異世界行っても怠惰を貫く。

産屋敷 九十九

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おっ、今回はちゃんと着てるわ。

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読み書きを教えてもらうために再びローレンス図書館へやってきた。

今度はリーナと一緒だ。

「お嬢様はガルシアからこの図書館について何か聞きましたか?」

館内を歩きながらリーナが聞いてきた。

「いや? 古の魔書を借りにきただけだから、大して説明はされなかったな。でも、この奥に変質者がいることは知ってる」

「へ、変質者ですか? もしかして、アレス様のことでいらっしゃいますか?」

アレス『様』だとぉ⁉︎

ガルシアとは随分、扱いが違うな。

あ、でも、変質者と卑怯者、どっちに様をつけるかっていったら、やっぱり私も変質者の方かな? なんて……まぁ、正直言ってどっちも嫌だけどな。

「まぁ、この中にいるやつであってるならアレスという者であってると思うが」

と、足を止めて正面に見える本棚を指差した。

すると、リーナも同様に足をとめた。

「念のために説明させていただきますが、この図書館は────」

リーナからこの図書館の構造、管理者としての役割、そして歴史を話してくれた。




現在、ローレンス図書館の管理者はアレスという夢魔が務めている。

図書館の管理者は代々、夢魔が務めると決まっていた。

この図書館の創設を計画したのは、初代魔王であり、その初代が図書館の管理者に指名したのは、夢魔のレイルーンだった。

創設の計画段階で夢魔を管理者にすることを初代は決めていたという。

初代はその理由を次のように語ったそうだ。

『夢魔は様々な者たちの夢を渡り歩き生きて行く種族である。

故に、夢を他者に見せることに長けている。

だからこそ、その能力を活かし、書物に記された歴史を映像化し見せることで、皆に語り継いでいってもらいたい』

昔、図書館はあれど利用する者はほとんどいなかった。

貴族ならば、文字の読み書きは可能で図書館を利用する者はいた。

しかし、当時、学校はあれど学費が高額で通う庶民は少なかった。

だから、庶民にとっては文字は馴染みのないもので、読み書きができなかった。

よって、庶民が図書館を利用することはなかったのだ。

そのことを初代は知っていた。

だからこそ、読み書きのできない庶民へ映像として語り継いでいってもらおうと夢魔のレイルーンをローレンス図書館の管理者に指名したのだった。

図書館の管理者は、図書館の全ての書物を読み込み、いつでも利用者に映像化して見せられるようにしておかなければならない。

ここの図書館の管理者というのは書物を管理するだけでなく、内容を全て把握する必要がある。

だから他とは違う造りになっている。

円柱状の図書館が二つ連なっており、その円柱と円柱の間にはこの城の関係者しか入れないように仕掛けが施されている。

二つの円柱状の図書館には全く同じ書物が並んでいる。

一つは、利用者が読むための書物。

そして、もう一つは管理者が暗記するための書物。

「──一般に利用されている図書館を『ローレンス図書館』、そして、アレス様が暗記するための書物が並んでいる図書館を『夢魔の間』と城の皆は呼んでいるのです」

インキュバスじゃないのか………ちょっと残念。

まあそれはいいとして……。

私をぱちぱちとリーナを見つめる。

リーナはいつ舞台女優になったのか、左手を胸に当て、右手は天井に向かって手を伸ばしている。

目をきらきらさせながら話すその姿は恋する乙女のようだ。

ほほう。

あの全裸マンに恋心か?

「………リーナ」

「はい? お嬢様、なんでしょう?」

「もしや、アレスに『ほの字』なのか?」

「いいえ」

途端、表情がすんと真顔になり、いや、真顔よりもちょっと不機嫌な感じだ。

うむ、『乙女心』は全くわからんな。

一応、女子なのだが………。

「誰があの全裸男を………チッ。気持が悪くて反吐が出そうです。確かにこの図書館の管理者を務める夢魔は秀才で尊敬に値しますがそれだけです。それだけのゴミでございます」

なんかリーナ、荒んできたな……。

これが本来のリーナなのか?

まぁ、素を見せてくれるのは非常に喜ばしいことだが、複雑でもある。

……うむ、まぁこれがリーナだ。

私は深く考えるのをやめ、開き直った。

「では、行きましょうか」

リーナは本棚に近づき、ガルシアがやっていたように、本棚の奥に触れるともう一つの図書館が現れた。

「あら、いらっしゃい。また会ったわね人間ちゃん」


そこに全裸男はいなかった。

そこには、ワインレッドのバスローブとスリッパを身につけ、片手に赤ワインの入ったグラスをくるくる回し、カウンターに設置されている椅子に足を組んで座る男がいた。

顔も声も全裸男と同じだったため、同一人物であることはすぐにわかった。



「どこの金持ちだよ⁉︎」



思わずそう突っ込んでしまった。


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