11 / 103
第1章 異世界に◯◯しました。
第10話
しおりを挟む
門番の男から聞いたとおりの場所を目指して顔面蒼白にしながら歩いていると、日本の結婚式場のような建物が見えてきた。ぽつぽつと人が入って行っているのが遠目に見えたので、それに続く。
教会へ入ると、大半が高齢者で椅子に座ってうつむき、うたた寝している人、読書をしている人等がいた。休憩所にも使われているようだ。既に祈りは済ませているのか、祈っている人はひとりもいなかった。
祈り方はさっぱりだったので、教会を管理しているであろうお姉さんに聞けば、国によって異なる場合もあるので、好きなように祈ればいいと言われた。
とはいえ、変な注目を浴びたくないので、床に正座して両手を胸の前で組む形で目を瞑った。
「目、開けていいよ」
涼やかで低い声に、閉じた目蓋を持ち上げてみれば、途方もなく続く地平線でも見えてきそうな真っ白な空間に神と思しき青年が一人佇んでいた。
その青年は、柔らかく微笑んだ。
「よくここまで来たね。地球から異世界転生してきたきみに対し、果たさなければならない使命はないよ。だから、この世界では自由気ままに生きるといい」
「……え?」
(今、この人……)
「待ってください……今、異世界転生っておっしゃいましたか? 転移ではなくて」
「あぁ、間違いなく転生だよ。きみはとっくに地球で死んでいる。お婆さんを庇って階段から落ちたことを覚えてない?」
「痛っ……⁉︎」
思い出そうとして、突如激しい頭痛に襲われる。両手で頭を押さえつけて暫くすると、ズキズキとした痛みが徐々にひいていった。
すると、フラッシュバックのように記憶のフィルムがなだれ込んできた。
「思い出したようだね」
しゃがんで頭を押さえつけていた両手の力を抜いて顔を上げて青年を見てみれば、神妙な面持ちでこちらを見つめる青年と視線が交わる。
「死にたいからって、命を粗末に扱うのはやめない?
本来、異世界人にはチートや加護を与えるのが一般的なんだけど、きみにそれを与えてしまえば、きみは誰かに頼ることをしなくなるだろう? だから、きみの場合は、誰かを頼ることを覚えた方がいいと思って、敢えて力を与えなかった。人を頼り、そして大切な人をつくって幸せになってほしい。それが、私の願いだよ」
そう言って、彼は私の頭をさらりと撫でた。髪を伝う温度がとても暖かく、酷く心地良かった。
(撫でられたの、いつぶりだっけ……)
目の前の青年は、創造神シューゼ。
私は彼の手によって、暇つぶしでこちらの世界で転生させられたらしい。何故、私だったのか。抽選でそうなったそうだ。
暇つぶしとはいえ、命ある生き物なので最後まで面倒は見るつもりだという。責任感のある神様で良かった。暇つぶしと言っている時点で責任もクソもないような気がするが、そこは深く考えないようにしておく。
そして、考えていた通り、この世界では奴隷制度が当たり前。女性の人口は少なく、一妻多夫制となっている。女性は貴重であるため、家で大切に囲われ、外にあまり出ることはない。万が一、女性がひとりで彷徨いていれば、人攫いに遭ってもおかしくないそうだ。
「それでは、いよいよお待ちかねの神の助言だ」
ごくり、と喉を鳴らす。
満面の笑みの神様。
「奴隷を買え」
「は?」
「以上」
「えっ、ちょ、待っ⁉︎」
創造神シューゼはパタリと姿を消して、私は教会で目を覚ました。もう一度、目を閉じても、彼が姿を現すことはなかった。
ということで、どうやら私は異世界に転移したのではなく、お婆さんを庇って死んで創造神シューゼの暇つぶしで、異世界に転生したようだ。
教会へ入ると、大半が高齢者で椅子に座ってうつむき、うたた寝している人、読書をしている人等がいた。休憩所にも使われているようだ。既に祈りは済ませているのか、祈っている人はひとりもいなかった。
祈り方はさっぱりだったので、教会を管理しているであろうお姉さんに聞けば、国によって異なる場合もあるので、好きなように祈ればいいと言われた。
とはいえ、変な注目を浴びたくないので、床に正座して両手を胸の前で組む形で目を瞑った。
「目、開けていいよ」
涼やかで低い声に、閉じた目蓋を持ち上げてみれば、途方もなく続く地平線でも見えてきそうな真っ白な空間に神と思しき青年が一人佇んでいた。
その青年は、柔らかく微笑んだ。
「よくここまで来たね。地球から異世界転生してきたきみに対し、果たさなければならない使命はないよ。だから、この世界では自由気ままに生きるといい」
「……え?」
(今、この人……)
「待ってください……今、異世界転生っておっしゃいましたか? 転移ではなくて」
「あぁ、間違いなく転生だよ。きみはとっくに地球で死んでいる。お婆さんを庇って階段から落ちたことを覚えてない?」
「痛っ……⁉︎」
思い出そうとして、突如激しい頭痛に襲われる。両手で頭を押さえつけて暫くすると、ズキズキとした痛みが徐々にひいていった。
すると、フラッシュバックのように記憶のフィルムがなだれ込んできた。
「思い出したようだね」
しゃがんで頭を押さえつけていた両手の力を抜いて顔を上げて青年を見てみれば、神妙な面持ちでこちらを見つめる青年と視線が交わる。
「死にたいからって、命を粗末に扱うのはやめない?
本来、異世界人にはチートや加護を与えるのが一般的なんだけど、きみにそれを与えてしまえば、きみは誰かに頼ることをしなくなるだろう? だから、きみの場合は、誰かを頼ることを覚えた方がいいと思って、敢えて力を与えなかった。人を頼り、そして大切な人をつくって幸せになってほしい。それが、私の願いだよ」
そう言って、彼は私の頭をさらりと撫でた。髪を伝う温度がとても暖かく、酷く心地良かった。
(撫でられたの、いつぶりだっけ……)
目の前の青年は、創造神シューゼ。
私は彼の手によって、暇つぶしでこちらの世界で転生させられたらしい。何故、私だったのか。抽選でそうなったそうだ。
暇つぶしとはいえ、命ある生き物なので最後まで面倒は見るつもりだという。責任感のある神様で良かった。暇つぶしと言っている時点で責任もクソもないような気がするが、そこは深く考えないようにしておく。
そして、考えていた通り、この世界では奴隷制度が当たり前。女性の人口は少なく、一妻多夫制となっている。女性は貴重であるため、家で大切に囲われ、外にあまり出ることはない。万が一、女性がひとりで彷徨いていれば、人攫いに遭ってもおかしくないそうだ。
「それでは、いよいよお待ちかねの神の助言だ」
ごくり、と喉を鳴らす。
満面の笑みの神様。
「奴隷を買え」
「は?」
「以上」
「えっ、ちょ、待っ⁉︎」
創造神シューゼはパタリと姿を消して、私は教会で目を覚ました。もう一度、目を閉じても、彼が姿を現すことはなかった。
ということで、どうやら私は異世界に転移したのではなく、お婆さんを庇って死んで創造神シューゼの暇つぶしで、異世界に転生したようだ。
19
あなたにおすすめの小説
修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜
長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。
コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。
ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。
実際の所、そこは異世界だった。
勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。
奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。
特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。
実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。
主人公 高校2年 高遠 奏 呼び名 カナデっち。奏。
クラスメイトのギャル 水木 紗耶香 呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。
主人公の幼馴染 片桐 浩太 呼び名 コウタ コータ君
(なろうでも別名義で公開)
タイトル微妙に変更しました。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
病弱な僕は病院で息を引き取った
お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった
そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した
魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る
騎士団長のお抱え薬師
衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。
聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。
後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。
なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。
そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。
場所は隣国。
しかもハノンの隣。
迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。
大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。
イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。
※84話「再訪のランス」~画像生成AIで挿絵挿入しています。
気分転換での画像生成なので不定期(今後あるかは不明ですが)挿絵の注意をしてます。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる