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遠ざかるモフと癒しの時間
3
うろたえる私に、戸塚君が尋ねた。
「何ですか。いよいよあの人が好きだとでも自覚しましたか」
「い……、いや、ちが……! だから神尾君のことは好きとかそう言うんじゃなくて」
「ハア。まだそれ言いますか」
呆れたような眼差しでこちらを眺めると、戸塚君が体ごと私に向き合った。
「なら篠瀬さん、俺と付き合ってください」
「…………え?」
何を言われたのか分からずに、反射的に身構える。
何……? 付き合う……? どういう意味。
「好きなんです」
まっすぐな瞳に射すくめられて、私は身動きが取れなくなった。
「好きです。ずっと好きでした。まあ、篠瀬さんにその気がないのは分かっていたので、困らせたくなくて黙ってましたが……」
戸塚君の手が私の手を柔らかく握り込む。
「でもやっぱり、目の前で掻っ攫われるのを黙って見てるのはきついです。あの人のことを好きじゃないって言うなら、俺にもチャンスをください」
呆然と見上げる私にほんの少し顔を寄せて、戸塚君が言った。
「俺を見て」
する、と戸塚君の指先がブラウスの袖口から侵入して、手首をなぞる。
びく、と体を引こうとすると、そのまま手首を掴まれた。
「ご、ごめんなさい」
震える声でとっさに出たのは、その一言だった。
圧迫感に心臓が張り裂けそうだ。
でもこれはときめきじゃない。捕まえられた腕に感じる熱は、欲しいものとは違っていた。
「ごめん……」
触れて欲しいのは、この手じゃない。
欲しいのはこの人じゃない。
はっきりと自覚して、私は小さく嗚咽した。
「ごめん、戸塚君。私……わたし」
──神尾君が好きだ。
認めるなり、ぶわ、と身体中が神尾君への想いでいっぱいになる。
とめどなく押し上げる感情に息苦しさを感じるほどだ。
どうして今まで知らないふりができたのだろう。
堰を切ったように溢れ出る想いが、切なくて、切なくて、心がちぎれそうだった。
ふいに、目の前にハンカチを差し出されて、顔を上る。
目が合った戸塚君が伏し目がちに視線を逃して言った。
「泣かすつもりはなかったんですけど」
ありがたくハンカチを受け取る。掴まれていた手首はいつの間にか解放されていた。
「ち、違うの……戸塚君のせいじゃなくて。
はふはふと呼吸を整えて、懸命に声を絞り出す。
「そうじゃなくて、その、びっくりして」
自分の気持ちに。
自覚した恋心に。
「うん」
言葉足らずの私の弁解に頷くと、分かってますよ、と戸塚君がちょっと笑った。
「人に取られるのは惜しいですけど、でも俺、篠瀬さんが楽しそうにしているのが好きなんです。だからあんたが欲しいと思ったものを、ちゃんと手に入れて欲しい」
真剣な眼差しに押されて、ハイ、と素直に頷く。
気が済んだ様子で、戸塚君が椅子の背にもたれると再び机の上に頬杖をついた。
「俺は俺であいつの頭髪が一日も早くなくなるよう地味に呪いをかけ続けてやりますよ。イケメンむかつく」
「ふふ」
冗談とも本気ともつかない悪態がおかしくて、ちょっと笑う。
「そんなことしなくても、戸塚君は十分素敵だよ」
思ったことをそのまま告げると、まん丸に目を見開いた戸塚君が、ややあってジト目で私を見据えて呟いた。
「ほんっと、そういうとこですよ」
「え」
「いえ別に」
なんでもないですけどねっ! と投げやりに言った戸塚君の瞳が、ふと私の背後を見て止まった。
「何?」
視線を追って振り返るが、別に変わった様子はない。
「一瞬、そこに話題の人がいたような気がしたんですが……見間違いかな」
神尾君が?
慌ててもう一度フロアの入り口を確認するが、やはりそこには誰の気配もなかった。
「神尾君のこと、考えすぎだよ」
「ハア?」
私の言葉に心底嫌そうに顔をしかめて、戸塚君がふてくされる。
笑いながら、それでも私は、神尾君がそこにいなかったことに少し、がっかりしていた。
「何ですか。いよいよあの人が好きだとでも自覚しましたか」
「い……、いや、ちが……! だから神尾君のことは好きとかそう言うんじゃなくて」
「ハア。まだそれ言いますか」
呆れたような眼差しでこちらを眺めると、戸塚君が体ごと私に向き合った。
「なら篠瀬さん、俺と付き合ってください」
「…………え?」
何を言われたのか分からずに、反射的に身構える。
何……? 付き合う……? どういう意味。
「好きなんです」
まっすぐな瞳に射すくめられて、私は身動きが取れなくなった。
「好きです。ずっと好きでした。まあ、篠瀬さんにその気がないのは分かっていたので、困らせたくなくて黙ってましたが……」
戸塚君の手が私の手を柔らかく握り込む。
「でもやっぱり、目の前で掻っ攫われるのを黙って見てるのはきついです。あの人のことを好きじゃないって言うなら、俺にもチャンスをください」
呆然と見上げる私にほんの少し顔を寄せて、戸塚君が言った。
「俺を見て」
する、と戸塚君の指先がブラウスの袖口から侵入して、手首をなぞる。
びく、と体を引こうとすると、そのまま手首を掴まれた。
「ご、ごめんなさい」
震える声でとっさに出たのは、その一言だった。
圧迫感に心臓が張り裂けそうだ。
でもこれはときめきじゃない。捕まえられた腕に感じる熱は、欲しいものとは違っていた。
「ごめん……」
触れて欲しいのは、この手じゃない。
欲しいのはこの人じゃない。
はっきりと自覚して、私は小さく嗚咽した。
「ごめん、戸塚君。私……わたし」
──神尾君が好きだ。
認めるなり、ぶわ、と身体中が神尾君への想いでいっぱいになる。
とめどなく押し上げる感情に息苦しさを感じるほどだ。
どうして今まで知らないふりができたのだろう。
堰を切ったように溢れ出る想いが、切なくて、切なくて、心がちぎれそうだった。
ふいに、目の前にハンカチを差し出されて、顔を上る。
目が合った戸塚君が伏し目がちに視線を逃して言った。
「泣かすつもりはなかったんですけど」
ありがたくハンカチを受け取る。掴まれていた手首はいつの間にか解放されていた。
「ち、違うの……戸塚君のせいじゃなくて。
はふはふと呼吸を整えて、懸命に声を絞り出す。
「そうじゃなくて、その、びっくりして」
自分の気持ちに。
自覚した恋心に。
「うん」
言葉足らずの私の弁解に頷くと、分かってますよ、と戸塚君がちょっと笑った。
「人に取られるのは惜しいですけど、でも俺、篠瀬さんが楽しそうにしているのが好きなんです。だからあんたが欲しいと思ったものを、ちゃんと手に入れて欲しい」
真剣な眼差しに押されて、ハイ、と素直に頷く。
気が済んだ様子で、戸塚君が椅子の背にもたれると再び机の上に頬杖をついた。
「俺は俺であいつの頭髪が一日も早くなくなるよう地味に呪いをかけ続けてやりますよ。イケメンむかつく」
「ふふ」
冗談とも本気ともつかない悪態がおかしくて、ちょっと笑う。
「そんなことしなくても、戸塚君は十分素敵だよ」
思ったことをそのまま告げると、まん丸に目を見開いた戸塚君が、ややあってジト目で私を見据えて呟いた。
「ほんっと、そういうとこですよ」
「え」
「いえ別に」
なんでもないですけどねっ! と投げやりに言った戸塚君の瞳が、ふと私の背後を見て止まった。
「何?」
視線を追って振り返るが、別に変わった様子はない。
「一瞬、そこに話題の人がいたような気がしたんですが……見間違いかな」
神尾君が?
慌ててもう一度フロアの入り口を確認するが、やはりそこには誰の気配もなかった。
「神尾君のこと、考えすぎだよ」
「ハア?」
私の言葉に心底嫌そうに顔をしかめて、戸塚君がふてくされる。
笑いながら、それでも私は、神尾君がそこにいなかったことに少し、がっかりしていた。
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