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物語の欠片
バニラと神社とストロベリー(バニスト)※百合表現があります。
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『先生、ありがとうございました』
「お疲れ様でした。次はこの日になるけど大丈夫かな?」
『はい!』
にこにこしている間に画面が真っ暗になる。
「努力家だね」
「うん。あの子は真面目に話を聞いてくれるからやりやすい」
清香は生活のための仕事として、子どもと関われるよう家庭教師を選んだ。
高校生の彼女が主に教えているのは小中学生たちだが、時折通信制高校に通う生徒たちの勉強を見ることもある。
「手を焼いてる生徒さんもいるの?」
「細かいことは言えないけど、みんないい人たちだよ。こうやってリモート授業でも質問したり、宿題もちゃんと提出してくれるし…。
強いて言うなら、どうコミュニケーションをとるのがいいか分からない生徒さんならいる、かな」
部屋に入られたくないという生徒がいるとの声を受け、登録サイト経由でリモート授業対応をはじめたのはつい最近のことだ。
奏は時折清香の授業を聞きながら食事の用意をしているが、プライバシーの問題があるためできるだけ部屋に入らないようにしている。
それでも、清香が戸惑っている様子を察知する能力は相変わらずだ。
「何かあったんじゃない?」
「それは、まあ…。不登校の生徒さんが何人かいるんだけど、会話が続かないんだ。
何を話したらいいか分からなくて、相手を傷つけないか心配になる」
清香が真剣に悩む様子を見て、奏はふっと微笑み手を差し出した。
「ご飯を食べ終わったらちょっとつきあってくれない?行きたい場所があるんだ」
「なんで神社?」
「初詣、行けてなかったでしょ?ついでに願掛けしたら何かしらいいことがおきるかもしれないよ」
「あ……」
清香は理解した。奏は昔のことを思い出して話しているのだと。
『ここのお守り、効果抜群なんだって』
『……そう、なんだ。僕がほしいもの、あるかな…』
『ならこれあげる。この神社に祀られているお狐様が危険なことから護ってくれるんだって』
『可愛い…。僕も買おうかな。でも、どうして今日ここに連れ出してくれたの?』
『それはね──』
「なんでもないことで笑顔になれたら、それが1番素敵なことだって言ってたでしょ?
だったら、清香が食べた美味しいものの話とか、どんな事があったかを話してみるのはどうかな?…あの頃みたいに」
奏は中学時代、一時期不登校になっていた。
そんな彼女を暗闇から引きあげたのが清香だ。
学校帰り毎日家に立ち寄り、冬休みの夜神社へ行こうと外の世界へ連れ出した。
「あの頃か…。そうだね、やってみる」
「今年もお守り買って帰ろう」
「うん。…ねえ、奏」
「どうかし──」
ふたりの唇が一瞬ふれあい、頬を赤らめた清香が小さく呟く。
「ありがとう。これからもずっと一緒にいようね」
「勿論!でも…清香、今のはちょっと狡いよ」
「そ、そうだった?」
「でも、なんだか心まで温まった気がする」
毎年お守りを供養してもらい、同じ種類のものをいただいて帰る。
ふたりの息はぴったりで、互いに微笑みながら帰路を急ぐ。
──後日、清香から少し話せたと喜びの報告が入ったのはまた別の話。
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バニストで綴ってみました。
「お疲れ様でした。次はこの日になるけど大丈夫かな?」
『はい!』
にこにこしている間に画面が真っ暗になる。
「努力家だね」
「うん。あの子は真面目に話を聞いてくれるからやりやすい」
清香は生活のための仕事として、子どもと関われるよう家庭教師を選んだ。
高校生の彼女が主に教えているのは小中学生たちだが、時折通信制高校に通う生徒たちの勉強を見ることもある。
「手を焼いてる生徒さんもいるの?」
「細かいことは言えないけど、みんないい人たちだよ。こうやってリモート授業でも質問したり、宿題もちゃんと提出してくれるし…。
強いて言うなら、どうコミュニケーションをとるのがいいか分からない生徒さんならいる、かな」
部屋に入られたくないという生徒がいるとの声を受け、登録サイト経由でリモート授業対応をはじめたのはつい最近のことだ。
奏は時折清香の授業を聞きながら食事の用意をしているが、プライバシーの問題があるためできるだけ部屋に入らないようにしている。
それでも、清香が戸惑っている様子を察知する能力は相変わらずだ。
「何かあったんじゃない?」
「それは、まあ…。不登校の生徒さんが何人かいるんだけど、会話が続かないんだ。
何を話したらいいか分からなくて、相手を傷つけないか心配になる」
清香が真剣に悩む様子を見て、奏はふっと微笑み手を差し出した。
「ご飯を食べ終わったらちょっとつきあってくれない?行きたい場所があるんだ」
「なんで神社?」
「初詣、行けてなかったでしょ?ついでに願掛けしたら何かしらいいことがおきるかもしれないよ」
「あ……」
清香は理解した。奏は昔のことを思い出して話しているのだと。
『ここのお守り、効果抜群なんだって』
『……そう、なんだ。僕がほしいもの、あるかな…』
『ならこれあげる。この神社に祀られているお狐様が危険なことから護ってくれるんだって』
『可愛い…。僕も買おうかな。でも、どうして今日ここに連れ出してくれたの?』
『それはね──』
「なんでもないことで笑顔になれたら、それが1番素敵なことだって言ってたでしょ?
だったら、清香が食べた美味しいものの話とか、どんな事があったかを話してみるのはどうかな?…あの頃みたいに」
奏は中学時代、一時期不登校になっていた。
そんな彼女を暗闇から引きあげたのが清香だ。
学校帰り毎日家に立ち寄り、冬休みの夜神社へ行こうと外の世界へ連れ出した。
「あの頃か…。そうだね、やってみる」
「今年もお守り買って帰ろう」
「うん。…ねえ、奏」
「どうかし──」
ふたりの唇が一瞬ふれあい、頬を赤らめた清香が小さく呟く。
「ありがとう。これからもずっと一緒にいようね」
「勿論!でも…清香、今のはちょっと狡いよ」
「そ、そうだった?」
「でも、なんだか心まで温まった気がする」
毎年お守りを供養してもらい、同じ種類のものをいただいて帰る。
ふたりの息はぴったりで、互いに微笑みながら帰路を急ぐ。
──後日、清香から少し話せたと喜びの報告が入ったのはまた別の話。
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バニストで綴ってみました。
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