君と30日のまた明日

黒蝶

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21日目

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「彩ちゃん、おはよう」
「おはようございます」
最近は西田さんがよく来てくれる。
どうしてかなんて訊かなくても分かっているけど、それは絶対に口にしない。
もし話したとしても、きっと相手を困らせてしまうだろうから。
「今日は誰か来る予定?」
「多分奏多さんが来てくれます」
「ご飯は一緒に食べるの?」
「多分、そうなります」
奏多さんへの連絡手段がない私にとって、絶対は絶対ない。
西田さんはそう、と笑って次の部屋へ行ってしまった。
しばらく天井を見つめていたけど、なんだか退屈になって屋上への梯子を黙々とのぼる。
その先では歌声がひろがっていた。
「──♪」

たとえ私が翔んでいったとしても、あなたを忘れないよ
たとえあなたが忘れてしまったとしても、きらきらしたこの気持ちだけは残るのかな

「…違うけど、何が違うんだろう」
奏多さんのそんな呟きは耳に届いた直後に消えていく。
小さく拍手すると、彼は勢いよくこちらを向いた。 
「いつの間に来てたの?」
「ついさっきです。朝のチェックが終わったので時間ができて…ピアノも持ってきました」
「…そう」
何も訊かずにいてくれることに、ただ感謝しかない。
「今日もお仕事ですか?」
「うん。あと少ししたら行ってくる。今日も病室に顔を出すよ。
それから…色々持ってきたから、後で見せるね」
「ありがとうございます」
「いってくる」
奏多さんはそう言って、扉から出ていってしまった。
どんなことを考えているのかなんて私には分からないけど、取り敢えず今は演奏していようと思う。
早く上手になって、一緒に演奏したいから。
「…入るよ」
お昼過ぎ、奏多さんは約束どおり来てくれた。
手にはお弁当と水筒が握られている。
「本当によかったんですか?」
「食べてみたいって言ってくれたから」
先日、お弁当というものを食べてみたいと話をした。
彼はそれを覚えてくれていたらしく、次の休みに作ってくると言ってくれたのだ。
「確認するけど、食べちゃいけないものはないんだよね?」
「はい!大丈夫です」
「それならよかった。…僕もここで食べていいの?」
「許可はもらっています」
「ありがとう。いただきます」
「いただきます」
きんぴらはしゃきしゃきで、卵焼きはふわふわで、焼き鮭はほくほくで…病院で食べるご飯より美味しい。
「量、多くなかった?」
「これくらいが丁度いいです」
「そっか」
ふたりで黙々と食べすすめて、気づいたときには完食していた。
「ごちそうさまでした!すごく美味しかったです」
「喜んでもらえてよかった」
それから歌詞について話して、また歌を聴かせてもらって…そんな時間がとにかく楽しい。
奏多さんがまたおやつを持ってきてくれていたのもあって、私の気分は最近の中で1番よかった。
「それでは奏多さん、また明日」
「…森川」
「どうかしましたか?」
「ううん、なんでもない。…また明日」
少し様子が変だったような気がするけど、ぎこちない笑みを浮かべて出ていってしまった。
奏多さんのこころを知るには、まだまだ時間がかかりそうだ。

【僕は今焦っている。早く曲を完成させたいのに、何故か歌詞が上手くまとまらない。
森川に聴いてほしいという思いもないわけではないが、これは自分の為でもある。…また明日、急いで病室へ向かおう】
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