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居候屋、来たる

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二人は晩御飯を食べ終えると、縁側に出ていた。

武雄のあぐらをかいた足の横にはつまみが、そして片手には缶ビールを持っていた。一方で和哉青年は足を下ろしてぶらぶらと遊ばせていた。

少し酔いがまわってきたのか、ほんの少し武雄の顔が赤く色づいていた。

「何も言わなくてもいいから、父さんの話、聞いてくれるか?」

「うん」

武雄は和哉青年に視線を移すことなく星空を見上げ、語りはじめた。

「三十一年前の夏休みに家族ぐるみでおまえの友達と川にキャンプへ行ったとき、母さんたちはバーベキューの下準備をしていて、父さんたちはテントを張ったり子どもたちと遊んでいた。父さんはトイレに行きたくて、川から離れたんだ。ほんの少しの間だし、他の親たちも一緒だったから大丈夫だと思ってたんだ。でも、それが駄目だったんだ。和哉、ごめん。ごめんじゃ済まされていいことじゃない。俺がもっとしっかりしていれば……。
警察にも電話して、皆んなで探したのに見つからなくて、どれだけ探しても見つからなくて。おまえはきっともう死んでるんだろうなって月日が流れていくうちにそう思うようになった。でも、せめて死体でもなんでもいいから、父さんのところに戻ってきてほしかった……。じゃなきゃ、墓に手を合わせにいけないじゃないか‼︎」

武雄は涙ながらに、ぐいっと缶ビールを一気飲みする。それは、さらに酔いがまわってしまえば胸に広がる苦しみが紛れることを知っていたからである。

「あれから、母さんとは喧嘩けんかが増えて、母さんは家を出て実家に帰って、別居べっきょすることになったよ。父さんも母さんも和哉のことが大好きだから喧嘩けんかになってしまうんだ。別居べっきょは仕方がないとはわかってるんだが、やっぱり、この家にひとりってのは寂しいな」

武雄は涙でぐしゃぐしゃになった顔を袖で乱暴に拭うと、大きく鼻をすすった。

「俺も、父さんと母さんが大好きだよ」

その一言で、救われたような気持ちになったが、和哉本人ではない彼にどう伝えればよいのか分からず、武雄は無言で笑みを向けるのみに終わった。

酒の力を借りてではあったが、感情を吐き出せたことで武雄の胸にのしかかった鉛のようなものが少しだけ取り除かれた気がした。武雄はからになった缶ビールを置いて立ち上がる。

「さて……もう寝るか」

武雄は泣き腫らした顔で笑顔をつくり、和哉青年に言った。

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