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第31章『雨の足音』
第185話
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《バンドメンバーのことを知ることはできませんか?私ともうひとりがボーカルだから、いなくても大丈夫だろうけど…。
メンバーのひとりが幼馴染で、自信をなくしていないか心配なんです》
「それでしたら、こちらをご覧ください」
氷雨君から手渡された姿見で、少女は自分の仲間たちの様子を知ることになった。
『小春がいないんじゃ意味がない!』
『冬香……』
『けど、それであいつが喜ぶと思うか?自分のせいでバンドがばらばらになりそうだって考えるんじゃないか?』
話をしている3人のうち、女性の背中をさすっていた少年が顔をあげた。
『身勝手かもしれないけど、僕も秋斗の意見に賛成だよ。僕たちがここで折れたら、小春が安心して休めない』
『夏鈴…』
『なんとなく分かるんだ。ずっと近くで見ていたから』
その人物は目に涙を浮かべながら、ブレスレットをつけた手を空へ向かって突きあげる。
『僕の名前をからかわずに、ずっと隣にいてくれた小春に恩返ししたいんだ。
そのために歌い続けたい。小春に届くかもしれないから。…僕の身勝手な願いだけど、ふたりともついてきてくれる?』
『まかせろ!』
『そうだね。いつも近くにいた夏鈴が言うなら、きっと…』
3人は楽器を手にそれぞれの位置につく。
『みなさんにお知らせがあります。…先日、ボーカルの小春が亡くなりました。詳しいことは言えませんが事件です。
これからも続けていくべきか迷いましたが、ひとまず今夜小春の冥福を祈って歌います。…みんな、ついてきてくれますか?』
観客席はざわざわしていたけど、最後の一言を聞いてわっと歓声があがった。
『ハルに届かそうぜ!』
『やっぱ4人で四季だし、これからもついていくよ』
『これからも応援する!』
そんな声があがるなか、バンドの音がはじまった。
「以上になります」
《そっか。夏鈴もちゃんと立ち直れてるみたいでよかった…》
少女は涙目になりながら、力のこもったライブを見つめている。
終点につくまでピザを片手に応援していた。
《ありがとうございました》
「いえ。私にできるのはこれくらいで…。手紙は必ず渡しておきます」
《本当に助かります。片目が見えなくても、ギターを弾き続けようと思います。いつか夏鈴にもう1回会っても、恥ずかしくないように》
慣れない杖を使いながら、少女は列車を降りる。
その表情は落ち着いていたけど、やっぱり寂しそうだった。
「お疲れ。大変だったんじゃない?」
「たしかに慣れない接客で、ちゃんとできていたかいつもより不安…」
「…それは心配ないと思うけど」
「え?」
さっきまで少女が座っていたシートに、可愛らしい付箋が貼りつけられている。
【落ち着けたのはあなたのおかげです。本当にありがとう】
「よかっ、た……」
ふらふらして、そのまま座席に突伏する。
顔をあげることができないまま、意識を飛ばした。
メンバーのひとりが幼馴染で、自信をなくしていないか心配なんです》
「それでしたら、こちらをご覧ください」
氷雨君から手渡された姿見で、少女は自分の仲間たちの様子を知ることになった。
『小春がいないんじゃ意味がない!』
『冬香……』
『けど、それであいつが喜ぶと思うか?自分のせいでバンドがばらばらになりそうだって考えるんじゃないか?』
話をしている3人のうち、女性の背中をさすっていた少年が顔をあげた。
『身勝手かもしれないけど、僕も秋斗の意見に賛成だよ。僕たちがここで折れたら、小春が安心して休めない』
『夏鈴…』
『なんとなく分かるんだ。ずっと近くで見ていたから』
その人物は目に涙を浮かべながら、ブレスレットをつけた手を空へ向かって突きあげる。
『僕の名前をからかわずに、ずっと隣にいてくれた小春に恩返ししたいんだ。
そのために歌い続けたい。小春に届くかもしれないから。…僕の身勝手な願いだけど、ふたりともついてきてくれる?』
『まかせろ!』
『そうだね。いつも近くにいた夏鈴が言うなら、きっと…』
3人は楽器を手にそれぞれの位置につく。
『みなさんにお知らせがあります。…先日、ボーカルの小春が亡くなりました。詳しいことは言えませんが事件です。
これからも続けていくべきか迷いましたが、ひとまず今夜小春の冥福を祈って歌います。…みんな、ついてきてくれますか?』
観客席はざわざわしていたけど、最後の一言を聞いてわっと歓声があがった。
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『やっぱ4人で四季だし、これからもついていくよ』
『これからも応援する!』
そんな声があがるなか、バンドの音がはじまった。
「以上になります」
《そっか。夏鈴もちゃんと立ち直れてるみたいでよかった…》
少女は涙目になりながら、力のこもったライブを見つめている。
終点につくまでピザを片手に応援していた。
《ありがとうございました》
「いえ。私にできるのはこれくらいで…。手紙は必ず渡しておきます」
《本当に助かります。片目が見えなくても、ギターを弾き続けようと思います。いつか夏鈴にもう1回会っても、恥ずかしくないように》
慣れない杖を使いながら、少女は列車を降りる。
その表情は落ち着いていたけど、やっぱり寂しそうだった。
「お疲れ。大変だったんじゃない?」
「たしかに慣れない接客で、ちゃんとできていたかいつもより不安…」
「…それは心配ないと思うけど」
「え?」
さっきまで少女が座っていたシートに、可愛らしい付箋が貼りつけられている。
【落ち着けたのはあなたのおかげです。本当にありがとう】
「よかっ、た……」
ふらふらして、そのまま座席に突伏する。
顔をあげることができないまま、意識を飛ばした。
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