触れると魔力が暴走する王太子殿下が、なぜか私だけは大丈夫みたいです

ちよこ

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触れてしまえば、分かってしまう

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華やかなパーティの影で、城の東翼にはひときわ静かな部屋が用意されていた。



【談話室】

建前ではそう呼ばれているが、実際は「異性に触れた時、魔力がどう反応するか」を確認する場所だった。



王太子の特異体質は、公式には「王族魔力と特性魔力の共鳴反応」とされていたが、

その正体は未だ不明で、相手によって暴走の形も被害の規模もまったく異なった。



だからこそ、触れる場は別室で。

万一の事態に備え、魔法防壁と対処班が配置された半ば実験室のような空間だった。






「次、ノエル=アーデン令嬢入室を」


扉が閉まり、静寂が訪れる。

数秒後、ぎゃあああああ!と天井が揺れるような悲鳴。

そしてガシャンという音。

爆発、そして、室内から大急ぎで撤収する召使いの姿。



「……彼女、水魔力だったよね?」

「うん、今回は何だろうね…」





「次、リュシア・フィオレッタ令嬢」


静寂が落ちる。



数名の従者と騎士が、手元の記録用紙を覗き込んだ。



「植物属性か。」



「フィオレッタ家は薬草栽培中心の自然共存系って記録されてる」



「前の似た系統、全部暴走してるよね。あの城中にツタ増殖はキツかったなぁ…」



「魔力レベルは微弱…だが、逆に反応しやすいかもしれんな。」



魔力が大きければ、王子に反発する。

だが、微細で繊細な魔力ほど、王子に吸い寄せられやすい傾向があると、一部の魔道学者は報告していた。



——つまり、どちらにしろ危ない。



リュシアは何も知らぬまま、小さく頭を下げて入室した。



「失礼します。わっ、床……ぴかぴか」



まるで教会のように静かな空間。

周囲の壁には結界が張られ、四方から監視の目が注がれていた。



その中心に、王子がいた。

立っていた彼は、微笑んで会釈を返す。



「ご案内が不十分だったかもしれません。この部屋では、少しだけ手を取らせていただくことになっています」



「……はい」



「怖がらなくて大丈夫ですよ。ほんの一瞬です。万一のことがあっても、私が必ず止めます。ですから…」



王子の声は、まるで傷ついた動物をあやすように、静かで優しかった。



リュシアはきょとんとしたまま、目の前の椅子に腰かけた。



「手……ですね」



リュシアの差し出された手を、王太子の手が、ふわりと重ねる。



その瞬間——



何も、起こらなかった。



暴風も、氷結も、火柱も、地鳴りもない。



それどころか、部屋の空気がすっと柔らかくなるのを、誰もが感じた。



「……あれ?」



リュシアが指先を見つめる。

魔力の反応がない。

いつもなら、小さな芽吹きを起こすのに。

それがまったく反応しない。





「……ありがとう」



王子が、小さく息を吐いた。



リュシアは首をかしげる。



「あの、何か終わったんですか?」



「はい。……すべて。」



王子が、初めてそんな風に微笑んだ。



部屋の中で。息をのんでいた魔導師たちが一斉に記録を取り始める。



「記録確認。暴走反応なし」

「安定魔力確認」

「接触後、王太子の周囲魔力に波動減衰あり」

「何も起きなかった」



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