【ライト版】元死にたがりは、異世界で奴隷達と自由気ままに生きていきます。

産屋敷 九十九

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第4章 奴隷と暮らす

第14話

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 呆然としたままの俺は、食べられない物は無いとご主人様に答えて、また魔物肉へと視線を移す。

 凶暴な妖精ゴブリンの炒め物に、大柄で豚顔の魔物オークの串肉、複数の頭を持つ蛇ヒュドラの刺身……匂いからしてそんなところだろう。

 魔物は通常の動物とは違い、体表が硬い皮膚で覆われており、さばくのが大変で苦労する。だが、内臓は柔らかく、物によっては牛のステーキよりも上質でとろけるくらいに美味しい。

 厳しい環境で生まれる魔物が、すぐに死んでしまわないように進化した結果、皮膚の硬い魔物になったという。魔物は身を守るために多くの栄養を皮膚へと送り込むため、栄養が身体全体へ均等に行き渡るわけではない。よって、その分内臓が柔らかくなるのだそうだ。

 魔物が高級食材とされているのは、まず硬い皮膚のためさばくのに時間がかかるということ。そして、魔物の中には性質上、強い臭いを放つものや毒を持つもの等がいるため、処理するのに手間がかかるということ。最後に、上質な肉である、ということだ。

 それがどっさりと目の前に、山のようにある。そして、このご主人様は食せと言う。

(試されているのか………? 俺たちは……)

 やはり揶揄からかわれているのか、と思った。未だに何の働きもしていないのに、いや、働いたとしても奴隷がこの高級料理を口に出来る機会は絶対にこない。

「そうだ」と言ってがばりと顔を上げたご主人様に、やはりこれは俺たちが食べる物ではないのだろうと納得する。しかし───

「これ温めてもらおうか。これじゃあ足りないよな? ルームサービスも……」と、ソファ前のローテーブルに置かれたメニュー表をご主人様が手に取る。

 あろうことか、俺たちのためにルームサービスを頼むと言いだし、ご主人様はドアの外の人工妖精に注文をしに行った。

 それから暫くして、ノックの音と共に、大きなテーブルを埋め尽くすほどの大量の料理が複数のスタッフによって運び込まれた。スタッフが一品ずつ丁寧に料理の説明をしていたが、ご主人様はあまり聞いていない様子だった。だが、一応スタッフの説明に相槌あいづちは打っている。

 テーブル上の料理は、父や俺が騎士爵の立場についていた頃のものと似ている。ここは高級な宿であり、貴族が集まりやすいところだからなのだろう。

 スタッフが綺麗な礼をし、部屋を出て行く。ドアが閉められるのを見届けたご主人様は、頭部のフードを取ると、「じゃあ、食べるぞ」と俺たちに声をかけて、食べ始めた。

 そのご主人様の掛け声に、龍人と狐人はローブを脱いで背もたれにかけると、料理に手をつけ始めた。そんなふたりとご主人様を交互に見て、食べてもいいのかと判断した俺と鬼人とエルフもローブを脱ぎ、そおっと料理の乗る皿に手を伸ばしたのだった。

「美味しい……」

 久しぶりに食す料理の味に感動し、ぽろりと口からこぼれる。奴隷商館にいた頃は、ほとんど味のしないものばかり食べ、ただただ呼吸をするためだけに生きているような生活だった。

 料理を口に運ぶ手が、自然と速くなる。奴隷になる前が如何いかに恵まれた環境だったか思い知らされたようで、胸が締めつけられ痛んだ。

 料理を口に運んでいた手が止まる。視線の先には自分が平らげた後の白い皿。

(何で、俺がこんな目に……俺が、何をしたっていうんだ……)

 惨めで、悔しくて、視界が歪む。急に、俺は泣きたくなった。



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