物置小屋

１人向け・慰め系

動き出す、光の道へ(優しい死神)

…こんばんは。突然ですが、君はあと1時間で寿命が尽きます。もし何かやり残したことがあるなら…どうしたの？
突然こんなことを言われて動揺しているんだと思うけど、こうやって死を告げるのが僕の仕事なんだ。
…嬉しい？大半の人間は生きたいって願うのに、君は静かな死を望んでいるのか…。
やりたいこともないの？分からない？自分のことなのに？
…それは、君の想いを受け取ろうとした人が誰もいなかったから？
踏みにじられて、苦しくなって…そのまま蓋をしてしまったんだね。
そうして君は、いつもにこにこすることにしたんだ。
だけど、似たような日々を過ごすうちに本当の自分が見えなくなってしまった…といったところか。
きっと誰も知らないところで沢山苦しんだんだろうね。
…君の持ち物、見てもいい？これは…君、自分の夢を忘れてしまっていたんだね。
見て、このスケッチブック。沢山の洋服が描かれてる。
どこを縫うとか、そういう細かいのもある。…君は、洋服を作りたかったんじゃないかな。
1時間では難しいだろうけど、もっと洋服を描くことはできる。
いつか君が作った服を着る人たちの笑顔を想像してみて。
心から幸せそうにしている人たちの表情が分かれば描けると思う。
ハンカチ？持ってるけど…いいよ。好きなように使って。

…もうすぐ時間だ。さっきより増えてる…上手くいったみたいでよかった。
もう誰かに殴られたり、言葉で刺されたりすることもない。
これからは君自身が笑顔でいられる場所を見つけて。
…そろそろ行こうか。最後のお願い？何をすればいい？
握手…こう？やっと作り笑いじゃない君の顔が見られた。
それじゃあ、いってらっしゃい。


…個人の意思を捻じ曲げる人間って、何が楽しくてそんなことをするんだろう。
まさかあの短い時間でハンカチに刺繍を入れていたなんて気づかなかった。
…彼女が本当の自分のままでいられる世界で幸せになりますように。
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優しい死神の話にしました。