皓皓、天翔ける

黒蝶

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第29章『ささやかな願い』

閑話『行商』

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「パーカー、もう脱いでいいよ」
「あ、うん…」
星影氷空はやはり寂しそうにしている。
身近な人間をなくしたばかりというのもあるだろうが、宇佐見勇次郎とは少し長い期間関わったからだろう。
「一緒に来て」
「どこに行くの?」
「行けば分かる」
こんなとき、俺にできることはひとつだけだ。
《いらっしゃいませ》
彼女が人間だと知られれば面倒なことになる。
そのため、いつもより若干厚い加護をかけた。
《…おや、今宵は可愛らしいお客様連れですか。珍しいこともあるものですね》
「茶化さず品物を見せていただけませんか?…あなたがいるとゆっくり選ぶこともできなさそうですが」
《それはそれは…。私は向こうで一服してきますので、その間好きに手にとってください》
妖が去った後、彼女に商品を見て見るよう勧める。
「すごい。全部きらきらしてる…」
「職人技が光ってる。今年はいい職人が作ってるみたいだ」
「そういうのも見ただけで分かるの?」
「去年は材料不足だったうえに、人員不足でいつもと違う職人が作っていたから歪んだり欠けたりしてた」
彼女が喜んでいるならそれでいい。
「何か欲しいものは見つかった?」
「あ…ううん。見られただけで充分」
彼女は分かりやすく遠慮する。
だから、もうすでに目星はつけていた。
《お決まりですか?》
「こちらをいただけますか?」
夜空や猫がモチーフになっているものを好んで使っているようだが、今回のものは少し違う。
はたして気に入ってもらえるだろうか。
《まいど。ありがとうございました》
「綺麗だね」
「硝子の花っていうんだ。見た目は似ているけど、本物のガラスを使っているわけじゃない」
「え、そうなの?」
「動かないで」
小さめのブローチを彼女の胸元につけ、両手をかざす。
一瞬だけ光ったが、何事もなかったようにただ光を乱反射している。
「あの…」
「今回の件のお礼も兼ねて。あと、少しだけ特殊な加護をかけておいた」
「え……本当によかったの?」
「もらってくれないと意味がない」
加護をかけるのに若干力を削ったが、そんなことはどうでもいい。
彼女は危うすぎる。
「今回みたいなことになっても魅入られにくくする系統の、おまじない程度のものをかけただけだから」
「ごめ、あ、えっと…ありがとう」
「…気に入ったならよかった」
贈り物なんて長年したことがない。
それなりのものならあるが、彼女のようなよく分からない関係性の存在はおそらく初めてだ。
あまり謝らなくなった彼女を見ていると、少しだけ安心する。
この感覚は一体なんなんだろう。
「氷雨君は欲しいものなかったの?」
「俺はいい。装飾品にはあまり興味がないから」
「そうなんだ…」
透明な花のブローチが鈍く光るのを一瞥して、そのまま仕事に突入する。
「今夜もよろしく」
「こちらこそ」
車両を見つめていると、なんとなく思い出す。
【何のために夜空を駆け抜けているの?】
…その答えは、見つかったのか見つかっていないのか。
どちらにせよ、今夜の車両は少々厄介なことになるだろう。
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