物置小屋

黒蝶

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物語の欠片

ギャルが筋肉で解決する話(pixivに投稿したものです)

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「……それで、あいつか?」
「はい。間違いありません」
ふたりの男の目の前にいるのは、ひとりの女子学生。
「……本当に間違いないんだな?」
「はい」
男たちは焦ったような表情をしているが、それは一瞬のことだった。
「ひったくりよ!誰か捕まえ、」
学生は持っていた鞄をその場に放りだし、すぐに走り出した。
「いててて!」
「こそ泥とか最低。鞄返しな」
「は、はい!すみませんでした!」
犯人の男は走って逃げていき、女性は呆気にとられている。
少女は取り返した鞄を手渡した。
「えっと……お姉さん?鞄を持ってきました」
「あ、ありがとうございます!」
少し離れた場所で見ていたふたりの男は小声で話す。
「……ね?いい腕だったでしょう?」
「ああ。そうだな。しかし、いきなり声をかけるというのは……」
「おじさんたち、さっきから何?」
聞こえてきた声にぎくりとする。
少女は怪訝そうな表情で男たちを見つめていた。
「さっきの見てたなら、警察呼ぶとかしてほしかったな……」
「それは申し訳ない。実は、あなたに頼みがあってきたのです」
「頼み?」
きらきらのネイルに、風になびく金髪。
一見ただの女子高生だが、彼女の強さはそこそこ知られている。
「取り敢えず、俺たちについてきてもらおうか」


辿り着いたのは、少女が知らない場所。
「器具がいっぱい……!」
「筋トレし放題だろう」
「あたしが使っていいの?」
「ご自由にどうぞ」
懸垂したりランニングマシーンで疾走したり……少女はとにかく楽しんだ。
「おまえ、名前は?」
「彩。……そう名乗ることにしてる」
「俺はレクト。そっちはライトだ」
「ふたりともハーフさん?」
「いえ。いわゆるキラキラネームというやつです」
兄弟の話によると、ジムをやっているが他のジムと別の何かを習えるトレーニングルームを作りたかったらしい。
だが、なかなか案が浮かばず……。そんななか、偶然ライトが彩を見かけたらしい。
「優しい心を持ったあなたに、うちのジムに来る子どもたちを任せたいのです。
勿論、細かいところは俺たちが支えます。お願いできませんか?」
「なんであたし?」
「あなたはこの間も人助けをしていたでしょう?おばあさんの荷物を片手で持ったり、迷子になった外国人の親子の案内をしながら子どもをおぶったり……」
「そういえば、そんなこともあったかな」
「そんときにライトがおまえの腕を見たんだと。……すごい筋肉だな」
彩はと迷いながらも問いかける。
「こんな体の女、ひかない?」
「筋トレが趣味なのかもしれませんし、何か別の事情があるのかもしれません」
「ここにも時々訳アリの奴等が来るし、そんなの気にしない。……あ、訳アリって言ってもやばい奴らじゃないからな?」
兄弟はなんでもないことのように話すが、彩にとってそれは自身を肯定してくれる初めての場所だった。
「メニューとか考えればいいってこと?あたしができるの護身術程度だし……」
「ここに来る初心者が楽しめるメニューを考えてくれればいい。なんなら、好待遇で雇うし」
「好待遇?」
ライトが持ってきた内容は、とんでもないものだった。
「時給こんなにいいの!?」
「俺たちのメニューじゃきつすぎるって言われててな。あいつらの居場所作れるなら、いくらでも出す」
「俺たちでは思いつかないことでも、あなたならやってくれる気がしたんです。
……それに、うちのジムに来る子があなたに助けられたんです。これでお礼になるでしょうか?」
ふたりが彩を探していた理由は他にもあった。
行き場をなくした子どもが集まる場所でもあるのだが、そのうちのひとりが親から暴力をふるわれたのだ。
そこを助けたらしいのが彼女だった。
「おまえを見つけて渡すって約束したんだよ」
レクトから1枚の紙を渡される。
そこには、『おねえちゃんありがとう』の文字。
「あの子、無事だったんだ。よかった」
「俺たちの願いは、あの子たちの居場所を作ることです。お願いできませんか?」
「あたし、ただの高校生だよ?」
「だからこそです。俺たちよりあの子たちと年が近いですし……」
彩は少し迷ったが、いくつか条件を出した。
本名ではなく彩と呼んでほしいこと、読書や勉強できる部屋を作ること、メニューを考えるのもそうだがボディーガード代わりにしてほしいこと……。
条件を聞き、兄弟は結論を出した。
「ぜひお願いします」
「まあ、名目ボディーガードじゃまずいから事務員としてきてもらうけどな」
「え?経理とか分からないから、名ばかり事務員になっちゃうよ!?」
「それで大丈夫です」
「俺たち経営の勉強はしてたから、経理もちゃんと分かってる」
「また明日来てください。さっきの場所まで送っていきます」
「分からなかったらここに連絡してくれ」
そうして、流されるまま事務員になった。
──翌日の夕方。
「こんばんは」
「は?え?」
「これはこれは……」
黒髪眼鏡の少女が頬を赤らめる。
「私、いわゆる休日ギャルなんだ。昨日は結構偉そうにしてたけど、その……勉強は心配しなくて大丈夫。
お給料が出るなら無闇矢鱈にバイトを探さなくていいし、テスト終わりの来週からはこっちの仕事に専念できるから、経理のことも教えてください」
頭を下げた少女を前に兄弟は頷きあう。
「履歴書には本名を書いてくださいね」
「親の連絡先とか、そういうのはいいからさ」
「ありがとうございます」
ライトに経理のことを教えてもらいながら、レクトの特訓メニューを一緒にこなしていく。
この少女にも何か事情があるようだが、兄弟はそんなことは気にしていない。
「全員集合!今週からちょっとルールが変わったから聞いていってくれ。それと、新しい事務員さんから挨拶が……」
そうして、新たなトレーニングの日々がはじまるのだった。
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みんなの感想(5件)

2021.08.18 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2021.08.19 黒蝶

こんにちは。はじめまして。
コメントありがとうございます。
今のところ終着点もなく続ける予定ですので、お楽しみいただけましたら幸いです。
場合によってはリクエストも受け付けますので、読んでみたい話があれば教えてください。

解除
2020.02.13 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2020.02.13 黒蝶

こんばんは。はじめまして。
『恩返し返し』への感想、ありがとうございます。
また、楽しんでいただけたようでとても嬉しいです。

リクエストの方は...折角いただいたものですが、今回のものは受けられません...。
理由は、
・今の私の実力では不可能であること
・『12歳で泣く泣く手放し...』という点が書く内容によっては規約に抵触する可能性があること
・家族愛というものがよく分からないので、下手をすれば最悪のできになる可能性があること
・お産というものを充分に理解していないこと
です。
折角リクエストしていただいたのに断る形となってしまい申し訳ありません...。

感想ありがとうございました。
リクエストの方も、もしかすると別のものなら書けるものがあるかもしれませんので、他に読みたい内容があれば教えていただけると嬉しいです。

解除
MJ
2018.12.23 MJ

こんにちは。
なんだか不思議な感じがするなと思ったら、セリフなんですね。
セリフだけでこんなに気持ちが伝えられるって凄いなと思いました。

女性はこういう事を求めてるのかなとちょっと感じたりして読ませて頂きました。

あと、私はセリフ入れるのが苦手なので(躊躇してしまう)すごく勉強になりました。

2018.12.23 黒蝶

松本 潤さん、こんにちは。

ここは台本置き場、台本を必要としている方々に使っていただければいいなと思い作った場所です。
同時に、私の物語の表現を練習する場所でもあります。
最後の方にちらっとリクエスト小説も書いていますが、大抵は台本です。
表現の参考になったのなら光栄です。
ただ...私は普通の人たちと感覚とずれているので、もしかすると世の中の女性たちが求めているものは全く違うのかもしれません。
ごめんなさい。

解除

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