同僚がモフ度の高い神獣でした。【R18】【本編完結】

雲間香月

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ストレス! ストレス! またストレス!


 会議室で一人打ち合わせの後片付けをしている神尾君を見つけて、私は開け放たれたドアをコンコンと軽く叩いた。

「神尾君。頼まれてた集計、終わりました」

「もう?」

 意外そうな顔で近づいて、神尾君が私の差し出すファイルとUSBを受け取った。

 神尾君が私に求めた取引条件は「一モフにつき、一雑務」。

 社長の肝入りで始まったという新部署は、仕事が手探りな分、派生する雑務も多い。
 神尾君が私に回してくるのは、その中でも特に、集計やチェック、申請書類の代書きなど「誰にでもできるけど誰もが面倒臭がるもの」ばかりだった。

「あれ。統計も取ってくれたんですか」

 印刷した資料をパラパラ捲っていた神尾君がふと手を止める。
 どき、と心臓が跳ねて、私は弁解するように説明した。

「えっと、はい。この後、この集計をもとに統計表を作るのかなと思って、その下地を……。勝手にすみません」

 総務部で仕事をする時は、先の先まで考えて一つの作業時に次の作業が楽になるよう手を加えておく。
 身についてしまった習慣だったが、神尾君には神尾君の手順があったかもしれない。

 余計なことだったかと不安になっていると、神尾君が首を振った。

「いや、助かります。俺こういう細かい仕事って苦手で。どうしても後回しにしちゃって後で酷い目にあうから」

 はにかむように笑った顔が少年のようで、ちょっと可愛い。
 珍しい表情に目を奪われていると、さて、と神尾君が資料を閉じた。

「じゃあ俺も、約束のモフを提供しましょう」

「えっ。い、今ですか?」

「まずいですか」

「まずいっていうか」

 ちらりと辺りを見回して、口ごもる。
 仕事は残っているが急いで戻らないといけないわけじゃない。だからそれはいい。ぜひモフしたい。だけど。

「だってここ、会議室……」

 いつ誰が入ってくるともしれない場所で狛犬の姿になってしまうのは、神尾君にとってリスキーなことではないのだろうか。
 私の心配をよそに、涼しい顔で神尾君が言った。

「大丈夫ですよ。もうすぐ昼休みだし、午前中はもう、ここの使用予約入ってないですから」

 どう意味だろう。
 首をかしげていると、追って説明が来た。

「急な打ち合わせもざらにあるので、俺毎日会議室の空き情報は確認するようにしてるんです。今日は午後まで誰も来ませんよ」

 資料をテーブルに置いて、神尾君が会議室の扉に向かう。
 かちゃんと小さな音を立てて鍵を閉めると、いたずらっぽい笑みを浮かべてこちらを振り返った。

「これでいきなり扉を開けられることもない」

 言うなり、みるみる神尾君の体を綿毛みたいにふわふわの毛が覆っていく。
 空気をいっぱい含んだ真っ白な毛皮が全身を包み、体格も変化して見上げるほど大きくなった。

「わぁ」

 いつ見ても大きなサモエド犬……違ったモフモフ……間違えた神尾君に感動する。

 目を輝かせて近づくと、どうぞ、と言わんばかりに神尾君が頭を低い位置に下げた。
 ぱたり、ぱたり、と動く尻尾が私の反応を面白がっているようにも見える。

 指通りを確かめるように、私はそうっと神尾君の毛並みに触れた。

「モフモフだぁ……」

 感極まって、私はぎゅう、と神尾君に抱きついた。
 あったかくてふわふわで気持ちいい。

 疲れを吹き飛ばすような心地よさに、私はしばし時間を忘れてモフを堪能した。
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