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第4章 奴隷と暮らす
第26話
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「二ヶ月分の服と靴を選んでこい」
なかば強引に、また俺たちに買い物籠を押しつけ渡してきたご主人様がそう言った。
俺たちは、男性衣服専門店に来ていた。奴隷になってから初めて買いに行った服屋と靴屋では、客や店主に蔑むような目で見られたため、入るのは抵抗があった。
しかし、今は服と靴を身につけており、奴隷として見られることはなかったため、ほっとした。
"二ヶ月分の服と靴"と言われても、何を着ていいのかわからない。奴隷に堕とされる前、騎士団に所属していた俺は、日々忙しなく働いていた。お洒落なんて考えていられるほどの余裕はなかったため、カッターシャツと革靴ばかりを身につけていたのだ。
店内を見て回り、暫し考えてみるも何を買っていいか分からず、俺は革靴と二ヶ月分のカッターシャツ、寝巻きを籠の中へ入れたのだった。
***
それから俺たちは、生活魔道具店、新聞販売店、専門書店、治療器具専門店と回っていった。
キッチンに必要な物を生活魔道具店で買い揃え、新聞販売店では龍人の希望により定期購読の申し込みをし、『専門書店』や『治療器具専門店』では狐人が医師として働く上で必要なものを購入していったのだ。
ご主人様が俺たち奴隷の要望が書かれたノートを開いて、文字の上に線を引いてチェックをいれていく。ちらりと覗いてみれば、"薬品"のところには、まだ線がなかった。
***
ローダの薬屋へとやってきた。
チリンチリン────……。
ドアベルを響かせながらご主人様がドアを開ける。瞬間、ぶわりと凄まじい匂いが俺たちを襲った。
「ゔぐっ⁉︎」
「ぐぇっ⁉︎」
「ゔぉっ⁉︎」
「ゲッホゲッホ⁉︎」
「うぇっ⁉︎」
下から二番目の咳が俺だ。
(な、んだ、これは⁉︎)
猛毒を顔面に撒き散らされたかのような衝撃だった。強烈な臭いを吹きかける魔物に匹敵する……いや、それ以上にキツいかもしれない。通常の狼人より鼻の利く俺にはかなりつらい。目にも染みてきて涙が出てくる。
だが、こういうものは時間が経てば、少し順応してくるから不思議なものだ。そう思ったのも束の間だった。
薬屋の店主と狐人が話している間、俺たちは店内を見て回り時間を潰していた。
店内の薬の臭いが、俺の鼻を通り抜けて口や肺、脳まで侵食されていくようで頭痛がしてきた。確かに最初に比べて順応はしたが、完全とまではいかなかったようだ。
胃から口へ迫り上がってきそうな気持ち悪さに俺は口を押さえた。
(き、もちわる……)
俺は早歩きで、ご主人様の元へ向かった。ローブを纏った小さな後ろ姿を発見し、声をかける。
「すみません、ご主人様……」
「……気がつかなくて、すまなかった。一旦、外に出ようか」
理由を全て説明する間もなく、ご主人様は察し、しかも俺に申し訳なさそうな顔をして謝罪をした。
「おーい、おまえら! 俺たち、少し外に出てくるわ!」
大きな声で店内にいる奴隷たちにそう伝えたご主人様は、俺の背に優しく手を添えて外へと出してくれた。
出てすぐ側にある、煉瓦で出来た花壇の縁にふたりで腰掛ける。
「すみません……」
本当に情けない。護衛であるにもかかわらず、気遣われてしまうとは。
「いや、謝る必要はない。獣人に対しての理解が足らなかった俺の責任だ」
そう言ったご主人様は、アイテムボックスから毛布と飲み物を取り出した。飲み物を俺に手渡し、毛布を背中から包み込むようにかけてくれた。そして、「よし、これでいいな……」と納得するように呟くと、ご主人様は立ち上がる。
「おまえはここで休んでいろ。夜は冷えるからその毛布でも被っているといい」
ご主人様がドアノブに手を掛けると同時に、「有難う、御座います……」と俺が慌てて言うと、俺に背中を向けたままのご主人様の頭部が、少し下がった。
身体を包む毛布をぎゅっと俺は抱きしめる。
(温かい……)
凍りついた心が、溶けていくようだ。
ふわふわの毛布に鼻を埋めて、スンと匂いを嗅ぐ。だが、匂いがしないことを残念に思った。
(あの人間は、一体どんな匂いがするのだろうか……?)
なかば強引に、また俺たちに買い物籠を押しつけ渡してきたご主人様がそう言った。
俺たちは、男性衣服専門店に来ていた。奴隷になってから初めて買いに行った服屋と靴屋では、客や店主に蔑むような目で見られたため、入るのは抵抗があった。
しかし、今は服と靴を身につけており、奴隷として見られることはなかったため、ほっとした。
"二ヶ月分の服と靴"と言われても、何を着ていいのかわからない。奴隷に堕とされる前、騎士団に所属していた俺は、日々忙しなく働いていた。お洒落なんて考えていられるほどの余裕はなかったため、カッターシャツと革靴ばかりを身につけていたのだ。
店内を見て回り、暫し考えてみるも何を買っていいか分からず、俺は革靴と二ヶ月分のカッターシャツ、寝巻きを籠の中へ入れたのだった。
***
それから俺たちは、生活魔道具店、新聞販売店、専門書店、治療器具専門店と回っていった。
キッチンに必要な物を生活魔道具店で買い揃え、新聞販売店では龍人の希望により定期購読の申し込みをし、『専門書店』や『治療器具専門店』では狐人が医師として働く上で必要なものを購入していったのだ。
ご主人様が俺たち奴隷の要望が書かれたノートを開いて、文字の上に線を引いてチェックをいれていく。ちらりと覗いてみれば、"薬品"のところには、まだ線がなかった。
***
ローダの薬屋へとやってきた。
チリンチリン────……。
ドアベルを響かせながらご主人様がドアを開ける。瞬間、ぶわりと凄まじい匂いが俺たちを襲った。
「ゔぐっ⁉︎」
「ぐぇっ⁉︎」
「ゔぉっ⁉︎」
「ゲッホゲッホ⁉︎」
「うぇっ⁉︎」
下から二番目の咳が俺だ。
(な、んだ、これは⁉︎)
猛毒を顔面に撒き散らされたかのような衝撃だった。強烈な臭いを吹きかける魔物に匹敵する……いや、それ以上にキツいかもしれない。通常の狼人より鼻の利く俺にはかなりつらい。目にも染みてきて涙が出てくる。
だが、こういうものは時間が経てば、少し順応してくるから不思議なものだ。そう思ったのも束の間だった。
薬屋の店主と狐人が話している間、俺たちは店内を見て回り時間を潰していた。
店内の薬の臭いが、俺の鼻を通り抜けて口や肺、脳まで侵食されていくようで頭痛がしてきた。確かに最初に比べて順応はしたが、完全とまではいかなかったようだ。
胃から口へ迫り上がってきそうな気持ち悪さに俺は口を押さえた。
(き、もちわる……)
俺は早歩きで、ご主人様の元へ向かった。ローブを纏った小さな後ろ姿を発見し、声をかける。
「すみません、ご主人様……」
「……気がつかなくて、すまなかった。一旦、外に出ようか」
理由を全て説明する間もなく、ご主人様は察し、しかも俺に申し訳なさそうな顔をして謝罪をした。
「おーい、おまえら! 俺たち、少し外に出てくるわ!」
大きな声で店内にいる奴隷たちにそう伝えたご主人様は、俺の背に優しく手を添えて外へと出してくれた。
出てすぐ側にある、煉瓦で出来た花壇の縁にふたりで腰掛ける。
「すみません……」
本当に情けない。護衛であるにもかかわらず、気遣われてしまうとは。
「いや、謝る必要はない。獣人に対しての理解が足らなかった俺の責任だ」
そう言ったご主人様は、アイテムボックスから毛布と飲み物を取り出した。飲み物を俺に手渡し、毛布を背中から包み込むようにかけてくれた。そして、「よし、これでいいな……」と納得するように呟くと、ご主人様は立ち上がる。
「おまえはここで休んでいろ。夜は冷えるからその毛布でも被っているといい」
ご主人様がドアノブに手を掛けると同時に、「有難う、御座います……」と俺が慌てて言うと、俺に背中を向けたままのご主人様の頭部が、少し下がった。
身体を包む毛布をぎゅっと俺は抱きしめる。
(温かい……)
凍りついた心が、溶けていくようだ。
ふわふわの毛布に鼻を埋めて、スンと匂いを嗅ぐ。だが、匂いがしないことを残念に思った。
(あの人間は、一体どんな匂いがするのだろうか……?)
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