上 下
4 / 10

肆、「敵」の姿

しおりを挟む


今日のチャットで僕は憤りを感じた。

事件の怪しいところより、しのぶさん、いや、あの女のほうがよっぽど怪しいのだ。

僕に拘りもなく、学校の友だちの身元を調べたりして、付き合っていいかどうかまで口に出してしまうって、何様のつもりだ?

ちょうどお坊さんのところに行く日だったので、紹介者に文句を言った。

「あのさ、お坊さん昨日、紹介してくれたあの警察のお偉いさんと会いましたよ。」

「どうだ?あの容姿、一目惚れしたんだろう?」

「いや、それじゃなくて、仕事の話ならわかるけど、勝手に...」僕の右腕に針が刺さった痛みがジーンと来たて、話の腰が折られた。「ちょっといつもより痛いですよ、お坊さん。」

「あーーあ、ごめんごめん」お坊さんがアフロヘアを搔き分けて、もう一本の銀針を引き出した。「それで、彼女は勝手に何をやった?」

「勝手にさ、僕の学校の友だちの個人情報を調べましたのよ。」今度は左腕に鋭い痛みを感じた。「スーーー、今日は手荒いですね。」

「アハハハ!やっぱごめんね。」お坊さんがアロハシャツのボタンを外し、マッサージベッドの隣にある椅子に腰を下ろした。「ちょっと一服するか?」
と言いながら、彼は胸のポケットからタバコとライターを取り出した。

胸、腹そして両腕のツボに銀針がいっぱい刺さっているため、僕は起きることができない。

「調べただけでないぞ。」僕は首を横にして、できるだけお坊さんの目を見て話そうとしたが、短パンから伸びている毛深い脛、足首に付けているGPSとビーチサンダルしか見えない。そして、タバコの煙も見える。「あの子が僕と付き合っていいって言うのですよ!!警察とはいえ、しのぶさんは僕のプライベートを干渉する権限はないよね。」

「今なんと呼んでいた?」

「こんな行為は、日本語にありますよね、専門用語が、えーと、そうだ、国家権力の濫用です!!」

「さっきあの女をなんと呼んでいた?」

「国家権力の濫用はすごい罪ですよね...」

「やーー、ちょっ、ちょっ、ハンサムちゃん、話を聞いて、さっきあの女の名前、何と呼んだ?」

「あ?スミレちゃん?」

「違う、あのかわいい子は学校の友達だろう?」お坊さんがタバコを指に挟んで、僕の顔に近づいてきた。「あの公安の女のことだ、彼女の名前をしっているのか?」

「はい、だって、名刺をくれましたよ。」

「おまえに名刺を渡したのか!?どこにある?持ってきた?」お坊さんはあまりにも驚いたようで、いつもつけている七色のサングラスまで外した。

「あっち、カバンの中に」僕は踏ん張って手を挙げ、指で荷物置きを指さした。

お坊さんは舌を打って僕のカバンを取ってきた。
「どこにある?......これか?観月しのぶ......チェッ、偽名かよ。」

お坊さんは名刺を持っている手の指を緩め、名刺がゆらゆらと裏返って床に落ちた。
あの紋章が見えた。

僕はただびっくりして何も言えなかったが、その紋章を見たお坊さんは再び名刺を手に取って、携帯を取り出した。

「何するの?無駄よ、スキャンしてもまだアクセス出来ません。」

「お前も知っているのか?この紋章にQRコードが隠されていること。」

「しのぶさんが教えてくれました。」

お坊さんは深くため息をして名を僕の枕元に置いた。

「やっぱり、君は重要だよ。」お坊さんは僕に背を向けて話した。「だから、あの女、しのぶさんがあれだけお前の身の回りを気にしている。」

お坊さんの顔は見えないが、タバコの煙と沈黙がふわりと立ち上り続けている。

なぜか、気まずくなってきた......

「話が変わりますが、最近テレビで他所の寺のお祓いを見ましたけど、お坊さんがやっていることと全然違うようですね。」

「あっ、は、はい?」

----------------------------------------

5月29日、雨降りな日だった。
夜でもないのに、あたりが暗くて、村の道はさらに歩きにくくなっている。

二人の私服警察、王さんと劉さんが龍治民の家に来た。
街灯の光すら届かない、奥まった通りの古びた庭と窑洞だった。

この家全体が汚物浄化槽に浸っているようだ。
まだ数十メートル離れているのに、反吐を催す匂いが鼻の穴からしつこく忍び込んできた。

窑洞の扉を開けた後、室内の光景には二人ともさらに驚愕した。

部屋の床は凹凸ばっかり、窓にも泥が塗られており、光は全く通らない。
窑洞全体が日の光を見ない地下室のようだった。

角の屋根裏の階段は腐食されて形が崩れており、上には何らかの不明な汚れがあって、
乾いた血痕のように見えた。

家の中には、時間が止まったかのような静寂が漂っていた。
壁には文化大革命ぶんかだいかくめい時代の賞状や麦わら帽子が掛けられており、歴史が感じられた。

階段を登り始めると、木の軋む音とともに空気が一変、何かの秘密に近づいていくようだった。

王さんは急に劉さんの袖を引っ張った。
「屋根裏に誰かいる。」

劉さんは耳を澄まし、確かに重くて急な呼吸の音が聞こえる。
「いるね、上は窓もなく逃げられないと思う。」

「そうだね。外からホシの仲間が着たら、我々が挟み撃ちをくらってしまうから、先に退路を確保しよう。」と王さんが言った。

二人はまたゆっくりと階段を降り、窑洞の扉が閉まらないように仕掛けようとした。

が、まさにその時、庭から人の罵声が聞こえてきた。

「おーーい、中のクソ野郎!!そう!お前のことだ!!マジで臭いわ、早く出てこない!!」

「やっぱり囲まれた!」王さんと劉さんは互いの顔を見て、阿吽の呼吸で合意した。

劉さんは扉を開けて外に出た。

王さんは扉の裏に身を隠し、屋根裏にいる正体不明な人が降りてくることを警戒しながら、外の様子に注目する。
必要な時に劉さんを応援するか、庭にいる連中に急襲を仕掛けることだって可能だ。

「お前か?龍治民はお前だな!」庭に立っている者は六人いるが、先頭に仁王立ちしている大男は声を荒らげて叫んでいる。「俺の弟をどこに隠した?早く言え!!」

大男は叫びながら手を伸ばし、劉さんの襟元をつかもうとした。

劉さんは横に一歩避け、「人違いだぞ、け...」と言ったにもかかわらず、大男はさらに大声で彼の話を遮った。

「嘘つくな!お前だよ、チビで四十代で間違いね!!」大男は後ろにいる者たちに合図を送り、みんなで劉さんを囲んだ。

劉さんは仕方なく応戦しようとしたその時、「バーーーン」と窑洞の扉が飛ばされてもう一人の男が勢いよく、庭に出てきた。

「警察だ!!動くな!!」

もちろん王さんだった。彼は身分証を見せ、劉さんにさしながら言った「彼もだ。」

「え!?警察?」大男は取り乱した。「龍治民は警察なの?」

「バカ!龍治民じゃないぞ。人違いだ。」隣の仲間が大男の耳元でささやいた。

「お前らは誰だ?」王さんが聞いた。

「俺は銀山という、姜銀山きょうぎんざんです。」

実は、彼の弟も失踪していた。

しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

小さな安堵は惨く淫猥に否定される

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

美貌の魔術士はライバルをうっかり恋に落とす

BL / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:696

王道転校生に「愛を教えてやるよ!」と言われたんだが

BL / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:48

さよなら魔璃亜

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

異世界へ行って帰って来た

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:171

堕天使の羽ペン 裏切りの夫に復讐を

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:37

処理中です...