1,871 / 1,897
物語の欠片
ホリゾンブルーのきらめき・後篇(ブラ約)
しおりを挟む
「早く探さないと」
その場から駆け出そうとしたリーゼをリリーが制止する。
「闇雲に探しても分からないよ。まずは状況の把握が先だ」
「でも、陽和は人間が苦手なのに…どうしよう、早く見つけないと」
「落ち着くんだ、リーゼ」
その言葉にはっとしたリーゼは、そもそも何故人間たちが突然こちら側に走り出したのか思考を巡らせる。
その答えはいたってシンプルなものだった。
「…銃声」
「そうだね。僕もそう思うよ」
「先に犯人から止めた方がよさそう」
「あんまり無理しないようにね。まあ、早く片づけてお嬢さんを探したい気持ちは分かるけど」
祭り会場のメインステージの上で、ひとりの男が息絶えている。
リーゼは周囲を確認した後、近くの茂みに突進した。
「…やったのはあなたね」
「な、なんで、」
「僕たちが分からないはずないだろう?」
リリーは小さく息を吸い、手のひらを相手に見せつけるように突き出す。
その直後、氷の壁ができあがった。
「ひ、ひい!」
「すまないが、おまえの相手をしている暇はない」
氷でできた細い剣をふり、スノウ・リリーは峰打ちをしかけた。
すっかり伸びてしまった犯人を置き去りにし、氷を完全に消し去る。
「それでは、お嬢さんを探しに行こうか」
「多分こっち」
「もしかして、お守りでも渡したのかな?」
「…そんなところ」
リーゼは気配を察知するのも得意だ。
特に陽和のことならすぐに探し当てられる。
小走りで向かうと、耳をふさいで震えている陽和が目に入った。
「陽和」
「あ、リーゼ…」
「もう大丈夫。…金魚、護ってくれてありがとう」
「わ、私…」
「もう心配しなくていい。早く家に帰ろう」
リーゼはまだ少し落ち着かない様子の陽和を横抱きにし、ゆったりした声で語りかけた。
「今は少し寝てて。怖いものを見なくてすむから」
陽和が寝息をたてはじめたのを確認して、両足に力を入れる。
「事件の処理は僕がやっておく。…一連の事件と関係がありそうだしね」
「お願い」
リーゼは素早く飛び去り、森の奥へ引っこむ。
「…深刻だな」
リリーは遺体の側まで戻ると、大きな溜め息を吐く。
その死体には小さな噛み跡のようなものがあった。
「……ん、リーゼ?」
「ごめんなさい。起こすつもりじゃなかった」
金魚鉢の中を元気に泳ぐ2匹を見て、陽和はとても嬉しそうにそれを眺める。
「よかった。元気がなくなったらどうしようと思っていたんです。でも、結局迷惑を、」
「あれは事故。迷惑なんて思ってない」
リーゼの瞳は真っ直ぐ陽和をとらえ、その体をゆっくり抱きしめる。
「無事でよかった…」
陽和はどうすればいいのか分からず、されるがままになる。
もう二度とそのぬくもりを手放したくない…そんな事を考えながら、リーゼは抱きしめる腕に少し力を入れた。
深夜2時、陽和がぐっすり眠ったところでクロウを呼ぶ。
「お願い。この手紙をリリーに届けて」
飛び去っていくクロウを見送り、リーゼは自らの手首を見つめる。
そこに刻まれた消えない傷痕をさすりながら、陽和が楽しく過ごせるようにと買っておいた線香花火を取り出す。
明日にでもやってしまおう…ラムネ瓶を傾けているうちに夜はふけていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リリーの戦闘能力に、リーゼの陽和に対する強い想い…。
夏の終わりに、前後篇でほっこりと不穏が混ざった話にしてみました。
その場から駆け出そうとしたリーゼをリリーが制止する。
「闇雲に探しても分からないよ。まずは状況の把握が先だ」
「でも、陽和は人間が苦手なのに…どうしよう、早く見つけないと」
「落ち着くんだ、リーゼ」
その言葉にはっとしたリーゼは、そもそも何故人間たちが突然こちら側に走り出したのか思考を巡らせる。
その答えはいたってシンプルなものだった。
「…銃声」
「そうだね。僕もそう思うよ」
「先に犯人から止めた方がよさそう」
「あんまり無理しないようにね。まあ、早く片づけてお嬢さんを探したい気持ちは分かるけど」
祭り会場のメインステージの上で、ひとりの男が息絶えている。
リーゼは周囲を確認した後、近くの茂みに突進した。
「…やったのはあなたね」
「な、なんで、」
「僕たちが分からないはずないだろう?」
リリーは小さく息を吸い、手のひらを相手に見せつけるように突き出す。
その直後、氷の壁ができあがった。
「ひ、ひい!」
「すまないが、おまえの相手をしている暇はない」
氷でできた細い剣をふり、スノウ・リリーは峰打ちをしかけた。
すっかり伸びてしまった犯人を置き去りにし、氷を完全に消し去る。
「それでは、お嬢さんを探しに行こうか」
「多分こっち」
「もしかして、お守りでも渡したのかな?」
「…そんなところ」
リーゼは気配を察知するのも得意だ。
特に陽和のことならすぐに探し当てられる。
小走りで向かうと、耳をふさいで震えている陽和が目に入った。
「陽和」
「あ、リーゼ…」
「もう大丈夫。…金魚、護ってくれてありがとう」
「わ、私…」
「もう心配しなくていい。早く家に帰ろう」
リーゼはまだ少し落ち着かない様子の陽和を横抱きにし、ゆったりした声で語りかけた。
「今は少し寝てて。怖いものを見なくてすむから」
陽和が寝息をたてはじめたのを確認して、両足に力を入れる。
「事件の処理は僕がやっておく。…一連の事件と関係がありそうだしね」
「お願い」
リーゼは素早く飛び去り、森の奥へ引っこむ。
「…深刻だな」
リリーは遺体の側まで戻ると、大きな溜め息を吐く。
その死体には小さな噛み跡のようなものがあった。
「……ん、リーゼ?」
「ごめんなさい。起こすつもりじゃなかった」
金魚鉢の中を元気に泳ぐ2匹を見て、陽和はとても嬉しそうにそれを眺める。
「よかった。元気がなくなったらどうしようと思っていたんです。でも、結局迷惑を、」
「あれは事故。迷惑なんて思ってない」
リーゼの瞳は真っ直ぐ陽和をとらえ、その体をゆっくり抱きしめる。
「無事でよかった…」
陽和はどうすればいいのか分からず、されるがままになる。
もう二度とそのぬくもりを手放したくない…そんな事を考えながら、リーゼは抱きしめる腕に少し力を入れた。
深夜2時、陽和がぐっすり眠ったところでクロウを呼ぶ。
「お願い。この手紙をリリーに届けて」
飛び去っていくクロウを見送り、リーゼは自らの手首を見つめる。
そこに刻まれた消えない傷痕をさすりながら、陽和が楽しく過ごせるようにと買っておいた線香花火を取り出す。
明日にでもやってしまおう…ラムネ瓶を傾けているうちに夜はふけていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リリーの戦闘能力に、リーゼの陽和に対する強い想い…。
夏の終わりに、前後篇でほっこりと不穏が混ざった話にしてみました。
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる