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デートしましょう。
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「わあ」
二重扉を押し開けると、その向こうに広がる景色に私は思わず感嘆の声を上げた。
無垢材の床、若草色のカーペット、天井は高く、大きなガラス張りの窓からはお日様の光がさんさんと入ってきて、気持ちのいい場所だ。
デートに誘ってもいいですか、と神尾君からメールをもらったのは数日前のことだった。
グラフィックレコーディングも軌道に乗り始め、私も神尾君も少し落ち着いてきた時期である。
付き合う、と返事はしたものの、仕事に忙殺されて恋人らしいことをしてこなかったので、この改まったお誘いに、私は思いの外動揺した。
──デート……デート……? デートって何したらいいんだっけ。
久しくデートをしていなかったために経験が学生時代で止まっている。
学生時代はお金もなかったし、家デートとかファミレスが多くてイメージもわかない。
戸惑いから返信を送れず、送れないことに後ろめたさを感じて神尾君を見る度滝汗をかくなど挙動不審な態度を取っていると、様子を察した神尾君がほとんど吹き出す体で「行きたいところを教えてくれればいいんですよ」と助け舟を出してくれた。
なければこっちで考えてもいいけど、と言った神尾君は続けて、「でもできれば篠瀬さんが嬉しそうにしているところが見たいので、篠瀬さんの行きたいところが知りたいです」と如才ない。
そんなこんなで希望を聞かれ、それなら、と私はずっと行き逃していた「猫カフェ」に行ってみたい、と答えたのだ。
「か……神尾君、神尾君、ちっちゃい子がいますよ。子猫だ。可愛い……!」
思い思いの場所でくつろぐ猫、こちらに興味を示す猫、の合間に小さな白い猫を見つけて神尾君の袖を引く。
「触りに行きますか」
神尾君の問いにうーん、と考えて、私は首を振った。
「あんまり追い回したくないし、あっちの方で座りましょう。そのうち興味のある子が近づいてくると思います」
ビルの八階に位置するこの猫カフェは、窓の外に都心が見えた。一望、というほどではないが、十分景色がいい。
窓際のラグの上に座ると、好奇心旺盛なロシアンブルーがさっそくとことこ近寄ってきた。
「おいでおいで」
指先を差し出すと、くんくんと匂いを嗅ぎにくる。
猫との付き合いは辛抱強さが大切だ。
構いすぎると逃げられてしまう。
しばらくすると、慣れてきたのか、ロシアンブルーが私の腕に頭をこすりつけてきた。
「かわいい」
頭を掻いてやると気持ちよさそうに目を細める。
そんなことをやっていると他の猫も興味を持ち始めたのか、一匹、二匹と私たちに寄って来た。
ふと神尾君を見ると、所在無げに視線を彷徨わせながらじっとしている。
「つまらないですか」
固まる神尾君に問いかけると、「いえ、そうじゃなくて」と眉を下げた。
「俺、猫に嫌われるんですよ。下手に動いたらせっかく集まって来た猫が篠瀬さんのそばからいなくなっちゃうかも、と思って」
犬だからかなあ、とぼやく神尾君は、拗ねているみたいでちょっとかわいい。
「猫じゃなくて、神尾君の方に苦手意識があるのかもしれませんよ。動物は空気を読むから」
え、と目を見開いた神尾君が「そういえば」と何事か思い当たったような顔をする。
「子どもの頃、近所にいた猫をなでてやったらすごい怒ったんですよ。機嫌の居所が分からなすぎて、戸惑った覚えが。猫に好かれないのかなと思ったのもその辺からですね」
「ふふ」
小さな神尾君が猫のご機嫌を取れずにおずおずしている様を思い描いて、私はちょっと笑った。
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