イケメンの定義〜西条さんがブサイクって皆さん正気ですか?〜

ちよこ

文字の大きさ
3 / 10

親友 森下加奈子

しおりを挟む
親友の早坂由紀は美人だ。
とてつもない程の美人だ。
初対面は初等部1年の時。
リアルなバービー人形キタ!!
興奮したのを覚えている。
あまりにも完璧に整っている顔立ちで嫉妬する事は無かった。
それよりも近くで鑑賞したい。
着せ替えしたい。
7歳の私の頭の中は可愛い洋服を着せることでいっぱいだったのだ。

結果的に由紀とは大学までの腐れ縁となり、一番の親友である。

だからそんな友が大学時代に初めて
「あの人素敵よね」
と呟いた先の人物を見て絶句した。

「ねぇ、由紀。私には用務員のおじさんしか見えないんだけど…気のせいよね?」 
恐る恐る聞くと

「えっ。うん、あの用務員さんだけど?あ、指輪してる…やっぱり既婚者かぁ。素敵な人だから当たり前だよね。」

空耳じゃなかったようだ。

「そういえば今まで由紀の好みのタイプて聞いたことなかったよね。数々のイケメンを振ってきたから理想が高いと思ってたんだけど。」

「男性のタイプ?うん、多分高いと思う。えーとね…」

絶句した。
ただのブサイクじゃないか。
そりゃイケメンを断るわけだ。
第一、由紀に正面から近づいてくるのは自分に自信が無いと無理だ。
由紀は美人な上に表情が控えめだからクールな印象を受けがちなのだ。
中身はそんな事ないけど?
だから由紀の好みであろうブサイクはこっそりと想いを募らせるだけで、声なんか掛けてこない。
たまに暴走してストーカーになる奴はいるけど、それは論外だ。

なんて事。
バービーのお相手はケンのはずなのに。
由紀の隣にブサイクなおっさん?
ムリムリムリ。
想像するだけで泣ける。

でも、それが由紀の幸せなら応援するべき?
ある意味ブサイクに夢を与える由紀はさすがなんじゃないだろうか。
うん。子供は由紀に似る事だけを祈ろう!
由紀の優性遺伝がブサイクの劣性遺伝に勝つ事を祈る。
それにまだ由紀は理想の王子様?とやらには出会えていないし。
もしかしたら、イケメンは無理でもフツメンぐらいに落ち着くかもしれないし。
大学生活なんて出会いの宝庫じゃないか。
親友の為に良さげなフツメンを探そう!
ついでに私はイケメンを探そう!!




なんて思っていた時代もありました。
私、森下加奈子は全敗した 。
由紀は妥協を許さなかったのだ。
そんな大学生活を思い出しながら、お気に入りのカフェで珍しく興奮した親友の話を聞いている。


「で?王子様に出会えたと。」

「そうなの!もう本当に素敵な人で!あぁ、思い出しただけで胸がキュンとしちゃう。これが恋なのね。」

ほんのりピンク色に頬を染めてうっとりとしている由紀は色気がダダ漏れして超絶に美人だ。
周りの視線を釘付けにしてる事は、気づいていても気にはしていないんだろう。

「ふーん。チビでハゲで一重のデブなんでしょ。でもまぁ 唯一の救いは仕事が出来る事ね。ちなみに写真無いの?」

どのレベルか知りたい。
怖いもの見たさで見てみたい。

「あ、写真あるよ!何か学生時代に友人とニ人で会社を立ち上げたみたいなの。それからは仕事一筋だったらしくて…はぁ。あんな素敵な人が独身でいたなんて信じられない。」

スマホに映し出された写メを見て、私は視覚の暴力を受けた。
マジか。えっ?38歳?50歳じゃなくて?
年齢詐称してない?
頭バーコードだけど、ヒゲ濃くて口周り真っ青じゃん!
目とか開いてんのか寝てんのか分からないくらい糸目で鼻はぺったんこ。
身長は由紀の耳ぐらいだから160cm位か。
足とか由紀の膝くらいしかないんじゃない?

そして何より紫のシャツにオレンジのネクタイって!
せめてセンスは良くあれよ。
周りも止めようよ!アドバイスしてやって!
副社長なんでしょ!
スーツは良い物っぽいのに、裾を詰めすぎてライン崩れてるし…
デザイナーが見たら泣くぞ。
もう突っ込み所が多すぎて疲れる。

「あー、うん。由紀のワンピース可愛いね。似合ってる。さすがセンスあるわ。隣の人にもアドバイスしてあげたら?」

「ふふ、素敵な人でしょ。西条貴之さんて名前もかっこよくて、服のセンスも斬新よね。私には思いつかない配色だわ。それなのに服に負ける事なく似合ってるなんて!」

名前!西条って!もっとこう
戸愚呂とか轟とか似合いそうなのあるでしょ。
いや、全国の戸愚呂さん轟さんすみません。

「分かった、分かった。それで次に会う約束はしたわけ?」

「うん。帝和ホテルでディナーでもって誘われちゃった。ど、どう思う?」

おい、西条!
早すぎだろうが!
ホテルのディナーって。
2回目は水族館か映画がセオリーじゃない?
しかもそのホテルクリスマスや記念日に♡って人気のとこじゃん。
がっつきすぎ!
気持ちは分かるけどがっつきすぎ!!
いくら由紀の反応が良かったにせよ焦りすぎだわ。

「由紀は何て答えたわけ?」

「はい。楽しみにしてますって。」

「意味理解してる?」

「うん、もちろん。もう西条さん以上に素敵な人に出会える気はしないし、自分で決めたの。そこで加奈ちゃんに色々と相談したくて。その、下着とかな、な、流れ的な事とか」

真っ赤になりながらも覚悟を決めている目を見て由紀の本気を悟った。
そうか、由紀はこのブサイクに決めたのか。
このブサイクに由紀が抱か…イヤイヤ
無理無理無理無理無理…

ちらっと由紀を見ると真剣な表情で私の発言を待っている。

はぁ。
仕方ない。由紀が幸せなら私の価値観なんてどうでもいいじゃないか。
私も覚悟を決めよう!親友の為に。

「まずは下着ね…」



こうしてレッスンはコーヒーの追加を3回するまで続いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

麗子さんの受難

ちよこ
恋愛
「イケメン? そんなの興味ないわ」 富田麗子は、世間一般の「かっこいい男性」にはまったく惹かれない。 彼女の好みは、ぽっちゃりした優男や、どこか頼りなさげな愛嬌のある顔の男性。そんな彼女が、周囲から 「B専(不細工専門)」 などと囁かれていることは、もはや公然の事実だった。 そんな麗子には深刻な悩みがあった。 付き合う相手が、ことごとく 「変貌」 してしまうのだ! 最初は華奢でおっとりしていた彼氏も、いつの間にか爽やかイケメンに……。 恋愛市場のブルーオーシャンを突き進む麗子の、 波乱万丈ラブコメディ!

召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜

紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま! 聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。 イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか? ※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています ※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています

合コンでかわいい男子に出会った

御砂糖
恋愛
小華は友だちから合コンに誘われた。 友だちから「イケメン来るから!」と言われたが、小華の美の感覚は世界と正反対だった。 友だちに頼み込まれ、仕方なく合コンに参加する。 そこには、この世界基準のイケメンと一緒に、小華基準のイケメンがいた。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

ある日、憧れブランドの社長が溺愛求婚してきました

蓮恭
恋愛
 恋人に裏切られ、傷心のヒロイン杏子は勤め先の美容室を去り、人気の老舗美容室に転職する。  そこで真面目に培ってきた技術を買われ、憧れのヘアケアブランドの社長である統一郎の自宅を訪問して施術をする事に……。  しかも統一郎からどうしてもと頼まれたのは、その後の杏子の人生を大きく変えてしまうような事で……⁉︎  杏子は過去の臆病な自分と決別し、統一郎との新しい一歩を踏み出せるのか?   【サクサク読める現代物溺愛系恋愛ストーリーです】

定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました

藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。 そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。 ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。 その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。 仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。 会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。 これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

若くて魅力的な義叔母が俺を男にしてくれて嫁になりました 

宗介
恋愛
父親が再婚して義母となった人の妹乃蒼が遊びに来ると、その度にいじられていた。しかし乃蒼のことは嫌いではない。ある時、街で乃蒼と偶然出会ったところで告白されて、その日のうちに乃蒼のリードで初めての経験をすることに。その後も乃蒼の奔放さに悩まされながらも交際を続けて無事ゴールイン。父親とは義兄弟という関係に?

処理中です...