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22日目
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学校ではいつもどおり世界を遮断して過ごし、心の平穏を保つ。
今日も森川のところへ行って曲を創りながら、歌ってほしいと言ってもらえれば歌う。
「穂村、少しいいか?」
「すみません。今日は用事があるので…」
「それなら明日は、」
「すみません。放課後はずっと大事な用事があるんです」
この先生はいつも話しかけてくるが、目的が見えない。
なんとか振り切り、そのまま病院まで自転車をとばす。
今はただ森川との時間を大切にしたい。
「奏多さん、今日は早かったんですね」
「学校が終わるの、少しだけ早かったんだ」
まずは屋上にと思い向かうと、そこには想像したとおりの先客がいた。
いつもどおり笑っているが、昨日より少し顔色がいいことに安堵する。
「ここで1曲、聴かせていただけませんか?」
「それは構わないけど…リクエストは?」
「この曲がいいです」
差し出されたイヤホンから流れてきたのは、希望を追い求めた少女の曲だった。
最後に光を掴めたか掴めていないかの判断は、聞き手に任されることになる。
「──♪」
個人的な思いではあるが、今だけは掴めていてほしいと思った。
歌い終わると同時にいつもどおりひとり分の拍手が鳴り響く。
「やっぱり奏多さんの歌が好きです」
「喜んでもらえたならよかった。…そうだ、これ食べる?」
作ってきたワッフルを渡すと、森川は予想以上に喜んでくれた。
そんな反応をしてもらえて僕としてはありがたい。
「それじゃあ、また後で」
「はい。お待ちしています」
それから大人に見つからない程度の小走りでナースステーションの近くまで駆け下りる。
「…ねえ、森川さんよくないの?」
「実はそうなんです。カルテを共有した相手を泣かせてしまいました。…彩ちゃんの笑顔を見ると泣きそうになります」
「西田さん、1番仲良しだものね。レピシエントのトップなのに、まさかね…」
「もうすぐ移植になるって、本人は楽しみにしていたんです。
それがこんなことになって、バイタルチェックでも気になる項目が増えています」
…嘘だ。僕は信じない。
真っ赤なラインだらけの血液検査の結果も、最近調子がよくなさそうにしている顔も、少し弱くなった握力も。
「このままだと森川さんはもう…」
そこまで聞いたところで、僕は声がした方へ駆け寄っていた。
それ以上は聞きたくなくて、絶対に信じたくなくて…自分でも訳が分からなくなるほど滅茶苦茶だ。
「穂村さん?もしかして森川さんの、」
「彼女は、彼女はどれくらい悪いんですか?僕、詳しいことは知らなくて…」
森川について知っていることは少ない。
僕のやり方が間違っていた。やはり違和感を感じたときにもっとちゃんと話をするべきだったのだ。
「ごめんなさい。私たちからは今は話せないの。本人がいいと言ったら教えられるけど、それでも情報は限られます」
「……分かりました」
許可証が早くおりたのはそれが理由だったのか。
今はただ、すぐにでも彼女の元へ行きたい。
「森川?」
「奏多さん、遅いじゃないですか」
その表情はやはりいつもと変わらない。
何か話をしたが、ぼんやりしているうちに時間が過ぎていた。
「それでは奏多さん、また明日」
「…うん、また」
彼女の手を握ると、無慈悲な音楽とともに言葉が耳に届く。
「大丈夫ですよ。…私は死んだりしませんから」
【今日も奏多さんは来てくれました。ただ、表情を見てすぐに分かりました。
とうとう話さなければいけないときがきてしまったみたいです。また明日、奏多さんは来てくれるでしょうか?
…また独りになったらどうしようと思うと、今夜は眠れそうにありません】
今日も森川のところへ行って曲を創りながら、歌ってほしいと言ってもらえれば歌う。
「穂村、少しいいか?」
「すみません。今日は用事があるので…」
「それなら明日は、」
「すみません。放課後はずっと大事な用事があるんです」
この先生はいつも話しかけてくるが、目的が見えない。
なんとか振り切り、そのまま病院まで自転車をとばす。
今はただ森川との時間を大切にしたい。
「奏多さん、今日は早かったんですね」
「学校が終わるの、少しだけ早かったんだ」
まずは屋上にと思い向かうと、そこには想像したとおりの先客がいた。
いつもどおり笑っているが、昨日より少し顔色がいいことに安堵する。
「ここで1曲、聴かせていただけませんか?」
「それは構わないけど…リクエストは?」
「この曲がいいです」
差し出されたイヤホンから流れてきたのは、希望を追い求めた少女の曲だった。
最後に光を掴めたか掴めていないかの判断は、聞き手に任されることになる。
「──♪」
個人的な思いではあるが、今だけは掴めていてほしいと思った。
歌い終わると同時にいつもどおりひとり分の拍手が鳴り響く。
「やっぱり奏多さんの歌が好きです」
「喜んでもらえたならよかった。…そうだ、これ食べる?」
作ってきたワッフルを渡すと、森川は予想以上に喜んでくれた。
そんな反応をしてもらえて僕としてはありがたい。
「それじゃあ、また後で」
「はい。お待ちしています」
それから大人に見つからない程度の小走りでナースステーションの近くまで駆け下りる。
「…ねえ、森川さんよくないの?」
「実はそうなんです。カルテを共有した相手を泣かせてしまいました。…彩ちゃんの笑顔を見ると泣きそうになります」
「西田さん、1番仲良しだものね。レピシエントのトップなのに、まさかね…」
「もうすぐ移植になるって、本人は楽しみにしていたんです。
それがこんなことになって、バイタルチェックでも気になる項目が増えています」
…嘘だ。僕は信じない。
真っ赤なラインだらけの血液検査の結果も、最近調子がよくなさそうにしている顔も、少し弱くなった握力も。
「このままだと森川さんはもう…」
そこまで聞いたところで、僕は声がした方へ駆け寄っていた。
それ以上は聞きたくなくて、絶対に信じたくなくて…自分でも訳が分からなくなるほど滅茶苦茶だ。
「穂村さん?もしかして森川さんの、」
「彼女は、彼女はどれくらい悪いんですか?僕、詳しいことは知らなくて…」
森川について知っていることは少ない。
僕のやり方が間違っていた。やはり違和感を感じたときにもっとちゃんと話をするべきだったのだ。
「ごめんなさい。私たちからは今は話せないの。本人がいいと言ったら教えられるけど、それでも情報は限られます」
「……分かりました」
許可証が早くおりたのはそれが理由だったのか。
今はただ、すぐにでも彼女の元へ行きたい。
「森川?」
「奏多さん、遅いじゃないですか」
その表情はやはりいつもと変わらない。
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「それでは奏多さん、また明日」
「…うん、また」
彼女の手を握ると、無慈悲な音楽とともに言葉が耳に届く。
「大丈夫ですよ。…私は死んだりしませんから」
【今日も奏多さんは来てくれました。ただ、表情を見てすぐに分かりました。
とうとう話さなければいけないときがきてしまったみたいです。また明日、奏多さんは来てくれるでしょうか?
…また独りになったらどうしようと思うと、今夜は眠れそうにありません】
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