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物語の欠片
夜空に願いを。(リクエスト小説『月食』)
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授業が終わり帰ろうとしたとき、誰かに袖を引っ張られる。
「弥生」
「どうしたの?」
「ちょっといい...?」
葉月が呼び止めてくるのは珍しい。
...何かあったのかもしれない。
(話しづらそうにしてる...)
「いつもの場所、行こうか」
「うん」
私たちの、秘密の場所。
大きな木があって、この小さな街を一望できるほど見晴らしのいい場所。
「何かあった?」
「あのね、今日は月食でしょ?だから...ここで一緒に見ませんか?」
『おしとやかなお嬢様』、そんな言葉がぴったりな彼女とは数ヵ月前ここで出会った。
「私はいいけど、葉月は大丈夫?」
「今日は誰も家に帰ってこないから...」
「それじゃあ一度着替えてから、七時までにここに集合。それでいいかな?体育で汗かいちゃって...」
「うん、勿論!」
私の家には誰もいない。
心配してくれるような人がいるわけじゃない。
だから、よく夜の街を歩いている。
けれど葉月は違う。
本人が気づいているかどうかは分からないけれど、彼女が思っているよりご両親は一人娘を心配しているのだ。
(羨ましいな...)
さっと着替えを済ませ、いつものものを持って家を出る。
ーー待ち合わせ時間十五分前。
まだきていないだろうと思っていたのに、木の下にはもうすでに葉月がいた。
「早かったね」
「一人でいても落ち着かないから...」
共働きで寂しい思いをしてきた気持ちを、私は全て理解できるわけではないけれど...独りの辛さはよく分かる。
「それ、何読んでるの?」
「『月蝕』について書かれた本」
「流石、優等生は読むものが違うね」
「たまたまあったからだよ。それに、通信制ってどうやって優等生とか決めるの?」
くすりと笑いながら葉月はそう聞いてくる。
(確かに...。みんなスタートが違うから、決めようがないか)
私は途中から転入という形で入り、同時期に入学という形式で入ったのが葉月。
通信制高校は半年に一回入学式があるのだけれど、私も葉月も後期入学生というやつだ。
葉月は卒業までにがっつり三年以上はかかるけれど、私は元から持っている単位があるので一年ほどで卒業できる。
「弥生は単位を持ってる分、私より優等生かもしれないよ?」
「優等生の定義によるってことか...。難しいね」
「そうだね。...そうだ、夜食作ってきたよ!」
葉月が見せてくれたのは、ボリューム控えめのカツサンド。
「葉月のカツサンド、大好き」
「弥生は、いつものものを持ってきてくれたの?」
「ごめん、料理という観点で考えてなかった...」
私が鞄から取り出したのは、二人の想い出のいちご大福。
『あなたも独り?』初めて会ったあの日、私から声をかけた。
二人とも夜の街を散歩していて、私のお気に入りの場所にお昼から何も食べていないと言う葉月がいて。
そのときは二人ではんぶんこして、夜空に瞬く星を見て...。
(まさか同じ学校に入学する子だと思ってなかったな)
「弥生、そろそろみたいだよ」
辺りが段々暗くなっていく。
月が呑みこまれるようなそれは、『月蝕』と呼ぶに相応しいものに思える。
「ここまで暗くなると、なんだか不安...」
「大丈夫、私がいるから。サンドイッチといちご大福もね」
「もう...」
葉月が小さく笑うと、空から沢山の星が降ってきた。
「月食なのに、流れ星がいっぱい...」
「今日、流星群も重なってたんだって」
「綺麗...」
(これで少しは元気になったかな)
全て同じ授業をとっているわけではないし、学校へ行くのは週に一度だけ。
それでも、こうして二人で会える時間を大切にしたい。
「折角だから、何かお願いしようよ」
「うーん...『いちご大福が沢山食べられますように』とか?」
「そうじゃなくて、」
「分かってる。...『弥生との時間をもっと楽しめますように』!」
本当にお茶目だなと思いながら、私もそっと祈る。
「...『葉月と二人でずっと仲良くいられますように』」
手にはあの日とは違う、欠けていないいちご大福。
願い終わった瞬間、沢山の星が光ったような気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リクエストいただきありがとうございました。
『いちご大福』と『月食』しか入れられませんでしたが、これで大丈夫でしょうか...?
ごめんなさい、『普通の青春』が分からないので、通信制高校設定にしました...。
しかも、『流星群』という謎の要素をいれてしまいました。
因みに私は、夜の散歩に月に一度だけ行くことができます。
そのときを楽しみにしているので物語にできればいいなと思い、今回はそういう設定にしてみました。
遅くなってしまいすみませんでした...。
今回は月食篇という感じになりましたが、二人の出会いであるいちご大福篇も作るつもりでいるので目をとおしていただければ幸いです。
「弥生」
「どうしたの?」
「ちょっといい...?」
葉月が呼び止めてくるのは珍しい。
...何かあったのかもしれない。
(話しづらそうにしてる...)
「いつもの場所、行こうか」
「うん」
私たちの、秘密の場所。
大きな木があって、この小さな街を一望できるほど見晴らしのいい場所。
「何かあった?」
「あのね、今日は月食でしょ?だから...ここで一緒に見ませんか?」
『おしとやかなお嬢様』、そんな言葉がぴったりな彼女とは数ヵ月前ここで出会った。
「私はいいけど、葉月は大丈夫?」
「今日は誰も家に帰ってこないから...」
「それじゃあ一度着替えてから、七時までにここに集合。それでいいかな?体育で汗かいちゃって...」
「うん、勿論!」
私の家には誰もいない。
心配してくれるような人がいるわけじゃない。
だから、よく夜の街を歩いている。
けれど葉月は違う。
本人が気づいているかどうかは分からないけれど、彼女が思っているよりご両親は一人娘を心配しているのだ。
(羨ましいな...)
さっと着替えを済ませ、いつものものを持って家を出る。
ーー待ち合わせ時間十五分前。
まだきていないだろうと思っていたのに、木の下にはもうすでに葉月がいた。
「早かったね」
「一人でいても落ち着かないから...」
共働きで寂しい思いをしてきた気持ちを、私は全て理解できるわけではないけれど...独りの辛さはよく分かる。
「それ、何読んでるの?」
「『月蝕』について書かれた本」
「流石、優等生は読むものが違うね」
「たまたまあったからだよ。それに、通信制ってどうやって優等生とか決めるの?」
くすりと笑いながら葉月はそう聞いてくる。
(確かに...。みんなスタートが違うから、決めようがないか)
私は途中から転入という形で入り、同時期に入学という形式で入ったのが葉月。
通信制高校は半年に一回入学式があるのだけれど、私も葉月も後期入学生というやつだ。
葉月は卒業までにがっつり三年以上はかかるけれど、私は元から持っている単位があるので一年ほどで卒業できる。
「弥生は単位を持ってる分、私より優等生かもしれないよ?」
「優等生の定義によるってことか...。難しいね」
「そうだね。...そうだ、夜食作ってきたよ!」
葉月が見せてくれたのは、ボリューム控えめのカツサンド。
「葉月のカツサンド、大好き」
「弥生は、いつものものを持ってきてくれたの?」
「ごめん、料理という観点で考えてなかった...」
私が鞄から取り出したのは、二人の想い出のいちご大福。
『あなたも独り?』初めて会ったあの日、私から声をかけた。
二人とも夜の街を散歩していて、私のお気に入りの場所にお昼から何も食べていないと言う葉月がいて。
そのときは二人ではんぶんこして、夜空に瞬く星を見て...。
(まさか同じ学校に入学する子だと思ってなかったな)
「弥生、そろそろみたいだよ」
辺りが段々暗くなっていく。
月が呑みこまれるようなそれは、『月蝕』と呼ぶに相応しいものに思える。
「ここまで暗くなると、なんだか不安...」
「大丈夫、私がいるから。サンドイッチといちご大福もね」
「もう...」
葉月が小さく笑うと、空から沢山の星が降ってきた。
「月食なのに、流れ星がいっぱい...」
「今日、流星群も重なってたんだって」
「綺麗...」
(これで少しは元気になったかな)
全て同じ授業をとっているわけではないし、学校へ行くのは週に一度だけ。
それでも、こうして二人で会える時間を大切にしたい。
「折角だから、何かお願いしようよ」
「うーん...『いちご大福が沢山食べられますように』とか?」
「そうじゃなくて、」
「分かってる。...『弥生との時間をもっと楽しめますように』!」
本当にお茶目だなと思いながら、私もそっと祈る。
「...『葉月と二人でずっと仲良くいられますように』」
手にはあの日とは違う、欠けていないいちご大福。
願い終わった瞬間、沢山の星が光ったような気がした。
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リクエストいただきありがとうございました。
『いちご大福』と『月食』しか入れられませんでしたが、これで大丈夫でしょうか...?
ごめんなさい、『普通の青春』が分からないので、通信制高校設定にしました...。
しかも、『流星群』という謎の要素をいれてしまいました。
因みに私は、夜の散歩に月に一度だけ行くことができます。
そのときを楽しみにしているので物語にできればいいなと思い、今回はそういう設定にしてみました。
遅くなってしまいすみませんでした...。
今回は月食篇という感じになりましたが、二人の出会いであるいちご大福篇も作るつもりでいるので目をとおしていただければ幸いです。
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