【ライト版】元死にたがりは、異世界で奴隷達と自由気ままに生きていきます。

産屋敷 九十九

文字の大きさ
92 / 103
第4章 奴隷と暮らす

第21話

しおりを挟む
 奴隷専用の部屋から出てきたご主人様の目の下は黒く、眠たいのか瞼が半分下がっていて目つきが悪い。やはり一睡もしていないのだろう。

「ちゃんと寝たのか?」

(それは……こちらが聞きたい)

 他の奴隷も同じことを思っていたのか、沈黙を挟んでからご主人様に挨拶をした。そして、俺はご主人様の問いに答える。

「自分はご主人様の護衛ですので……ですが、一応仮眠は取りました。日中の護衛もさせて頂きますので」

「オレも護衛で買われてるからな」

「全員寝てないってことは、ない、よな?」

 それから、ご主人様は狐人と龍人に体調管理を指摘され、たじたじになりながら歯切れ悪そうに返事をしていた。その軽快なやり取りに、また、胸がもやもやしたが、俺は無視する。

「ご主人様、紅茶を淹れさせて頂きました」

 テーブルに並べられた五つのお茶っ葉の瓶から、一種類を手に取り、紅茶を入れたエルフがご主人様を誘動して椅子を引き、座らせる。

「有難う」

「こちらは、ハーブティーです。不眠改善や疲労回復などの効果があります」

 昨夜までの萎縮した様子は薄れて、きびきびとしたエルフの所作に、俺は目を丸くする。ご主人様の前で意思を持った行動をしたのは、これが初めてではないだろうか。龍人の話を聞いて、考えが変わったのか……?

 ハーブティーは、後に俺たちも頂いた。家事奴隷なだけに、入れられた紅茶は温度も濃さも丁度良かった。

 それから、朝食はルームサービスで済ませ、手荷物は必要最低限にし、俺たちは宿を出た。


***


 宿を出た俺たちは、不動産を何件か回っていたのだが。

「お客様! こちらはいかがでしょう!」

「いやいや、お客様には絶対、こちらの物件がよろしいかと!」

「こちらです! こちらにしませんか!」

「じ、じっくり選びたいので資料だけ頂こう! 失礼!」

 資料を目前まで近づけられ、物件を勧めてくる業者の圧に耐えきれなくなったご主人様は、資料だけを奪い、不動産を出るのを繰り返していた。

"金に糸目はつけないので、丈夫で大きな屋敷が欲しいのだが"

 そんなことを言ってしまったら最後、金に目の眩んだ業者が値の張るものばかりを押し付けてくるのは目に見えていただろうに、なぜ煽る言い方をするのか……。


***


 大量の資料を手に持ったままでは、ゆっくり選べないということで、俺たちは路地裏のカフェに寄ることになった。

 資料をテラス席のガラステーブルに広げ、一枚一枚目を通していく。

 昨夜、医師の狐人は清潔な部屋、エルフは静かな場所にある家、護衛の鬼人は頑丈で壊れない部屋、そして俺は庭や部屋など鍛錬する場所を希望した。

(それに見合った条件が有ればいいが……)

 というか、本当にその条件で探しているのだろうかと気になった俺は、隣りに座るご主人様にちらりと視線だけを向けてみれば、資料に写る屋敷を隅から隅まで丁寧に確認していた。
 
 奴隷を五人まとめて買うくらい金払いがいいので、てっきり家のことに関しても豪快に買うものだと思っていた。とても意外だ。

「こちらは、いかがでしょう?」

 エルフが席を立ち、少し屈んでご主人様に一枚の資料を手渡した。すると、ご主人様はやや俯いて目頭を押さえ険しい表情をしたため、エルフがぴたりと身体の動きを止める。あれは、気に触ることをしてしまったのでは? という表情かおだ。

 しかし、ご主人様はそんなエルフに対して何か言うわけでもなく、目頭を押さえていた手を離し、受け取った資料に目を通し始めた。恐らく、徹夜で作業をしていた疲れがあるだけなのだろう。

「……静かな場所の方がいいんじゃなかったのか?」

 エルフを気遣うその言葉に、奴隷の意見も反映させてくれるのか、と思った。その後、その資料の家は却下されることになったが、ちゃんとした理由を述べていたので、エルフも納得している様子だった。

"大雨で洪水になって水位が上がったら危ない"

 近づかなければいいだけの話だが、にしてみれば危ないと感じるのだろう。

しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう
ファンタジー
運び屋(ポーター)のルカ・ブライオンは、冒険者パーティーを追放された。ーーが、正直痛くも痒くもなかった。何故なら仕方なく同行していただけだから。 ルカの魔法適正は、運び屋(ポーター)に適した収納系魔法のみ。 攻撃系魔法の適正は皆無だけれど、なんなら独りで魔窟(ダンジョン)にだって潜れる、ちょっと底無しで少し底知れない運び屋(ポーター)。 そんなルカの日常と、ときどき魔窟(ダンジョン)と周囲の人達のお話。 ※タグの「恋愛要素あり」は年の差恋愛です。 ※ごくまれに残酷描写を含みます。 ※【小説家になろう】様にも掲載しています。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...