同僚がモフ度の高い神獣でした。【R18】【本編完結】

雲間香月

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モフの取引


 近年、無宗教の日本人が増えるにつれて、神社仏閣はその数を減らし続けているという。
 お社や氏子を失った神様は、自然界の中に還っていくのが普通だと神尾君は私に説明してくれた。

「だけど時々、人から離れるのを嫌って人になりすまして人間界で生きていく神様もいるんです。同じように、神様を守ってきた神獣の中にも、自然に還らず人の中で生きる道を選ぶ奴がいる。神様も神獣も、もともと人間好きなのが多いから」

 そうして人の姿で生活するうちに、人に恋をして、人の短い生涯に寄り添うものが現れた。
 結婚をして、子どもを作り、その子どもが更に人との間に子を作る。
 神様の血から遠ざかるほど神性は失われ、子孫達はより人間に近いものとなっていったそうだ。

「奇跡を起こさず、人より長く生きることもなく、自然に還ることもなく。そうやって人に紛れて生きている者たちが、現代社会には一定数紛れています。俺みたいに姿が変わるほど強い神性を残している者は珍しいから、もしかしたら本人に自覚がないケースもあるかもしれません」

 通常人間の姿を保っている神尾君は、意図的に姿を変えることができるそうだ。しかしふとした瞬間に獣の姿になってしまうことがあるそうで、これが困る、と顔面をしかめた。

「すっごい疲れて気が抜けた時とか、怒り狂った時とか。あとたまに寝てる時に変わっちゃうことがあって。去年の社員旅行はほんと辛かった……。結局寝ずに朝を迎えました。今年は行きたくない」

 しがみつく私をそのままに、床に伸びて寝そべった神尾君がぼやく。
 何でもそつなくこなす印象だった神尾君の知られざる一面を聞いて、私は勝手に親近感を抱いた。

 要領がいい。
 仕事ができる。
 頼りになる。

 周囲の評価とは別のところで、誰も知らない苦労があって。そういう意味では、この人も私も、ちょっと似ている。
 そんなことを考えていると、神尾君がのそのそと体を起こした。

「はい、おしまい」

 声とともにモフモフの感触が瞬時に消える。代わりに少し固い男の人の体を感じて、私は思わず飛び退いた。

 びびびびっくりした。

 何も考えていなかったけど、私、男の人にしがみついてたんだ。
 犬猫とは違う存在感に、じわじわ恥ずかしさがこみ上げてくる。
 動揺している私を見て、神尾君が口端だけで笑った。

「昼休み終わりますよ。篠瀬さん、お弁当食いっぱぐれましたね」

 意地悪く言って立ち上がる。そのまま背を向けようとする神尾君にはっとして、私は慌てて彼を呼び止めた。

「あ、あの……っ!」

 神尾君の涼しい目元が私を振り返る。その顔に再び羞恥心がこみ上げて、続く言葉がすぐに出てこなかった。

 こんなこと言って、変だと思われないかな。嫌がられないかな。迷惑かも。

 ぐるぐる落ちていく思考の中で、それでも! と諦めきれない思いが私を動かす。

「えっと、また、触らせてもらってもいいですか……?」

 モフモフの神尾君を、と。最後はほとんど声にならなかった。
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