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第3章 奴隷と暮らすまで
第27話
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「副作用はないが……うむ」と顎に指を添えて考える素振りをした後、「ちょっと待っとりなさい」と言い残して店主は一度奥へと引っ込んだ。
「ねぇ、なんで匂い消してんの?」
側に控える狐人が聞いてくる。
「体臭が気になる微妙なお年頃なんだ。デリケートな問題だからあまり触れないでくれると有難い」
私は予め考えておいた理由をそのまま話した。
「ふーん、そういうもん?」
「そういうもんだ」
店主は数分経たないうちに戻ってきて、「ケシの実と相性の良い保湿液じゃ。持っておいき」とカウンターにやや白っぽい液体の入った瓶をカタンと置いた。
「有難うございます。それで……これは?」
店主が置いた衝撃で、瓶の中に入った液体が揺れている。その揺れは、水のようにさらりとしておらず、水に重みを含んだどろりとした揺れ方をしていた。
(なんか、滑ってないか……?)
何故だか嫌な予感がして、背筋がぞわりとした。
「まぁ、簡単にいうと"カエルの粘液"じゃな。ちゃんと人間用に調整しといたから、ケシの実を塗った後にこれを塗れば乾燥は防げるじゃろう」
(うわぁ……カエルの……)
嫌な予感ほどよく当たるものだ。
「今日はいっぱい買ってくれたのでな。これはオマケじゃ、お代はいらんよ」とその瓶を手渡される。人の好意を無下には出来ないので、礼を言って有難く頂くことにした。
(これはただの化粧水ただの化粧水……)
何度も念じてそう思い込むことにした。
「そういえば、おまえさん家はこのへんかの?」
「はい、今日、家を買ったところで、ミューベリ市にありますが……」
(何でそんなことを聞くんだ?)
「なら、一週間ごとに家の従業員にケシの実を届けさせよう。さすれば、毎回ここまで足を運ばんですむじゃろ?」
「いいんですか? 有難うございます。助かります」
届け先の住所を控えるというので、アイテムボックスから『土地及び建物売買契約書』を取り出して、店主に見せる。
「おまえさん、レオリオというのか。わしはローダ……エルフ族のローダじゃ、これから宜しくの」
「宜しくお願いします。ローダさん」
そう言って、握手を交わした。ローダの手は見た感じはしわしわでお年寄りのようで頼りなさげだったが、握る力は意外にもがっしりとしていて、接触した手のひらは少しカサついていた。これが職人の手か、と身をもって実感し、少し感動した。
それにしても、尖った耳が人間ではないと主張していたが、まさかローダがエルフとは思わなかった。
エルフは、尖った耳と老いない身体、美形が多く長寿であるというのが私の知識だ。
(エルフの中でもかなり高齢なのか?)
***
ローダの薬屋を出て向かったのは、不動産で家が見つからなかった場合を想定して念のため取っておいた宿だ。薬屋から宿までそう遠くはない。精々、十五分程度だろう。
宿に置いていた荷物を回収したあと、私たちは、食料品を買いに向かった。
十九時という時間帯のためか、酒場の方から男たちが、野太い声でどんちゃん騒ぎしているのが外まで聞こえてくる。アルコールが入れば声も自然とでかくなるものなのだろう。
酒場は手のひらでバンと押して入る、短いウエスタンドアが多く、外から店内の様子がよく見えるし、酒の匂いがぶわりと流れてくる。
(酒くさ……)
濃厚なアルコールの臭いに酒場から顔を背け、臭いを感知しないように鼻孔を避難させる。
流石にこの時間帯になると、女性の姿は昼間よりもかなり減って、見かけることもなくなった。また、奴隷を引き連れて歩く奴隷商人の姿もない。代わりに増えたのが、顔を赤くしフラつきながら歩く酔っ払いや仕事帰りなのかどこかの制服を着た男たちだ。
道沿いに立ち並んでいた屋台は、畳まれて、昼間に比べてまばらになっていた。
不動産から自宅へ向かう途中に食料品の売っている店があったことを思い出し、そこへ行くことにした。
精肉店や八百屋、魚屋、調味料専門店などを回り、特に腐りにくい調味料は様々な種類を買い占めた。もちろん、文字が読めないため手に取った物全て何がなんだかわからないから、彼らに聞きながら買った。
奴隷商館で見せてもらった資料の使用用途に家事と記載されていたのがエルフだったので、彼がよく料理するのに使っていた食材や調味料を中心に買っていった。
取り敢えず、一週間分を想定して買ったが、人外の胃袋がどれくらいなのかわからない。まぁ、人間よりかは食べるだろうと人間の倍くらいは買っておいた。
そして─────
王都から十二分先の貴族街に隣接したところにある、パラディオ様式の家が三軒繋がって出来たような屋敷。外壁はラスティケーションを施した石細工で表面が滑らかなバンダイクブラウンのレンガ模様になっている。
両側の家は屋根が三角の破風をもつ主棟が特徴的で、窓は上部分がアーチ型のものと、それを挟むように長方形で背の低いものを合わせて三つ並んで埋め込まれており、中央の家には、フロントには上部分がアーチ型の両開きドア、ドアの上部分から伸びた雨を防ぐための庇があり、窓は長方形で背の高いもののみが複数ある。
その屋敷の鍵を開けて私たちは中へ入った。
広々とした玄関の白黒大理石のタイルをコツコツと響き渡らせながら歩けば、正面には二階へと続く階段が見える。
目の前の階段を見上げながら背後にいる彼らに語りかける。
「今日からここが俺たちの家だ」
そして、長らく被っていたローブのフードを剥ぎ取り、乱れて邪魔になった髪を額から後頭部にかけて掻き上げ振り返り、外向きの無表情を崩して今度は笑顔で続けた。
「これから、宜しく頼む」
はくっと一部から息を呑むような音が聞こえた後、彼らも私と同様にフードを取った。
「「「「「はい!(あぁ)(うん)」」」」」
不安が混じりながらの気合いの入った返事、気怠げな返事、堂々とした返事……様々な返事を受け取って私は破顔して笑った。
こうして、異世界転生してから二日目で私と奴隷たちとの共同生活がはじまったのだった。
「ねぇ、なんで匂い消してんの?」
側に控える狐人が聞いてくる。
「体臭が気になる微妙なお年頃なんだ。デリケートな問題だからあまり触れないでくれると有難い」
私は予め考えておいた理由をそのまま話した。
「ふーん、そういうもん?」
「そういうもんだ」
店主は数分経たないうちに戻ってきて、「ケシの実と相性の良い保湿液じゃ。持っておいき」とカウンターにやや白っぽい液体の入った瓶をカタンと置いた。
「有難うございます。それで……これは?」
店主が置いた衝撃で、瓶の中に入った液体が揺れている。その揺れは、水のようにさらりとしておらず、水に重みを含んだどろりとした揺れ方をしていた。
(なんか、滑ってないか……?)
何故だか嫌な予感がして、背筋がぞわりとした。
「まぁ、簡単にいうと"カエルの粘液"じゃな。ちゃんと人間用に調整しといたから、ケシの実を塗った後にこれを塗れば乾燥は防げるじゃろう」
(うわぁ……カエルの……)
嫌な予感ほどよく当たるものだ。
「今日はいっぱい買ってくれたのでな。これはオマケじゃ、お代はいらんよ」とその瓶を手渡される。人の好意を無下には出来ないので、礼を言って有難く頂くことにした。
(これはただの化粧水ただの化粧水……)
何度も念じてそう思い込むことにした。
「そういえば、おまえさん家はこのへんかの?」
「はい、今日、家を買ったところで、ミューベリ市にありますが……」
(何でそんなことを聞くんだ?)
「なら、一週間ごとに家の従業員にケシの実を届けさせよう。さすれば、毎回ここまで足を運ばんですむじゃろ?」
「いいんですか? 有難うございます。助かります」
届け先の住所を控えるというので、アイテムボックスから『土地及び建物売買契約書』を取り出して、店主に見せる。
「おまえさん、レオリオというのか。わしはローダ……エルフ族のローダじゃ、これから宜しくの」
「宜しくお願いします。ローダさん」
そう言って、握手を交わした。ローダの手は見た感じはしわしわでお年寄りのようで頼りなさげだったが、握る力は意外にもがっしりとしていて、接触した手のひらは少しカサついていた。これが職人の手か、と身をもって実感し、少し感動した。
それにしても、尖った耳が人間ではないと主張していたが、まさかローダがエルフとは思わなかった。
エルフは、尖った耳と老いない身体、美形が多く長寿であるというのが私の知識だ。
(エルフの中でもかなり高齢なのか?)
***
ローダの薬屋を出て向かったのは、不動産で家が見つからなかった場合を想定して念のため取っておいた宿だ。薬屋から宿までそう遠くはない。精々、十五分程度だろう。
宿に置いていた荷物を回収したあと、私たちは、食料品を買いに向かった。
十九時という時間帯のためか、酒場の方から男たちが、野太い声でどんちゃん騒ぎしているのが外まで聞こえてくる。アルコールが入れば声も自然とでかくなるものなのだろう。
酒場は手のひらでバンと押して入る、短いウエスタンドアが多く、外から店内の様子がよく見えるし、酒の匂いがぶわりと流れてくる。
(酒くさ……)
濃厚なアルコールの臭いに酒場から顔を背け、臭いを感知しないように鼻孔を避難させる。
流石にこの時間帯になると、女性の姿は昼間よりもかなり減って、見かけることもなくなった。また、奴隷を引き連れて歩く奴隷商人の姿もない。代わりに増えたのが、顔を赤くしフラつきながら歩く酔っ払いや仕事帰りなのかどこかの制服を着た男たちだ。
道沿いに立ち並んでいた屋台は、畳まれて、昼間に比べてまばらになっていた。
不動産から自宅へ向かう途中に食料品の売っている店があったことを思い出し、そこへ行くことにした。
精肉店や八百屋、魚屋、調味料専門店などを回り、特に腐りにくい調味料は様々な種類を買い占めた。もちろん、文字が読めないため手に取った物全て何がなんだかわからないから、彼らに聞きながら買った。
奴隷商館で見せてもらった資料の使用用途に家事と記載されていたのがエルフだったので、彼がよく料理するのに使っていた食材や調味料を中心に買っていった。
取り敢えず、一週間分を想定して買ったが、人外の胃袋がどれくらいなのかわからない。まぁ、人間よりかは食べるだろうと人間の倍くらいは買っておいた。
そして─────
王都から十二分先の貴族街に隣接したところにある、パラディオ様式の家が三軒繋がって出来たような屋敷。外壁はラスティケーションを施した石細工で表面が滑らかなバンダイクブラウンのレンガ模様になっている。
両側の家は屋根が三角の破風をもつ主棟が特徴的で、窓は上部分がアーチ型のものと、それを挟むように長方形で背の低いものを合わせて三つ並んで埋め込まれており、中央の家には、フロントには上部分がアーチ型の両開きドア、ドアの上部分から伸びた雨を防ぐための庇があり、窓は長方形で背の高いもののみが複数ある。
その屋敷の鍵を開けて私たちは中へ入った。
広々とした玄関の白黒大理石のタイルをコツコツと響き渡らせながら歩けば、正面には二階へと続く階段が見える。
目の前の階段を見上げながら背後にいる彼らに語りかける。
「今日からここが俺たちの家だ」
そして、長らく被っていたローブのフードを剥ぎ取り、乱れて邪魔になった髪を額から後頭部にかけて掻き上げ振り返り、外向きの無表情を崩して今度は笑顔で続けた。
「これから、宜しく頼む」
はくっと一部から息を呑むような音が聞こえた後、彼らも私と同様にフードを取った。
「「「「「はい!(あぁ)(うん)」」」」」
不安が混じりながらの気合いの入った返事、気怠げな返事、堂々とした返事……様々な返事を受け取って私は破顔して笑った。
こうして、異世界転生してから二日目で私と奴隷たちとの共同生活がはじまったのだった。
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