皓皓、天翔ける

黒蝶

文字の大きさ
41 / 236
第6章『護り方』

閑話『恋文』

しおりを挟む
翌日、早速手紙を届けに向かうとまだ葬儀の最中だった。
「可哀想に…まだ若いのにねえ」
「犯人は捕まったらしいけど、別の子も襲おうとしてたんだろう?最近治安悪くなってきたな…」
それが終わるのを確認して、ひとり落ちこむ人物に駆け寄る。
「こんにちは。山本深雪さんでしょうか?」
「そうですけど、あなたは一体…」
「中谷麻友さんからお手紙です」
「冗談でそういうことを言うのは、」
「私は至って本気です」
封筒に書かれた文字を見て、山本深雪はようやく納得したようだ。
不思議そうな顔をしながら封を切る。

【みゆへ

私はみゆの笑顔が好きです。初めて会ったときからずっと、みゆだけは私と対等に接してくれて嬉しかったよ。
複雑な家庭環境っていうのもあって、腫れ物扱いされることも多かったけど…みゆが笑ってくれればそれだけで幸せです。
指輪は近々家に届くはずです。私のことを忘れてもいいから、これからも幸せになってね。
どれだけ離れていても、ずっと一緒だよ】

「麻友…恨み言ひとつ書かないのがあの子らしい……」
手紙を強く抱きしめ、ぽたぽたと涙を零す。
「犯人は捕まったけど、私の恋人は返ってこない。私のせいなのに、麻友がいないなら捕まっても意味がない。
…私、これからどうすればいいんでしょうか」
見ているだけで分かる。
恐らく彼女は後を追おうとしていて、このまま放っておくことはできない。
「…中谷麻友さんは、あなたに笑顔で生きていてほしいと願っています。
立ち止まって考える時間も必要ですが、彼女が望まない方向に進めばふたりとも苦しむことになります」
「それは、」
「あなたの幸せを願う姿を、少しで構わないので思い出してあげてください。…それでは、私はこれで失礼します」
最終的にどうするか決めるのは山本深雪自身だ。
ただ、中谷麻友のことを本気で想っているのならどうするかはもう決まっているだろう。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
偶然ぶつかった子どもを撫で、飴を渡しながらぼんやり考える。
星影氷空は泣きながら言った。
中谷麻友は最後まで大切な人を護りたくて動いた人だったのだと。
「おにいさん、ありがとう」
「どういたしまして」
「ゆうや、行くぞ」
「おにいさん、さよなら」
手をふって別れた後、冷たい風が背中に当たる。
「…どうしてそんなことを知ってるんだ」
星影氷空には何か秘密がある。
確証があるわけではないが、死者について知りすぎているのだ。
データにない情報を掴む何か……
「…何考えてるんだ」
小さく呟きながら、すれ違う人間に会釈する。
──死の香りを感じながら。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】

naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。 舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。 結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。 失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。 やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。 男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。 これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。 静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。 全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。

処理中です...