に答えてしまうのは、どうにかなるかもしれないとまだ少し期待しているからなんだろうか。
「あ、奏多さん!今日は遅かったんですね」
「ちょっと用事があったから遅くなった」
「そうだったんですね…急かすようなことを言ってすみません」
「別に怒ってないよ」
何故毎日律儀に待っているのか疑問に感じているだけだ。
「君はいつもどこから来てるの?」
「そっちにある梯子からです」
その先にあるのは病室だったはずだ。
よく覚えていないが、間違えて降りそうになったことがある。
その先で声がしてすぐ戻ったものの、どんな場所に繋がっているのか全く知らない。
「今日は歌わないんですか?」
「…もう少ししたら」
「それなら、お隣失礼します」
彼女はそう言って僕が座ったすぐ隣に腰をおろす。
「距離、近くない?」
「私はこれくらいの方が安心できます」
にっこり笑う彼女に離れてほしいとは言えなかった。
悩んでいても仕方がないので、持ってきたお茶を一口飲む。
「…君も飲む?」
「いいんですか?」
「たまたま2本買ったからあげる」
「ありがとうございます!私、ほうじ茶ってあんまり飲んだことがないんです。
奏多さんはほうじ茶が好きなんですか?」
「お茶の中では1番」
「また新しいことを知れました」
そんなことを知って何が楽しいのか僕には分からない。
ただ、彼女の笑顔は悪くないと思ってしまった。
「君は、」
「森川彩です」
「…森川さんは、好きな曲とかないの?僕が預けたあれに入ってるものじゃなくて、君個人が好きな曲」
「特にありませんね…あ、曲名が分からないものならあります。
ただ、もうメロディーを思い出せなくなっちゃいました」
彼女の笑みはどこか寂しそうだ。
それでいて儚げで、消えてしまいそうで…僕個人の見え方でしかないが、今の彼女はそんなふうに見える。
「それなら、次までに思い出したら教えて。今日は別の曲を歌ってみるから」
「ありがとうございます!次までに思い出せるように頑張ります」
「別に頑張らなくていい」
それから1曲歌って彼女の方を見つめる。
その表情は眩しすぎるほどの笑顔だった。
「ありがとうございました。それでは、また明日」
彼女は詮索してこないからか、別に側にいられても困らない。
もう少し暗くなるまでその場に留まっていたくて、鞄からヘッドホンを取り出した。

【今日も奏多さんは現れました。
私が好きな曲があったと話すと、一緒に探すと言ってくれました。そんな人は初めてです。
ただ、袖がまくれたときにちらっと見えた腕の傷はどうしたんでしょうか。…訊いてしまっていいのか分かりません】
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