5 / 35
4日目
しおりを挟む
机の中に教科書を入れようとすると、中から大量の塵が出てきた。
…僕が空気だから、ということだろうか。
今日は憂鬱な通院だ。いつもより遅くなると彼女に伝えておくべきだったかもしれない。
「…今日も来るとは限らないか」
そんなことを口走ってしまっていたものの、いつもと変わらずヘッド音をした。
「穂村さん、どうぞ」
放課後はまず診察に向かう。
真っ白な部屋に静かな音…そして、少し苦痛な診察。
「体調はどうかな?」
「あんまりよくないです」
正直に答えてしまうのは、どうにかなるかもしれないとまだ少し期待しているからなんだろうか。
「あ、奏多さん!今日は遅かったんですね」
「ちょっと用事があったから遅くなった」
「そうだったんですね…急かすようなことを言ってすみません」
「別に怒ってないよ」
何故毎日律儀に待っているのか疑問に感じているだけだ。
「君はいつもどこから来てるの?」
「そっちにある梯子からです」
その先にあるのは病室だったはずだ。
よく覚えていないが、間違えて降りそうになったことがある。
その先で声がしてすぐ戻ったものの、どんな場所に繋がっているのか全く知らない。
「今日は歌わないんですか?」
「…もう少ししたら」
「それなら、お隣失礼します」
彼女はそう言って僕が座ったすぐ隣に腰をおろす。
「距離、近くない?」
「私はこれくらいの方が安心できます」
にっこり笑う彼女に離れてほしいとは言えなかった。
悩んでいても仕方がないので、持ってきたお茶を一口飲む。
「…君も飲む?」
「いいんですか?」
「たまたま2本買ったからあげる」
「ありがとうございます!私、ほうじ茶ってあんまり飲んだことがないんです。
奏多さんはほうじ茶が好きなんですか?」
「お茶の中では1番」
「また新しいことを知れました」
そんなことを知って何が楽しいのか僕には分からない。
ただ、彼女の笑顔は悪くないと思ってしまった。
「君は、」
「森川彩です」
「…森川さんは、好きな曲とかないの?僕が預けたあれに入ってるものじゃなくて、君個人が好きな曲」
「特にありませんね…あ、曲名が分からないものならあります。
ただ、もうメロディーを思い出せなくなっちゃいました」
彼女の笑みはどこか寂しそうだ。
それでいて儚げで、消えてしまいそうで…僕個人の見え方でしかないが、今の彼女はそんなふうに見える。
「それなら、次までに思い出したら教えて。今日は別の曲を歌ってみるから」
「ありがとうございます!次までに思い出せるように頑張ります」
「別に頑張らなくていい」
それから1曲歌って彼女の方を見つめる。
その表情は眩しすぎるほどの笑顔だった。
「ありがとうございました。それでは、また明日」
彼女は詮索してこないからか、別に側にいられても困らない。
もう少し暗くなるまでその場に留まっていたくて、鞄からヘッドホンを取り出した。
【今日も奏多さんは現れました。
私が好きな曲があったと話すと、一緒に探すと言ってくれました。そんな人は初めてです。
ただ、袖がまくれたときにちらっと見えた腕の傷はどうしたんでしょうか。…訊いてしまっていいのか分かりません】
…僕が空気だから、ということだろうか。
今日は憂鬱な通院だ。いつもより遅くなると彼女に伝えておくべきだったかもしれない。
「…今日も来るとは限らないか」
そんなことを口走ってしまっていたものの、いつもと変わらずヘッド音をした。
「穂村さん、どうぞ」
放課後はまず診察に向かう。
真っ白な部屋に静かな音…そして、少し苦痛な診察。
「体調はどうかな?」
「あんまりよくないです」
正直に答えてしまうのは、どうにかなるかもしれないとまだ少し期待しているからなんだろうか。
「あ、奏多さん!今日は遅かったんですね」
「ちょっと用事があったから遅くなった」
「そうだったんですね…急かすようなことを言ってすみません」
「別に怒ってないよ」
何故毎日律儀に待っているのか疑問に感じているだけだ。
「君はいつもどこから来てるの?」
「そっちにある梯子からです」
その先にあるのは病室だったはずだ。
よく覚えていないが、間違えて降りそうになったことがある。
その先で声がしてすぐ戻ったものの、どんな場所に繋がっているのか全く知らない。
「今日は歌わないんですか?」
「…もう少ししたら」
「それなら、お隣失礼します」
彼女はそう言って僕が座ったすぐ隣に腰をおろす。
「距離、近くない?」
「私はこれくらいの方が安心できます」
にっこり笑う彼女に離れてほしいとは言えなかった。
悩んでいても仕方がないので、持ってきたお茶を一口飲む。
「…君も飲む?」
「いいんですか?」
「たまたま2本買ったからあげる」
「ありがとうございます!私、ほうじ茶ってあんまり飲んだことがないんです。
奏多さんはほうじ茶が好きなんですか?」
「お茶の中では1番」
「また新しいことを知れました」
そんなことを知って何が楽しいのか僕には分からない。
ただ、彼女の笑顔は悪くないと思ってしまった。
「君は、」
「森川彩です」
「…森川さんは、好きな曲とかないの?僕が預けたあれに入ってるものじゃなくて、君個人が好きな曲」
「特にありませんね…あ、曲名が分からないものならあります。
ただ、もうメロディーを思い出せなくなっちゃいました」
彼女の笑みはどこか寂しそうだ。
それでいて儚げで、消えてしまいそうで…僕個人の見え方でしかないが、今の彼女はそんなふうに見える。
「それなら、次までに思い出したら教えて。今日は別の曲を歌ってみるから」
「ありがとうございます!次までに思い出せるように頑張ります」
「別に頑張らなくていい」
それから1曲歌って彼女の方を見つめる。
その表情は眩しすぎるほどの笑顔だった。
「ありがとうございました。それでは、また明日」
彼女は詮索してこないからか、別に側にいられても困らない。
もう少し暗くなるまでその場に留まっていたくて、鞄からヘッドホンを取り出した。
【今日も奏多さんは現れました。
私が好きな曲があったと話すと、一緒に探すと言ってくれました。そんな人は初めてです。
ただ、袖がまくれたときにちらっと見えた腕の傷はどうしたんでしょうか。…訊いてしまっていいのか分かりません】
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる