皓皓、天翔ける

黒蝶

文字の大きさ
上 下
211 / 236
第30章『満たされない感情』

第177話

しおりを挟む
少女は小さく息を吐いて静かに言う。
《…新店舗の場所が、モモに知られてしまったんです。偶然お店のサイトに載った写真に私が写ってたみたいで、いるに違いないから来たって…》
かなり粘着されていたのがよく分かる。
「それは大変でしたね…」
《その日はまたまた有ちゃんが休んでいたし、店長も事情を知っていたから上手く誤魔化しました。
だけどそれから嫌がらせメールの頻度が増えたり、帰り道で視線を感じるようになって…正直参ってます》
少女はかなり疲れ切っていて、話すのも苦しそうだ。
「あ、あの…もしよろしければ何か召し上がられませんか?気分転換になると思うんです」
《それなら、ミルクレープをお願いします。…モモにつけまわされる前、有ちゃんと帰り道によく立ち寄っていたお店で食べていたから》
「かしこまりました。すぐにご用意します」
連絡して顔をあげると、少女の手に大きな傷があることに気づく。
「あの…その傷はどうされたんですか?」
《あ、これは火傷の痕です。やっとここまで治りました》
少女は困ったように笑いながら、傷ができた理由を話してくれた。
《帰り道、モモが突然襲いかかってきたんです。突然熱した鉄の棒みたいなもので殴られて…。
顔は見たけど、フードを目深にかぶっていて防犯カメラに顔が映っていなかったみたいなんです》
そこまで話して、ふっと息を吐いた。
《事情は聞くって言ってたけど、多分モモは上手く切り抜ける…。そんなことまでして有ちゃんを狙う理由が分かりません》
「仲良くなりたい、というふうには見えませんね」
《でしょ?私も有ちゃんもやめてって言ってるのに、いつまで逃げないといけないんだろう…》
少女はバナナシェイクをひと飲みして、大きく息を吐いた。
《私たちに関わらないでくれるなら、刑事罰とかそういうのは望みません。
何かおこってからじゃ遅いし、有ちゃんから笑顔が消えていくのが辛い。よく笑っていたのに、最近はぼんやりしていることが多くなりました》
「いつも近くで見ているからこそ分かること、ですね」
《そう言ってもらえると嬉しいです。有ちゃんは自慢の友だちだから》
少女はにっこり笑って、1冊のノートを見せてくれた。
《ふたりで完成させたデザインノートなんですけど、意見を聞いてもいいですか?》
ふりふりの服やゴスロリファッション、シンプルなものまで色々ある。
「私はシンプルなものを着るので、色々な種類の服を見られるのは嬉しいです。
自分用とは限らない小物も、可愛いものが沢山あって…選ぶのが楽しくなりそうです」
《本当ですか!?ありがとうございます》
どの洋服もきらきらしていて、見るだけでも楽しそうだ。
…ノートを見ただけで分かるから、胸が締めつけられた。
しおりを挟む

処理中です...