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狛犬と獅子
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「葵ちゃん、見て、見て」
日和さんが私の注意を引いて、膝の上に片手をかざした。
きめの細かい滑らかな手は指先までよく手入れされている。
思わず見とれていると、ざわり、とその手が変化した。
「えっ、うわあ」
みるみるうちに黄金色の毛並みが手のひらを覆う。
「すごいでしょー。葵ちゃんが大和の犬の姿を知ってるって聞いたから、私も毛並み自慢したかったの。こいつは白銀の狛犬だけどね。私の血筋は狛犬と対である獅子の血が濃いから、この通り毛皮も黄金色。全身変化しちゃう大和ほどじゃないけど、私も一部変化するくらいには神性が強いのよー」
「こんなとこで何してんだ」
顔をしかめる神尾君に、平気よ、と日和さんは動じない。
「誰かに見られたところで、まさか人の手が直接変化したとは思わないでしょ。かわいい手袋だなー、で終わるわよ。だいたいあたし、あんたより変化の制御上手いし。知ってる、葵ちゃん。こいつったらねー、昔肝試しでびっくりした弾みに狛犬になっちゃってね」
「おい」
「きれいですねー」
何やら喧々諤々としているが、そんなことより私は目の前に差し出されたもふもふの毛皮の方が気になっていた。
「つやつやのぴかぴかですよ。お日様の光でキラキラして金色に見える……」
ほう、とため息をつくと、呆気にとられた顔の日和さんが神尾君に視線を送った。
「──変わった子ね」
「……けむくじゃらの生き物が好きなんだ」
もうどうにでもなれ、と投げやりな様子で神尾君が答える。
けむくじゃらじゃなくてもモフモフなら大好きだ。
見入っていると、触ってみる? と日和さんが問う。
「いいんですかっ!」
「いいわよー」
「篠瀬さん、声。声落としてください。目立つから」
このメンツだと神尾君は常識人の抑え役にまわるらしい。
慌てて口を閉じてから、私は日和さんの毛並みをそうっと撫でてみた。
「わあ……ふわふわだぁ……すべすべ……綺麗」
するすると手に触れる毛皮が心地よい。
によによ口元を綻ばせながら触っていると、日和さんがくすぐったそうな顔をした。
「誉め殺すわねぇ」
「持って帰りたいです……」
「それはやめてください」
不機嫌そうに声を上げたのは神尾君だ。
見ると、本当にふてくされた表情で私を見ている。
「持って帰るなら俺にして」
ん?
なぜ? と首をかしげると、日和さんが唐突に隣で爆笑した。
「なるほど、なるほど。そうかあ」
涙をにじませるほど笑ってから、日和さんが「あのね」と私に言う。
「あたしが葵ちゃんのことを知ってるのは、大和に怒られたからなの。葵ちゃん、少し前にアウトレットモールで私たちとすれ違ったでしょ。一番誤解されたくない人に誤解されたって、その後接触禁止を言い渡されたわけよ。これがもうすごい頑なでね」
「日和」
余計なことを言うな、と神尾君が日和さんを睨む。
意図的に無視して、構わず日和さんが続けた。
「こんなことって今までなかったから、ずいぶん大事にしてるんだな、と思ったの。で、ぜひ会ってみたいなと思ってたのよ。どんな子かは知らなかったけど、外から見てすぐ分かったわ。あなたの前だと大和、全然表情が違うのね」
表情?
そうなのかな、と神尾君を伺うも、頭でも痛いのかこめかみを押さえて俯いている。
「でもまあ」
モフモフの手を人間の手に戻しながら、日和さんが苦笑した。
「相変わらず器用貧乏で何も伝わってなさそうなのが分かったけど」
日和さんの言葉に、神尾君が刺されたような顔をして、その場に撃沈した。
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