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キスのバリエーション
5
組み合わせた両手が白く変色している。
震えてしまいそうな体をこらえるために強く、強く、握り込んだせいだ。
ふと、神尾君の手が私の手の上に乗った。
自分の体温を分け与えるようにそっと握り込む。
「篠瀬さんは気配りが効く人です」
「……?」
唐突な評価に目が点になって、私は顔を上げた。
光の加減で琥珀色に見える瞳がいたって真面目にこちらを見下ろしている。
じっと私を見つめたまま、神尾君が続けた。
「誰も見ていないようなところでも手を抜かず、誠実に仕事をこなします。仕事の一歩先を読んで、他の人が後のことをやりやすいように工夫を加えてくれます。そういえば、絵も上手でしたね。資料の端に書き足してくれたイラスト、あれ分かりすくて助かりました」
「ま、待って。待ってください。これ何ですか」
聞きなれない言葉を並べられてうろたえる。
「何って」
ちょっと笑って、神尾君が問いに応えた。
「篠瀬さんの価値についての話でしょ」
便利じゃなかったら私の価値は何ですか。
八つ当たりとも言えるその問いに、神尾くんは答えをくれようとしているのだ。
「ちょっとお人好しすぎる感はありますけど、誰かのためになることなら手間を惜しまないし、迷惑かけられても文句も言わないし、努力家だし」
「あの、もう」
「まだありますよ」
ぎゅ、と私の手を握りこんで神尾くんが私に顔を近づける。
「嫌味がないし、料理がうまいし、素直で可愛いです。篠瀬さんが自分をどう感じているのか分かりませんが、その存在に救われている人は結構いると思いますよ」
まっすぐに伝えられた言葉が気恥ずかしくて、顔が赤くなる。
まるで、自分に価値があるような言い方だ。
お世辞でも嬉しくて涙が出そうだった。
「か、かわいくは、ないです」
動揺する心を知られたくなくて神尾くんから視線を逃す。
顔を背けようとすると、神尾くんが空いた手を私の頰に添えた。
「キスしたいくらいには可愛いです」
囁くような声に息が詰まる。
思わず神尾くんを見つめ返すと、宝石のような瞳がきらりと光って私に近づいた。
「ま、待って!」
反射で体を引くと、驚いたように神尾くんも少しだけ身を引いた。弾みで離れてしまった手が何だか寒くてはっとする。
「すみません。嫌でしたか」
「そっ、そうじゃなくて、あの」
勘違いだったらとっても恥ずかしいけど、たぶん、今の流れは。
「これ、取引ですか」
つまりキスをするのか、と。
訪ねた私に、神尾君が一瞬、きょと、と目を丸くした。
ややあって神尾君が「ああ」と一人納得する。
「じゃあ、取引で」
「じゃあって……」
「取引です」
にっこり笑う神尾くんの表情は、逆に何を考えているのかさっぱりわからない。
戸惑っている私をよそに、神尾くんがスマホを取り出すと、なにやら操作して画面をこちらに向けた。
画面表示は一分間のタイマーだ。あとはスタートボタンを押すばかりとなっている。
「もういいですか」
言いながら再び神尾くんが顔を寄せた。
「まっ、待ってください! まだ、あの」
思い切り腕を突っ張って神尾くんの胸を押し戻す。
神尾君は止まってくれたけど、思いの外びくともしない手応えに私は驚いた。
男の人の体って、重い。
「何ですか」
止まったけど今度は離れなかった神尾君が至近距離から私に問う。
吐息を感じるほど近くにある神尾君の顔に真っ赤になりながら、私は恥ずかしさで消え入りそうになる声で懇願した。
震えてしまいそうな体をこらえるために強く、強く、握り込んだせいだ。
ふと、神尾君の手が私の手の上に乗った。
自分の体温を分け与えるようにそっと握り込む。
「篠瀬さんは気配りが効く人です」
「……?」
唐突な評価に目が点になって、私は顔を上げた。
光の加減で琥珀色に見える瞳がいたって真面目にこちらを見下ろしている。
じっと私を見つめたまま、神尾君が続けた。
「誰も見ていないようなところでも手を抜かず、誠実に仕事をこなします。仕事の一歩先を読んで、他の人が後のことをやりやすいように工夫を加えてくれます。そういえば、絵も上手でしたね。資料の端に書き足してくれたイラスト、あれ分かりすくて助かりました」
「ま、待って。待ってください。これ何ですか」
聞きなれない言葉を並べられてうろたえる。
「何って」
ちょっと笑って、神尾君が問いに応えた。
「篠瀬さんの価値についての話でしょ」
便利じゃなかったら私の価値は何ですか。
八つ当たりとも言えるその問いに、神尾くんは答えをくれようとしているのだ。
「ちょっとお人好しすぎる感はありますけど、誰かのためになることなら手間を惜しまないし、迷惑かけられても文句も言わないし、努力家だし」
「あの、もう」
「まだありますよ」
ぎゅ、と私の手を握りこんで神尾くんが私に顔を近づける。
「嫌味がないし、料理がうまいし、素直で可愛いです。篠瀬さんが自分をどう感じているのか分かりませんが、その存在に救われている人は結構いると思いますよ」
まっすぐに伝えられた言葉が気恥ずかしくて、顔が赤くなる。
まるで、自分に価値があるような言い方だ。
お世辞でも嬉しくて涙が出そうだった。
「か、かわいくは、ないです」
動揺する心を知られたくなくて神尾くんから視線を逃す。
顔を背けようとすると、神尾くんが空いた手を私の頰に添えた。
「キスしたいくらいには可愛いです」
囁くような声に息が詰まる。
思わず神尾くんを見つめ返すと、宝石のような瞳がきらりと光って私に近づいた。
「ま、待って!」
反射で体を引くと、驚いたように神尾くんも少しだけ身を引いた。弾みで離れてしまった手が何だか寒くてはっとする。
「すみません。嫌でしたか」
「そっ、そうじゃなくて、あの」
勘違いだったらとっても恥ずかしいけど、たぶん、今の流れは。
「これ、取引ですか」
つまりキスをするのか、と。
訪ねた私に、神尾君が一瞬、きょと、と目を丸くした。
ややあって神尾君が「ああ」と一人納得する。
「じゃあ、取引で」
「じゃあって……」
「取引です」
にっこり笑う神尾くんの表情は、逆に何を考えているのかさっぱりわからない。
戸惑っている私をよそに、神尾くんがスマホを取り出すと、なにやら操作して画面をこちらに向けた。
画面表示は一分間のタイマーだ。あとはスタートボタンを押すばかりとなっている。
「もういいですか」
言いながら再び神尾くんが顔を寄せた。
「まっ、待ってください! まだ、あの」
思い切り腕を突っ張って神尾くんの胸を押し戻す。
神尾君は止まってくれたけど、思いの外びくともしない手応えに私は驚いた。
男の人の体って、重い。
「何ですか」
止まったけど今度は離れなかった神尾君が至近距離から私に問う。
吐息を感じるほど近くにある神尾君の顔に真っ赤になりながら、私は恥ずかしさで消え入りそうになる声で懇願した。
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