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第23章『凍えそうな季節から』
第135話
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《手紙…》
少年はそう呟いた後、真っ直ぐ目を見て言った。
《最後の手紙、書かせてください。愛菜に想いを伝えておきたいんです》
「かしこまりました。すぐに便箋を準備いたします」
氷雨君がいてくれなかったら、きっと彼を笑顔にすることはできなかっただろう。
やっぱりすごいな…なんて思いながら、カフェオレのおかわりとちょっとしたお菓子をサーブした。
《あ、あの…できました》
「確かにお預かりしました」
《あ、あああの!》
降りていくところを見送ろうとしたところで、きゅっと袖を掴まれる。
「どうかされましたか?もしかして、何か失礼なことを…」
《いえ、そうではなくて…ありがとうございました》
どうして少年にお礼を言われたのか分からない。
私はただ、私ができる限りのことをやっただけだ。
「お礼を言われるようなことは、何もできていません」
《そんな事ありません。俺にとって、あなたがかけてくれた言葉は救いだったから…。本当にありがとうございます》
そんな言葉を笑顔でかけられてしまったら、泣いてしまいそうだ。
「…どうか、よい旅を」
《はい》
少年が去っていくと同時に列車の扉が閉まる。
少ししんみりしてしまうのは、自分に似ているからだろうか。
「…今日の接客」
「もしかして、やっぱり問題があった?」
「いや。寧ろいつも以上に感情移入しすぎて辛そうだと思った。
相手の気持ちに寄り添えるのは大切なことだけど、物語を読む感覚で聞いた方がいいこともある」
「氷雨君は、そうやって慣れたの?」
「…まあ、長年やってるとそうなった。善意を持った人間ばかりじゃないから、自分が苦しくなることもある」
座席の掃除をしながら放たれた言葉は、決して冷たいものではなかった。
「氷雨君は、苦しくならないの?」
「なるときもあるけど随分減った。相手するお客様の数が多すぎて、気にしている暇がない」
…それもそうか。
氷雨君はリーダーだから、忙しく働いていたはずだ。
それに、彼は自分が人間じゃないと言った。
もしかすると、私が知らない時間も仕事をしているのかもしれない。
そういえば、どれくらい前から車掌さんをやっているんだろう。
「氷雨君は、いつから車掌さんなの?」
「それは──」
もっと話を聞きたいのに、頭が割れそうなくらい痛い。
それに、なんだかものすごく寒く感じた。
「…寒いの?」
その問いかけに頷くだけでせいいっぱいだった。
「…いつかちゃんと話す。でも、今はちゃんと温まって」
その言葉を最後に、暗闇にひとり落ちていった。
少年はそう呟いた後、真っ直ぐ目を見て言った。
《最後の手紙、書かせてください。愛菜に想いを伝えておきたいんです》
「かしこまりました。すぐに便箋を準備いたします」
氷雨君がいてくれなかったら、きっと彼を笑顔にすることはできなかっただろう。
やっぱりすごいな…なんて思いながら、カフェオレのおかわりとちょっとしたお菓子をサーブした。
《あ、あの…できました》
「確かにお預かりしました」
《あ、あああの!》
降りていくところを見送ろうとしたところで、きゅっと袖を掴まれる。
「どうかされましたか?もしかして、何か失礼なことを…」
《いえ、そうではなくて…ありがとうございました》
どうして少年にお礼を言われたのか分からない。
私はただ、私ができる限りのことをやっただけだ。
「お礼を言われるようなことは、何もできていません」
《そんな事ありません。俺にとって、あなたがかけてくれた言葉は救いだったから…。本当にありがとうございます》
そんな言葉を笑顔でかけられてしまったら、泣いてしまいそうだ。
「…どうか、よい旅を」
《はい》
少年が去っていくと同時に列車の扉が閉まる。
少ししんみりしてしまうのは、自分に似ているからだろうか。
「…今日の接客」
「もしかして、やっぱり問題があった?」
「いや。寧ろいつも以上に感情移入しすぎて辛そうだと思った。
相手の気持ちに寄り添えるのは大切なことだけど、物語を読む感覚で聞いた方がいいこともある」
「氷雨君は、そうやって慣れたの?」
「…まあ、長年やってるとそうなった。善意を持った人間ばかりじゃないから、自分が苦しくなることもある」
座席の掃除をしながら放たれた言葉は、決して冷たいものではなかった。
「氷雨君は、苦しくならないの?」
「なるときもあるけど随分減った。相手するお客様の数が多すぎて、気にしている暇がない」
…それもそうか。
氷雨君はリーダーだから、忙しく働いていたはずだ。
それに、彼は自分が人間じゃないと言った。
もしかすると、私が知らない時間も仕事をしているのかもしれない。
そういえば、どれくらい前から車掌さんをやっているんだろう。
「氷雨君は、いつから車掌さんなの?」
「それは──」
もっと話を聞きたいのに、頭が割れそうなくらい痛い。
それに、なんだかものすごく寒く感じた。
「…寒いの?」
その問いかけに頷くだけでせいいっぱいだった。
「…いつかちゃんと話す。でも、今はちゃんと温まって」
その言葉を最後に、暗闇にひとり落ちていった。
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