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第4章 奴隷と暮らす
第4話
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しんと静まり返った廊下を歩いていると、先程までぴりぴりとしていた気持ちが、すぅっと体外へ抜けていくように段々と冷静になる。
隼人は冷め切った頭で、先ほどの龍人との会話を思い出していた。
"人も魔物も自身の意思なくしては、魔力を外部に放出することはない。魔石には魔力が魔結石には想像する力が必要で、その袋のような現象は起きない。だが、何故だ? その袋は常に魔力を放っているように見える"
(魔力を放っているように見える……?)
「まさか……」
重大な真実に気がつきつつある隼人は、完全に理解するよりも先に身体が動き、二階の浴場へと走っていった。
***
時は少し流れ、隼人が寝静まり深夜二時にまで経過する。
体表を覆うアッシュグレーの毛並みが窓から差し込む月光に照らされ、シルバーの色に錯覚させられる。
窓の外へと視線を向けるラピスラズリの瞳に映り込む月は、まるで夜の海に反射する月を写しとったかのようだ。
狼人は、ドア付近に椅子を置いて腰掛け、窓から顔を出す満月を見ていた。室内にはこの男ただひとりだけである。夜目が利くので、灯りはつけていない。
食後、少し話をしてご主人様がキッチンを去った後、部屋割りをどうするかという話をし、俺は階段近くの二階の部屋を選択した。もちろん護衛をするためだ。そして、いまこの位置に座っているのも、ご主人様の緊急事態にすぐに駆けつけられるようにだ。奴隷としての役目を果たさなければならない。
室内にあるのはダブルサイズのベッドと丸テーブル一つずつ、椅子二つ。室内の真ん中に設置された丸テーブルの上には、アイテムボックス一つが置かれている。いまは最低限の家具しか出していない。
耳を研ぎ澄ませながら、これまでのことを思い返していた。
「まさか捕虜の俺がな……」
捕虜の俺が買われたという事実に、喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、どういう感情だったのかいまいち自分でもよくわからなかった。ただ驚いた、としか。
***
俺は狼人国で半分は平民として、半分は貴族として育った。特に貧しいということもなく、普通にご飯を食べて昼寝して遊んで……そんな平凡な日々が楽しかった。うちは五人家族で、母は三人目が生まれてすぐに死んだ。出産で身体が耐えられなかったのだろう。とはいえ、三人まで持ち堪えたのだから、十分だったというべきか。
男手ひとつで育ててくれた父は騎士だった。父は大きな功績を残し、騎士爵という立場についた。しかし、父は病を患い、騎士としての職を辞することとなった。爵位を返上し、また平民になったが、父の貯金があったので、なんとか暮らしていけた。
俺は三人兄弟の長男で、兄弟を支えていかなければならなかったし、父の薬代も値が張る。父が病を患った頃には、俺はすでに成人していたし、将来は父のような騎士になるのが夢で、幼い頃から父の背中を見て育ち、稽古をつけてもらっていたので、そのまま俺は騎士団に所属し、家族を支えていくことにした。
父から受け継いだ、通常の狼人族よりも遥かに優れた嗅覚と聴覚で、俺はあっという間に父と同じ騎士爵という立場についた。それから程なくして、父はこの世を去った。父は、俺が同じ立場についたことを心から喜んでくれていた。「流石、俺の自慢の息子だ」と、子どもの時のようにぐしゃぐしゃと頭を撫でてくれた。息を引き取った父の顔は、とても穏やかで安心しきっているかのように見えた。
俺の歳が五十四になる頃には、弟たちはもう既に家を出て独り立ちしていた。弟というよりは、息子のように育ててきたから、家から出て行くと聞いた時寂しさはあったが、立派に成長した弟たちを見届けることができて満足だった。
そして、翌年五十五になって直ぐ、それは起こった。
隼人は冷め切った頭で、先ほどの龍人との会話を思い出していた。
"人も魔物も自身の意思なくしては、魔力を外部に放出することはない。魔石には魔力が魔結石には想像する力が必要で、その袋のような現象は起きない。だが、何故だ? その袋は常に魔力を放っているように見える"
(魔力を放っているように見える……?)
「まさか……」
重大な真実に気がつきつつある隼人は、完全に理解するよりも先に身体が動き、二階の浴場へと走っていった。
***
時は少し流れ、隼人が寝静まり深夜二時にまで経過する。
体表を覆うアッシュグレーの毛並みが窓から差し込む月光に照らされ、シルバーの色に錯覚させられる。
窓の外へと視線を向けるラピスラズリの瞳に映り込む月は、まるで夜の海に反射する月を写しとったかのようだ。
狼人は、ドア付近に椅子を置いて腰掛け、窓から顔を出す満月を見ていた。室内にはこの男ただひとりだけである。夜目が利くので、灯りはつけていない。
食後、少し話をしてご主人様がキッチンを去った後、部屋割りをどうするかという話をし、俺は階段近くの二階の部屋を選択した。もちろん護衛をするためだ。そして、いまこの位置に座っているのも、ご主人様の緊急事態にすぐに駆けつけられるようにだ。奴隷としての役目を果たさなければならない。
室内にあるのはダブルサイズのベッドと丸テーブル一つずつ、椅子二つ。室内の真ん中に設置された丸テーブルの上には、アイテムボックス一つが置かれている。いまは最低限の家具しか出していない。
耳を研ぎ澄ませながら、これまでのことを思い返していた。
「まさか捕虜の俺がな……」
捕虜の俺が買われたという事実に、喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、どういう感情だったのかいまいち自分でもよくわからなかった。ただ驚いた、としか。
***
俺は狼人国で半分は平民として、半分は貴族として育った。特に貧しいということもなく、普通にご飯を食べて昼寝して遊んで……そんな平凡な日々が楽しかった。うちは五人家族で、母は三人目が生まれてすぐに死んだ。出産で身体が耐えられなかったのだろう。とはいえ、三人まで持ち堪えたのだから、十分だったというべきか。
男手ひとつで育ててくれた父は騎士だった。父は大きな功績を残し、騎士爵という立場についた。しかし、父は病を患い、騎士としての職を辞することとなった。爵位を返上し、また平民になったが、父の貯金があったので、なんとか暮らしていけた。
俺は三人兄弟の長男で、兄弟を支えていかなければならなかったし、父の薬代も値が張る。父が病を患った頃には、俺はすでに成人していたし、将来は父のような騎士になるのが夢で、幼い頃から父の背中を見て育ち、稽古をつけてもらっていたので、そのまま俺は騎士団に所属し、家族を支えていくことにした。
父から受け継いだ、通常の狼人族よりも遥かに優れた嗅覚と聴覚で、俺はあっという間に父と同じ騎士爵という立場についた。それから程なくして、父はこの世を去った。父は、俺が同じ立場についたことを心から喜んでくれていた。「流石、俺の自慢の息子だ」と、子どもの時のようにぐしゃぐしゃと頭を撫でてくれた。息を引き取った父の顔は、とても穏やかで安心しきっているかのように見えた。
俺の歳が五十四になる頃には、弟たちはもう既に家を出て独り立ちしていた。弟というよりは、息子のように育ててきたから、家から出て行くと聞いた時寂しさはあったが、立派に成長した弟たちを見届けることができて満足だった。
そして、翌年五十五になって直ぐ、それは起こった。
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