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こわい、と、ごめんね。
2【微】
「篠瀬さん」
呼びかけられてはっとする。
「すみません、付き合わせて。神尾君も、もう」
「取引しませんか」
「え」
唐突な提案に、私はうろたえた。
「えっと、い、今、ですか」
「はい」
お昼はできなかったので、と続ける神尾君は私と対照的にひどく落ち着いている。
「こ……ここで?」
「いけませんか」
「いや、だって、誰か来たら」
「もう俺と篠瀬さんだけですよ」
言いながら神尾君がフロアに目をやった。
しん、と静まり返ったビルには確かに人の気配はない……けど。
かた、と机の上で音がして、反射的に肩が跳ねる。
見ると神尾君がスマホを机に置いたところだった。
「無理強いはしませんが、どうですか」
どう、と問いながらも、神尾君の瞳が私を捉えて離さない。
にこやかなのに、纏う空気が張り詰めている。まるで怒っているみたいだ。
でも、なぜ。
返事ができずに固まっていると、しばらく私を眺めていた神尾君が動いた。
スマートフォンのタイマーをタップすると同時に、私に迫る。
あっという間に詰めらた距離に驚く間も無く、唇に柔らかい感触が押し付けられた。
「ん、う」
伺うような気配は一瞬だけで、一度離れた唇がまた押し当てられる。
いつの間にか両手で頬を挟み込まれていて、私は身動きが取れなかった。
「っ」
びく、と肩が震える。
下唇を小さく噛まれたのだ。
ビリ、と頭に響いたのは痛みではなく電流のような衝撃だった。
再びキスが落ちてくる。構える私を裏切って、今度は優しい口付けだ。
「ふ、う、……んっ」
柔く、優しく、時折小さく噛みつかれる。
与えられる刺激に翻弄されて、私は神尾君の腕にしがみついた。
「篠瀬さん、口開けて」
キスの合間に、神尾君の声がする。
何を言われているのかわからなくてぐるぐるしていると、神尾君の焦れたような気配が近づいた。
「ひ」
ぺろ、と唇を舐められて、びっくりする。
反射で薄く開いた唇を割って、神尾君の舌が口内に入り込んできた。
「ん……っ、ふ、は……っ」
確かめるようにゆっくりと神尾君の舌が口内をなぞる。
怯んだ私の舌を舐めとって、深く深く絡めてくる。
「は、はふ、あ」
息継ぎがうまくできなくてめまいがする。
ちがう。
息苦しいのは押し上げてくる快感に押しつぶされそうになっているからだ。
「あ、か、かみお、く……っ」
涙を滲ませていやいやをするものの、聞こえないのか、神尾君の舌は私を追い立てることをやめない。
急激に、ぞわ、と強い快感が脳に走る。
神尾君の右手が私の耳を嬲っているのだ。
「んあ、や、いや」
こんなのは知らない。
ぞわ、ぞわ、と身震いするような刺激が怖くて、私は神尾君の体を力一杯押しのけようとした。
しかし、どんなに押しても神尾君はびくともしない。それどころか一層キスを深めてくる。
「ふ、んん、ううー……」
ひっ、としゃくりあげた声を聞いて、神尾君が弾かれたように体を離した。
「うう……も……もう、やだ……」
こわい。
そう訴えて、子どものように泣きじゃくる。
与えられたことのない感覚に驚いて、高ぶった体に怯えて。
息を飲む神尾君を前に、私は両手で顔を覆って泣き続けた。
「……篠瀬さん」
掠れた声で神尾君が私を呼ぶ。
遠くでアラームの鳴る音がしていた。
「篠瀬さん……篠瀬さん、ごめんなさい」
泣いてしまいそうな声で、神尾君が謝る。
そうっと腕に触れた手にびくつくと、同じように怯えて神尾君が手を引っ込めた。
「泣かないで」
たす、と膝に置かれた手は神尾君の手ではなかった。
もっと暖かいもふもふで、涙目のまま顔を上げると、しょんぼり耳を垂れた大きな狛犬がこちらを伺っている。
「すみません。ごめんなさい」
神尾君の声で、狛犬が頭を下げた。
「篠瀬さんが彼……戸塚君と仲よさそうにしているのを見て、やきもちをやきました」
「やき……?」
意味のわからないまま言葉をなぞると、神尾君が更に低く頭を垂れる。
「動揺して、落ち着かなくなって、悔しくて。怖い思いをさせてしまいました」
動揺?
何で、と思うものの、目の前のふわふわが体を小さくしてるのがなんだか可哀想で、うまく追求できなかった。
「ごめんなさい……もうしません」
叱られた子犬みたいにしょんぼりする神尾君に、私はそっと手を伸ばした。
ぴ、と神尾君の体が緊張する。
怖がっているのは、きっと神尾君の方だ。
脅かさないように、柔らかく首元の毛皮に触れる。
溶けそうなほど滑らかな白い毛並みを撫でると、ややあって神尾君の体から強張りが抜けていった。
ほっとした空気に、私もつられて安堵する。
いつものように首もとに抱きつくと、神尾君の体が大きく上下して息を吐き出した。
「ごめんね」
きらいにならないで、と聞こえた言葉は聞き間違いかと思うほどか細く、フロアの静けさの中に消えてしまった。
呼びかけられてはっとする。
「すみません、付き合わせて。神尾君も、もう」
「取引しませんか」
「え」
唐突な提案に、私はうろたえた。
「えっと、い、今、ですか」
「はい」
お昼はできなかったので、と続ける神尾君は私と対照的にひどく落ち着いている。
「こ……ここで?」
「いけませんか」
「いや、だって、誰か来たら」
「もう俺と篠瀬さんだけですよ」
言いながら神尾君がフロアに目をやった。
しん、と静まり返ったビルには確かに人の気配はない……けど。
かた、と机の上で音がして、反射的に肩が跳ねる。
見ると神尾君がスマホを机に置いたところだった。
「無理強いはしませんが、どうですか」
どう、と問いながらも、神尾君の瞳が私を捉えて離さない。
にこやかなのに、纏う空気が張り詰めている。まるで怒っているみたいだ。
でも、なぜ。
返事ができずに固まっていると、しばらく私を眺めていた神尾君が動いた。
スマートフォンのタイマーをタップすると同時に、私に迫る。
あっという間に詰めらた距離に驚く間も無く、唇に柔らかい感触が押し付けられた。
「ん、う」
伺うような気配は一瞬だけで、一度離れた唇がまた押し当てられる。
いつの間にか両手で頬を挟み込まれていて、私は身動きが取れなかった。
「っ」
びく、と肩が震える。
下唇を小さく噛まれたのだ。
ビリ、と頭に響いたのは痛みではなく電流のような衝撃だった。
再びキスが落ちてくる。構える私を裏切って、今度は優しい口付けだ。
「ふ、う、……んっ」
柔く、優しく、時折小さく噛みつかれる。
与えられる刺激に翻弄されて、私は神尾君の腕にしがみついた。
「篠瀬さん、口開けて」
キスの合間に、神尾君の声がする。
何を言われているのかわからなくてぐるぐるしていると、神尾君の焦れたような気配が近づいた。
「ひ」
ぺろ、と唇を舐められて、びっくりする。
反射で薄く開いた唇を割って、神尾君の舌が口内に入り込んできた。
「ん……っ、ふ、は……っ」
確かめるようにゆっくりと神尾君の舌が口内をなぞる。
怯んだ私の舌を舐めとって、深く深く絡めてくる。
「は、はふ、あ」
息継ぎがうまくできなくてめまいがする。
ちがう。
息苦しいのは押し上げてくる快感に押しつぶされそうになっているからだ。
「あ、か、かみお、く……っ」
涙を滲ませていやいやをするものの、聞こえないのか、神尾君の舌は私を追い立てることをやめない。
急激に、ぞわ、と強い快感が脳に走る。
神尾君の右手が私の耳を嬲っているのだ。
「んあ、や、いや」
こんなのは知らない。
ぞわ、ぞわ、と身震いするような刺激が怖くて、私は神尾君の体を力一杯押しのけようとした。
しかし、どんなに押しても神尾君はびくともしない。それどころか一層キスを深めてくる。
「ふ、んん、ううー……」
ひっ、としゃくりあげた声を聞いて、神尾君が弾かれたように体を離した。
「うう……も……もう、やだ……」
こわい。
そう訴えて、子どものように泣きじゃくる。
与えられたことのない感覚に驚いて、高ぶった体に怯えて。
息を飲む神尾君を前に、私は両手で顔を覆って泣き続けた。
「……篠瀬さん」
掠れた声で神尾君が私を呼ぶ。
遠くでアラームの鳴る音がしていた。
「篠瀬さん……篠瀬さん、ごめんなさい」
泣いてしまいそうな声で、神尾君が謝る。
そうっと腕に触れた手にびくつくと、同じように怯えて神尾君が手を引っ込めた。
「泣かないで」
たす、と膝に置かれた手は神尾君の手ではなかった。
もっと暖かいもふもふで、涙目のまま顔を上げると、しょんぼり耳を垂れた大きな狛犬がこちらを伺っている。
「すみません。ごめんなさい」
神尾君の声で、狛犬が頭を下げた。
「篠瀬さんが彼……戸塚君と仲よさそうにしているのを見て、やきもちをやきました」
「やき……?」
意味のわからないまま言葉をなぞると、神尾君が更に低く頭を垂れる。
「動揺して、落ち着かなくなって、悔しくて。怖い思いをさせてしまいました」
動揺?
何で、と思うものの、目の前のふわふわが体を小さくしてるのがなんだか可哀想で、うまく追求できなかった。
「ごめんなさい……もうしません」
叱られた子犬みたいにしょんぼりする神尾君に、私はそっと手を伸ばした。
ぴ、と神尾君の体が緊張する。
怖がっているのは、きっと神尾君の方だ。
脅かさないように、柔らかく首元の毛皮に触れる。
溶けそうなほど滑らかな白い毛並みを撫でると、ややあって神尾君の体から強張りが抜けていった。
ほっとした空気に、私もつられて安堵する。
いつものように首もとに抱きつくと、神尾君の体が大きく上下して息を吐き出した。
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