同僚がモフ度の高い神獣でした。【R18】【本編完結】

雲間香月

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恋だとか。愛だとか。私だって知ってる。

「篠瀬さんは、彼氏いるんですか」

 ウェイターが離れた途端、問われた突拍子もない問いに、思わず派手に咳き込んだ。
 大丈夫ですか、と差し出された紙ナプキンをありがたく受け取りながら、私は戸塚君を見た。

「な、なんで、突然」

「ちょっと気になったので」

 世間話のつもりだったのか、戸塚君の視線はもう食事に移っている。

「いないけど……」

 と、いうか、そもそも付き合った人数がとても少なかった。
 奥手だったのも手伝って、高校の時に一度、大学の時に一度、彼氏がいた程度だ。
 つまりかれこれ四年は彼氏がいないことになる。

 興味があるのかないのか、ふうん、と相槌を打った戸塚君がついでのように聞いた。

「好きな人は?」

「す、好き……?」

 一瞬、神尾君の顔が頭に浮かぶも、いやいやそうじゃない、と否定する。

「いないよ」

「ほんとに?」

「嘘ついてどうするの」

「気になる人も?」

「……」

「あ、黙った」

 目ざとく指摘されて、私は更に口ごもった。

「……いや、気になるっていうか……そういうんじゃなくて」

 不自然なほどしどろもどろになって、こうなるともう誤魔化すのは難しくなる。
 聞く体勢に入った戸塚君を前に、私は考え考え白状した。

「最初はその、こっちのお願いに応えてくれる恩義に報いたいというか、役に立ちたいと思っていて」

 役に立ちたかったのは信頼されたかったからだ。
 頼られることで居場所を得ようとしていたのだろう、と今なら分かる。

「でもあの、最近は何ていうか……その人を見ると気持ちがざわざするの。なのに気がつくと姿を探していたり、目で追ってたり。近くに来て欲しい、さわって欲しい、と思ったりして……不安になる」

「さわ……?」

 身動きした戸塚君の手ががちゃ、とお皿にぶつかる。
 ああ、やばい、と戸塚君が慌てて手元のお皿を確認するが、料理もお皿も無事だった。
 再び顔を上げた戸塚君が私に尋ねる。

「──確認しますが、その人には触られたことがあるんですか」

「さ……」

 改めて聞くと破壊力のある言葉だ。
 何だかものすごいことを打ち明けてしまった気がして、私は真っ赤になった。

「あるんだ」

「いや……」

 触るというか、キスを。

 いずれにしても打ち明けにくい実情に言葉を失う。
 私の反応をじっと見つめてから、何事か察したのか、戸塚君が視線をそらしてため息をついた。

「それが好きってことじゃないんですかね」

「え」

「その人のこと、好きなんじゃないですか?」

 ──好き?

 私が、神尾君を?
 想像して、それから私は首を振った。

「違うよ。好きっていうのとは違うと思う」

 ハア? と目をすがめた戸塚君に、だって、と言い募る。

「私だって、これまで人を好きになったことはあるよ。付き合ったこともあるし。でも、どの人の時もこんな気持ちになったことはなかったの。こんな風に、見つけるだけでこころがざわざわするんじゃなくて、なんていうか、もっと心穏やかで、ふわふわあったかい気持ちだった」

「……それは憧れとか親しみであって恋愛ではなかったのでは」

「え」

 はあーっ、とわざとらしいため息をつくと、戸塚君が行儀悪くカウンターに肘を乗せて頬杖をつく。
 そしてどこか不機嫌そうな視線をこちらに向けて、「あのですね、篠瀬さん」と口を開いた。

「恋をしたら、もっと暴力的に相手に心を奪われますよ。何気ない言動に振り回されて、喜んだり、不安になったり、心はヘトヘトになるんです」

「戸塚君でも?」

 我が道を行くような戸塚君の口からそんな話を聞いて、思わず尋ねる。
 当たり前でしょ、と応じて戸塚君が続けた。

「他の男と仲良くしていたら落ち着かないし、笑顔なんか見せてたら悔しいし、自分だけのものにしたいって欲が出て、苦しくなります。なのに、俺とじゃなくてもいいから、幸せでいてほしい、とも思うんです。矛盾と葛藤と、慈しみと愛しさで頭がおかしくなりそうですよ」

「はー」

 感心して頷くと、戸塚君が「分かってないな」と眉をひそめる」

「分かるよ。戸塚君はずいぶん情熱的な恋をするんだね。……でもやっぱり私の好きとは違う気がする」

 だからァ、と反論しかけて、戸塚君が途中で首を振った。

「まあいいや。分かんないなら、その方が」

 何事か呟いて戸塚君が食事を再開する。
 それきり恋愛の話には言及せず、私たちはおなかいっぱいになるまで飲み食いを堪能した。
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