皓皓、天翔ける

黒蝶

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第30章『満たされない感情』

第176話

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「おまたせしました。バナナシェイクです」
《ありがとうございます。いただきます。…わ、すごく甘い》
「お好みではありませんでしたか?」
《寧ろ逆です。よく有ちゃんが作ってくれるのと味が似てて…》
「本当に仲良しさんなんですね」
少女ははっとした様子だったけど、にっこり笑って話しはじめた。
《私、こういうアンティーク調というか、ゴスロリに近い格好が好きで…。初めてそれを肯定してくれたのが有ちゃんだったんです。
いつかふたりでお店を出そうって話しながら、この服装でできる洋服屋兼カフェのバイトをしています》
「そうなんですね。素敵な夢だと思います」
《ありがとうございます。私も有ちゃんもデザイナー志望で、お互いデザインを見せあっていました》
少女の表情はとても明るい。…いや、明るかった。
その後すぐ顔が曇ったのは見間違いではないだろう。
《だけど最近、モモっていう子が有ちゃんにつきまといはじめたんです。
はじめは仲良くなりたいんだと思っていたけど、そういうわけじゃなさそうで…》
「身の危険を感じたんですね」
《はい。私がいるときは私にだけ嫌がらせしてくるから耐えられたけど、有ちゃんに色々なことをされるのは許せませんでした。
有ちゃんが困っているからやめてって言ったのに、ストーカーまがいのことがエスカレートしてしまって…》
少女は悔しそうにコップを握りしめる。
ふたりが望んだのは平穏で、誰かを陥れるようなことじゃない。
それなのに、それさえ叶わなかったと考えると切なくなる。
《あ…すみません。こんなこと言われても困りますよね》
「いえ。あの…もっと話を聞かせていただけませんか?」
《面白い話じゃないですよ?》
「いいんです。あなたのことを知りたいので」
バナナシェイクのおかわりを作っている間も、少女は言葉を選ぶように少しずつ話してくれた。
《有ちゃんとは学校が別だし、私だけが知ってる秘密もあったからふたりでいる時間を増やすことを優先しました。
そうすれば有ちゃんが困る時間が減るんじゃないかって思って…。だけど、結局ふたりでバイトを辞めました》
「それは、嫌がらせが原因ですか?」
《それもありますが、店長が新しいお店を出すことになったんです。
私たちをスカウトしてくれた人だからついていこうって話になって、モモにはばれないように気をつけながら辞めました》
できあがったおかわりを渡すと、一口飲んで淡々と告げる。
《しばらくは平和だったんですけど、それが崩れる事件がおこったんです》
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