同僚がモフ度の高い神獣でした。【R18】【本編完結】

雲間香月

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狛犬と獅子




 台風のように到来した日和さんは、台風のように食事を済ませると、私たち二人を残して一人先にお店を出て行ってしまった。

 当然のように、お会計は神尾君持ちである。

 なんというか、パワフルな人だ。

「すみません、私までご馳走していただいて」

 人混みを避けて少し大回りした川沿いを歩きながら、私は神尾君にぺこ、と頭を下げた。
 どさくさに紛れて全ての支払いを済ませてくれたのだ。

「ああ、いえ。もともとそのつもりだったし。それよりこちらこそ、従姉妹のせいでゆっくりできなくて、すみません」

「いえいえ。楽しかったです。モフモフ気持ちよかったし」

 私の言葉に、神尾君が複雑そうな顔を作る。

「──まあ、俺もなし崩しにしたのは悪かったですけど」

 はー、と長息して肩を落とした神尾君が一拍おいて私を見た」

「篠瀬さん」

「え、はい」

 改まった声にこちらも背筋を伸ばす。
 じっと私を見つめる瞳が、きらきらと金色に輝いて見えた。

 こわばった表情で何事か言葉を探していた神尾君が、ややあって、観念したように表情を和らげた。

「好きです」

「…………え……えっ!?」

 ──ち、違う。ちょっと待て。きっとそうじゃない。

 うろたえる頭で、私は必死に現実を保とうとした。

 聞き間違いだ。そうでなかったら、違う意味の言葉だ。

 次に来る衝撃に備えて、勘違いしそうになる自分を押しとどめる。
 心中の葛藤を見透かした様子で、神尾君が困ったように眉を下げて笑った。

「篠瀬さんが好きです」

 重ねて言われて、私の思考が焼き切れる。
 真っ白になって固まった私に、神尾君が心配そうに近づいた。

「ま、待って。待ってください」

 びく、と一歩退いて、私は首を振った。

「そんなはずないです。そんな、都合のいい……」

 神尾君が、私を好きだなんて。

 信じられなくて、まともに動かなくなった思考で必死に別回答をはじき出す。

「あ、同僚として……?」

「すごい。思った以上に伝わってない」

 途方に暮れたような神尾君の声が頭の上から落ちてくる。
 ぐるぐると考え続ける私の顔をしばし見下ろして、神尾君がそうっと私の右手をとった。

「? ? ?」

 何、と問うより早く、神尾君が私の手のひらを自分の左胸に当ててみせる。
 押し込むように強く当てられた右手がはっきりと神尾君の鼓動を捉えた。

「篠瀬さん」

 どくどく、響く鼓動がさらに強くなる。

「俺、好きでもない子にキスなんかしないですよ」

 神尾君の体から心臓が飛び出してしまいそうだ。

 は、と一つ、神尾君が息をついた。
 律動する鼓動に息苦しくなったのだ。

「本当は、取引を変えた頃からずっと好きだったんですが……大人ぶって、ずるい手を使いました。モフモフを許す代わりにキスなんて」

 ──ただ、したかっただけだ。

 自嘲するように、神尾君が心情を告白する。
 どきどきと手のひらを打つ鼓動に、私は泣きたくなった。

 本当に? 本当に、神尾君も、私を。

「わ、私……」

 口を開いたものの、何を言えばいいのかわからなくて、言葉につまづく。
 右手で、ぎゅう、とスーツを掴むと、さらに強い力で神尾君の手が私の拳を握りこんだ。

「私」

 ほとんど囁くような声で、言う。

「私も、神尾君が好きです」

 絞り出した声に、神尾君が泣きそうな声で、うん、と答えた。
 縋り付くような右手を両手で包んで、ちゅ、とキスを落とす。

「篠瀬さん、付き合ってください」

「つ、つき……」

「彼女になってください」

 遠回しの言葉では伝わらないと踏んだのか、ど直球な言葉で神尾君が私に迫った。

「俺のものになって」

 切実な声が体を貫く。

 息を詰めたせいで声が出なくて、私は、こくこくと首を縦に振った。

 ほ、と神尾君が顔を綻ばせて、ついで泣いてしまいそうな顔で私の右手に額を押し付ける。

「……よかった」

 ありがとうございます、と呟いた神尾君の声は、語尾が少し、震えていた。
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