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物語の欠片
バニラと約束とストロベリー(バニスト)※百合表現あり
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「清香、すごく綺麗だよ」
「奏こそ……かっこいい、と、思う」
チャペルでウエディングドレスに身を包む清香と、タキシード姿で微笑む奏。
──事の発端は数日前、街でカメラマンに声をかけられたことだ。
「お疲れ様」
「ありがとう」
奏が時々バイトしている書店からの帰り道、背後から突然声をかけられる。
「君たち、いいカップルだね!もしよかったら撮影させてもらえない?」
「え?」
清香がそんな反応を見せるのも無理はない。
だが、奏は特に何も感じていなかった。
よく男性と見間違えられ、撮影させてほしいと声をかけられたのも初めてではない。
「どうして僕たちなんですか?」
「ああ、突然声をかけてすまないね。あまりにいいカップルだったものだから、つい。
実はウエディングをテーマにしたコンテストがあって…。けど、俺は恋人いないから」
寂しそうに話す男性の左指には、しっかり指輪がはめられている。
「……お相手の方は、亡くなられたんですね」
「お、よく見てるな…。末期がんだったんだ。けど、彼女が俺の写真を楽しみにしてくれてると思ったら、撮らずにいられなくてね。
名前を出すことはないし、身バレしないように最大限配慮させてもらう。だから、俺のモデルになってもらえないかな?」
そんな話を聞いてしまっては、断るわけにもいかない。
ふたりは顔を見あわせ頷く。
「いいよいいよ、もっと幸せをイメージして…今の表情いいね!」
そして今日、ふたりは衣装やメイクを施され撮影に臨んでいる。
「次は向かい合ってみてくれるかな?」
「分かりました」
じっと見つめ合うふたりは、互いの美しさに緊張していた。
ぎこちない空気が流れたなか、先に動いたのは奏だ。
「……」
奏が柔らかく微笑みかけると、それにつられるように清香の表情も柔らかくなる。
「ありがとう!撮影はこれで終わりです」
「「ありがとうございました」」
奏にエスコートされ、清香は腕に捕まりながら緊張した面持ちで歩き出す。
ふたりが同じ更衣室に入っていくのを見て、カメラマンは驚きの声をあげた。
「え、もしかして女の子だったり……」
「すみません。そういえば言ってませんでしたね。僕、一応女子なんです。もしかして、コンセプトと合わなかったり…」
「いや、そうじゃないんだ。少し驚いたけど、本当に仲がいいんだね。
次の撮影があるから、先に今日のバイト代を渡させてくれ」
「「ありがとうございます」」
ふたりはお礼を言ってちらっと封筒の中を見る。
そこには予想外の札束が入っていた。
「こんなにいただけません」
「そうです、僕たち素人だし…」
「いいんだ。君たちの笑顔を見ていて、妻のことを思い出したよ。本当にありがとう。
…そうだ、もし何かあればここに連絡してくれ。俺でよければ力になるよ。またモデルをお願いするかもしれないけど、そのときはまた受けてもらえると嬉しいな。それじゃあ!」
長谷部レンと書かれた名刺にはメールアドレスと電話番号が書かれていて、カメラマンは慌ただしく次の現場へ行ってしまった。
衣装を脱ぐ前に、周りの人にお願いして少しだけふたりきりの時間を作ってもらう。
「まさかこんなことになるとは思わなかったな…」
「そうだね。だけど、いつか僕たちも本物の式を挙げられる日がくるかもしれないから、今日はいい練習になった」
「本当の、式…」
清香はぽっと頬を赤らめる。
そんな花嫁の姿に奏はどきどきして、思いをぶつけるように手の甲に口づけた。
「か、奏…!」
「いいでしょ?それから、これは約束の証」
実は最近奏はシフトを多めに入っていた。
それは、清香にペアリングをプレゼントするためで。
「これのために、ずっと…?」
「なかなか一緒にいられる時間がなくてごめんね」
「ううん。ありがとう。すごく嬉しい」
「……いつか、本物の式を用意するね」
「そのときはふたりきりがいいな」
ふたりが本当の恋仲だとは誰も知らない。
互いに衣装を片づけながら、ふたりだけの約束を思いかえす。
誰からも祝福されなくていい、ふたりで結ばれればそれでいいと。
帰り道、ふたりの心はとても晴れやかなものだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バニストでウエディングものを綴ってみました。
「奏こそ……かっこいい、と、思う」
チャペルでウエディングドレスに身を包む清香と、タキシード姿で微笑む奏。
──事の発端は数日前、街でカメラマンに声をかけられたことだ。
「お疲れ様」
「ありがとう」
奏が時々バイトしている書店からの帰り道、背後から突然声をかけられる。
「君たち、いいカップルだね!もしよかったら撮影させてもらえない?」
「え?」
清香がそんな反応を見せるのも無理はない。
だが、奏は特に何も感じていなかった。
よく男性と見間違えられ、撮影させてほしいと声をかけられたのも初めてではない。
「どうして僕たちなんですか?」
「ああ、突然声をかけてすまないね。あまりにいいカップルだったものだから、つい。
実はウエディングをテーマにしたコンテストがあって…。けど、俺は恋人いないから」
寂しそうに話す男性の左指には、しっかり指輪がはめられている。
「……お相手の方は、亡くなられたんですね」
「お、よく見てるな…。末期がんだったんだ。けど、彼女が俺の写真を楽しみにしてくれてると思ったら、撮らずにいられなくてね。
名前を出すことはないし、身バレしないように最大限配慮させてもらう。だから、俺のモデルになってもらえないかな?」
そんな話を聞いてしまっては、断るわけにもいかない。
ふたりは顔を見あわせ頷く。
「いいよいいよ、もっと幸せをイメージして…今の表情いいね!」
そして今日、ふたりは衣装やメイクを施され撮影に臨んでいる。
「次は向かい合ってみてくれるかな?」
「分かりました」
じっと見つめ合うふたりは、互いの美しさに緊張していた。
ぎこちない空気が流れたなか、先に動いたのは奏だ。
「……」
奏が柔らかく微笑みかけると、それにつられるように清香の表情も柔らかくなる。
「ありがとう!撮影はこれで終わりです」
「「ありがとうございました」」
奏にエスコートされ、清香は腕に捕まりながら緊張した面持ちで歩き出す。
ふたりが同じ更衣室に入っていくのを見て、カメラマンは驚きの声をあげた。
「え、もしかして女の子だったり……」
「すみません。そういえば言ってませんでしたね。僕、一応女子なんです。もしかして、コンセプトと合わなかったり…」
「いや、そうじゃないんだ。少し驚いたけど、本当に仲がいいんだね。
次の撮影があるから、先に今日のバイト代を渡させてくれ」
「「ありがとうございます」」
ふたりはお礼を言ってちらっと封筒の中を見る。
そこには予想外の札束が入っていた。
「こんなにいただけません」
「そうです、僕たち素人だし…」
「いいんだ。君たちの笑顔を見ていて、妻のことを思い出したよ。本当にありがとう。
…そうだ、もし何かあればここに連絡してくれ。俺でよければ力になるよ。またモデルをお願いするかもしれないけど、そのときはまた受けてもらえると嬉しいな。それじゃあ!」
長谷部レンと書かれた名刺にはメールアドレスと電話番号が書かれていて、カメラマンは慌ただしく次の現場へ行ってしまった。
衣装を脱ぐ前に、周りの人にお願いして少しだけふたりきりの時間を作ってもらう。
「まさかこんなことになるとは思わなかったな…」
「そうだね。だけど、いつか僕たちも本物の式を挙げられる日がくるかもしれないから、今日はいい練習になった」
「本当の、式…」
清香はぽっと頬を赤らめる。
そんな花嫁の姿に奏はどきどきして、思いをぶつけるように手の甲に口づけた。
「か、奏…!」
「いいでしょ?それから、これは約束の証」
実は最近奏はシフトを多めに入っていた。
それは、清香にペアリングをプレゼントするためで。
「これのために、ずっと…?」
「なかなか一緒にいられる時間がなくてごめんね」
「ううん。ありがとう。すごく嬉しい」
「……いつか、本物の式を用意するね」
「そのときはふたりきりがいいな」
ふたりが本当の恋仲だとは誰も知らない。
互いに衣装を片づけながら、ふたりだけの約束を思いかえす。
誰からも祝福されなくていい、ふたりで結ばれればそれでいいと。
帰り道、ふたりの心はとても晴れやかなものだった。
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バニストでウエディングものを綴ってみました。
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