付き人に恋した没落子爵令嬢は髪を売る

空田かや

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34 公爵夫人の椅子

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公爵邸で治療を受け始めて、一週間ほどしてやっとリリアージュの熱が下がった。

すぐに処置をしなかったせいで、頬の傷は出血も多く腫れがひどかった。
その腫れにより高熱が出てしまったリリアージュは飲まず食わずの状態になり、意識も途切れがちになるほど一時は悪化してしまった。

すぐさまレオルドはお金に物を言わせ、王宮で働いている一番優秀な医者を連れて来て、リリアージュの治療に当たらせた。

その医者と公爵邸での手厚い看病のおかげで、傷は回復へと向かった。

リリアージュがうっすらと目を覚ますと、公爵邸の立派な天上画が目に入る。

その天井画は、花と妖精が美しく描かれているものだった。
絵心のないリリアージュに、その良し悪しは分からなかったがお金がかかっているという事だけはよく分かった。

周りを静かに見渡すと、リリアージュが見た事もないほど贅を尽くした造りの部屋だった。
家具や調度品のどれをとってみても美術品のように美しい。

アエルと付き合うようになって度々訪れていた公爵邸だったが、今いる部屋はまるでなじみのない場所だった。

いつものレオルドの部屋ではない事に、リリアージュは不安を覚えた。

「ここは…広すぎて落ち着かないからレオルドの部屋で休みたい……」

やっとまともに喋れるようになったリリアージュがそんな事を言ったので、ホッとしながらレオルドは冗談を言った。

「それは、俺と床を共にしたいという意味か?結婚する相手がいるのに軽薄だな……」
レオルドは、起きたリリアージュが眩しそうにしていたので、陽の光を遮る為にカーテンを閉めようとしていた。

「…薬で、寝てしまっている時なら私を抱いていいよ。出してもらった治療費は到底払えそうもないし…。ただ、一週間ぐらい体を洗っていないと思うから汚いけど……」

「……お前は。アエルに対して操を立てる気はないのか?ひどいやつだな…」

「公爵夫人の椅子は……まだ空いている?レオルド…」

リリアージュは、どこにも温度の感じない紫色の瞳をレオルドに向けてポツリと言った。
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