君と30日のまた明日

黒蝶

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23日目

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「おはようございます」
「おはよう、彩ちゃん」
西田さんと二言三言交わして、いつもより少しだけ憂鬱な朝がはじまる。
平日だから奏多さんはきっとまだ来られない。
その間何をしていようかすごく迷ったけど、私の世界ではこれが1番だ。
「…こんな感じでしょうか?」
今日もピアノを弾けてよかった。
きっとあと少しでこういうこともできなくなる。
もしそうなったら、私は……
「…入るよ」
「え、奏多さん!?」
まさかこんなに早くやってくるとは思わなかった。
というより、まだお昼前なのにここにいるのはどうしてだろう。
「…学校、終わるの早かったんだ」
「いくらなんでも早すぎませんか?」
「ごめん、嘘。今日は早退してきたんだ。4限目が体育だったから…お昼までなのは本当だよ」
「それって、私のせいですよね…」
「違う。僕がそうしたかったんだ。ずっと疑問に思っていたことから逃げたくなくて、君の話を聞かたいと思った。
…昨日の言葉の意味も、ちゃんと知りたいって思ったんだ。森川の口から、話せることだけでいいから教えてほしい」
言葉に詰まりながら、奏多さんは話しづらかったであろうことを伝えてくれた。
だから私も、できるだけのことを正直に話そう。
「私、生まれつき心臓が弱かったんです。だからずっと移植を待つ身で…小学生くらいまではちゃんと学校にも通えていたんですけど、中学は途中から全く通えなくなりました」
「…やっぱり長く入院してたんだね」
いつから知っていたんだろう。
それでも黙って一緒にいてくれるなんて、彼は本当にいい人だ。
「因みに高校も受かっただけで行ったことがありません。勉強は一応しているんですけど、結局通うことはなさそうです」
「どこの学校?」
「烏合学園です。今は一応通信制の生徒なんですよ。時々先生が画面越しに会いに来てくれます」
「…僕はそこの普通科の生徒なんだ。まさか同じ学校だったとはね」
だから奏多さんの制服に見覚えがあったんだ。
どうして見たことがあるような気がしていたのかなんて分からなかったけど、私が着るつもりだった制服だったから覚えがあったのか。
「私も知りませんでした。…すみません、重かったですよね」
「ううん。森川のことを知りたかったから話を聞けてよかった」
絶対彼の重荷になりたくない。
「私は色々重いんです。だから…」
恐らく残り少ない私のことなんて気にしないで、いつか伝えないといけないって考えていたさようならを伝えないと。
「話すだけでも辛かっただろうに、教えてくれてありがとう。…明日もまた来る」
「え…?」
予想外の言葉にただただ驚く。
奏多さんは今、明日もと言った。
独りに戻らないといけないって思っていたのに、私には時間がないのに…。
「だって、君は死なないんでしょ?それにまだ歌の続きを創りたい」
「本当に、いいんですか?」
「森川が嫌じゃなければ、僕はこのまま君との時間を大切にしたい」
そんなふうに言ってもらえるとは思わなかった。
気味悪がられたり怖がられてしまうと思っていたのに、どうして彼はここまでしてくれるんだろう。
「奏多さんさえよければ、よろしくお願いします」
「うん。毎日来る」
そんな話をしていると、明日への希望を知らせる鐘が鳴る。
「ありがとうございます。…それでは奏多さん、また明日」
「…うん、また」
なんとか笑顔を保ったまま奏多さんを見送る。
視界が少し歪んだけど、これくらいなら大丈夫。
ただ、私を避けないでいてくれることが嬉しかった。

【今日は森川から話を聞かせてもらった。あんなにいい子がそんなものを抱えていたなんて知らなかった。
僕にできるのは歌ったり一緒に創ることだけだ。
それに、あともうひとつやりたいことがある。…明日用意できるだろうか】
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