【ライト版】元死にたがりは、異世界で奴隷達と自由気ままに生きていきます。

産屋敷 九十九

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第4章 奴隷と暮らす

第15話

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 食後暫くして、ご主人様が風呂を勧めてきた。食事ならまだしも風呂は一緒に入れないし、ましてや流石に主人よりも先に奴隷が入るのは抵抗があるので断りを入れたが───

「俺は朝風呂派なんだ……夜は入らん」と、あたかもいま思いついたかのような様子でご主人様が言ってきた。

 ここまでくれば俺たちを気遣ってくれているのだろうというのは十分に伝わってくる。だが、それにしたって風呂くらいは先に入ればいいのにと思う。

 最終的には龍人と狐人に後押しされて、順番に風呂に入ることになった。

 バスルームへ入れば、床はローザジロナの大理石でできており、天井にはオーバーベッドシャワー、そして広々とした円形のジャグジーが設置されていた。

 全身を洗ってジャグジーの中へ入る。

 気を張っていたせいで強張っていた身体から力を抜くと同時に「ふぅ……」と息を吐く。

(気持ちいい……)

 カミュアでも風呂には入れるようにはなっていた。だが、バスルームに居れる時間が一人五分と決まっているため、いつも身体を洗う時間に使って終わってしまっていた。人間のように毛がなければ少しは風呂に入れたのだろうが、俺は獣人だからそうもいかない。

 久々の風呂に俺は、ずるりと背中を滑らせて顎まで浸かる。ジャグジーは身体の大きな獣人が入っても窮屈さはない。寧ろまだ余裕があるくらいだ。

 じわじわと温まってゆく身体は、まるで荒んだ心まで温かく包み込んで癒やしてくれるかのようで、俺はリラックスし、瞼を閉じる。

 バスルーム内には俺、ただひとり。バシャリと顔に湯をかけると、天井に立ち込める白い湯気を見上げる。

「命令、してこなかったな……」

(たったの一度も……)

 そして、咎めるられることも一切なかった。それどころか、奴隷の俺たちの足を心配し、服と靴を買い与え、食事を与え、さらにはお風呂にまで浸からせてくれた。

 とはいえ、血の契約を結ぶまでは、安心も信用もできない。だが、気遣ってくれた分は、せめて優しくしてくれた分は……返したい、と思った。

 俺はまだ、あの人間を信用していない……。そう自身に言い聞かせ、気持ちを誤魔化す。

 本当のところをいうと信じてしまいたいし、俺は……信じたがっている。しかし、そう思ってしまうのはあの悪魔の甘い囁きの所為だからかもしれない。俺にとっても、他の奴隷たちにとっても都合の良い条件をご主人様が出してきた。それに釣られて手を伸ばしてしまえば、裏切られた時が……恐い。あの優しさも、俺たちに対する気遣いも、今だけかもしれない。

 心身ともに弱った今の状態で、誰かを信じるのは───覚悟がいる。
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