8 / 56
8時限目 少女の恐怖
しおりを挟む貴族学校を卒業した生徒たちはほとんどが国政の道へと進む。その最たるものが、国王の下に設置された行政司法機関『賢老院』である。彼らのほとんどには王都軍で立てた実績がある。戦争における勲章や戦果、評価、国王のために尽くしたという結果が、彼らの地位を押し上げる。
そのための実践戦闘。
強く優秀な人間でなければ、優れた臣下は務まらない。尊きものたちの使命、は生徒たちの身体と心の強さを志向とするものでもあった。
「行くニャ!」
最初に動いたのはミミだった。あろうことか模擬剣を投げ捨てて、素手のままで跳んできた。人間離れした跳躍力は、彼女の身体的な特徴によるものだった。亜人であるミミは、下半身が恐ろしく成長している。
「もらったニャ!」
「……おいおい、動きやすいからって、いきなり武器を投げ捨てるのはナシだろ」
「ニャ?」
彼女の攻撃を軽々とかわして、ダンテはミミの尻尾をつかんだ。
「ほうら、捕まえた」
「あっ……尻尾はだめニャ……」
「動きは悪くなかったけどな。3点」
「ニャーーーー!」
ダンテは手近な木の上にミミを放り投げた。高い樫の木にぶらさがったミミは「降りられないニャあ」と悔しそうに鳴いた。
「強い……」
「さぁ、早くも一人脱落だぞ。どうする?」
かかってこいと言わんばかりに煽ったダンテに対して、シオンとマキネスの二人は顔を見合わせると攻撃に入った。
まずマキネスが動いた。
模擬剣をダンテに向けると、彼女は静かに真名を口にした。
「守護對天」
守護魔導。
本来は自分たちの周りに結界を施す魔導だったが、出てきたのは案の定うごめく触手だった。模擬剣の先端からはじき出されるようにして出てきた触手は、鞭のようにしなりダンテに突撃していった。
「……本当に何やっても触手になるんだな」
手刀で触手を両断した彼は、隙だらけのマキネスに近づいた。服の端っこを捕まえて、ミミと同じところにほうり投げようとした瞬間、彼の視界の隅にシオンが動くのが見えた。
「隙……ありですっ!」
シオンが模擬剣を振り下ろす。思いきりの良い攻撃だったが、ダンテはその切っ先を二本の指だけで抑えた。
力いっぱい振り下ろしたはずなのに、ビクともしない。押すことも退くこともできずに、シオンは棒立ちになってしまっていた。
「狙いは良かったが、パワーが足りんな」
「うっ……」
「ジリ貧だぞ。降参するか?」
「……いや、まだです。マキネス!」
「先生……ごめんなさい。守護對天」
その言葉と同時にダンテの視界を触手が覆う。ぐじゅぐじゅと音を立てて向かってきた触手を避けるために、ダンテはマキネスを放して後退した。
「もうべとべとは勘弁だ」
その一瞬をシオンは見逃さなかった。
ダンテの行動を予想していたかのように、シオンの手のひらから黒い光がひらめいた。魔導展開。模擬剣を振り下ろす前から、シオンは魔導の行使を準備していた。
「魔導弾!」
シオンが放ったのは弾丸のように飛ぶ衝撃波。まともに喰らえばその箇所に、少なからず痛みを与えられる。シンプルで使い勝手の良い初等魔導。タイミングも完璧だった。
「悪くない」
魔導弾を目前にしながらも、ダンテは余裕の表情を見せていた。手のひらで円を描くと、衝撃波を迎えうった
「守護對天」
マキネスのものとは異なる、狂いない魔導結界。
正面に展開したダンテの魔導は、シオンが放った攻撃を全て受け止めた。あっさりと霧散した魔導弾を見て、シオンはがっくりと肩を落とした。
「そんなぁ……」
「だが今一つだったな。チェックメイトだ」
「……あ」
「えっ」
シオンとマキネスはつの間にか後ろに回り込んだダンテに身体を掴まれていた。そのままポイッとミミと同じ樫の木の上に投げ捨てた。
「うわああああ」
「……きゃああああ」
「シオンは7点。マキネスは4点だ」
粗が多すぎる。実戦経験が圧倒的に足りていないのが、三人に対するダンテの評価だった。それでも叩けば幾らでも伸びそうな可能性は感じる。
「さて、残るは……」
ダンテは一人、模擬剣を持って固まるリリアを見つめた。
「リリア。また気絶しているのか?」
「うう……」
「今回は意識はあるようだな」
リリア顔いっぱいに汗をかきながら、ダンテと向かい合っていた。模擬剣を持つ手は震えていて、押せば崩れそうなほどに弱々しかった。
それでも彼女はダンテの前に立っていた。
「どうして……」
ダンテはそんな姿を見て問いかけずにはいられなかった。
「どうしてまだ立っている。逃げ出したかったら、逃げ出しても良いんだぞ。戦うのが怖いなら、無理して戦う必要はない」
「わ、私は……」
「お前はお前だ。戦わなくても、人間は生きていける。剣を置いて生きる道もある。悪いことは言わない。それも選択の一つだ」
「……っ」
リリアは自分の唇を噛み締めた。膨れ上がる恐怖を押さえ込んで、彼女はなんとか言葉を発した。
「わ、私は……剣聖の娘……で」
「それはお前が戦う理由にはならない」
「でも……こんな……」
どうして震えが止まらないんだろう。彼女は自分でも不思議だった。剣を怖いと思ったことはない。けれど、立ちはだかる人間を前にすると、どうしても剣を振ることができなかった。
恐怖に心が飲まれる。
何もかもが怖くて仕方がなくなる。
どうして? どうしてなんだろう?
「リリア」
「う……うわああああああ……っ!」
叫びながら、目の前の敵へ突っ込んでいく。剣を振り上げて、がむしゃらにリリアは剣を振った。
空を切った模擬剣は彼女の手からこぼれ落ちる。崩れ落ちたリリアの身体をダンテが支えた。案の定びっしょりと汗をかいて、失神している。
「……これは重症だな」
ダンテはぐったりと気絶したリリアの身体を抱えた。
強いトラウマ。精神的な問題が彼女を戦闘から遠ざけている。武器を持つことがキーとなり、彼女の心に恐怖が流れ込んでいる。ダンテは彼女のイップスを確信していた。
この子を卒業させるには、それを克服しなければならない。曲がりなりにも剣を持って生きていくのだとしたら、この難点を乗り越えなければ道はない。
「何もここまで追い詰めることはなかっただろうに」
こんな少女が、あそこまで恐怖に怯えながら剣を振るわなければならないことに、ダンテは強く同情した。
0
あなたにおすすめの小説
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。
故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。
一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。
「もう遅い」と。
これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!
防御力ゼロと追放された盾使い、実は受けたダメージを100倍で反射する最強スキルを持ってました
黒崎隼人
ファンタジー
どんな攻撃も防げない【盾使い】のアッシュは、仲間から「歩く的」と罵られ、理不尽の限りを尽くされてパーティーを追放される。長年想いを寄せた少女にも裏切られ、全てを失った彼が死の淵で目覚めたのは、受けたダメージを百倍にして反射する攻防一体の最強スキルだった!
これは、無能と蔑まれた心優しき盾使いが、真の力に目覚め、最高の仲間と出会い、自分を虐げた者たちに鮮やかな鉄槌を下す、痛快な成り上がり英雄譚! 「もうお前たちの壁にはならない」――絶望の底から這い上がった男の、爽快な逆転劇が今、始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
かくろう
ファンタジー
【ためて・放つ】という地味スキルを一生に一度の儀式で授かってしまった主人公セージ。
そのせいで家から追放され、挙げ句に異母弟から殺されかけてしまう。
しかしあらゆるものを【ためる】でパワフルにできるこのスキルは、最高ランクの冒険者すらかすんでしまうほどのぶっ壊れ能力だった!
命からがら魔物の強襲から脱したセージは、この力を駆使して成り上がっていく事を決意する。
そして命の危機に瀕していた少女リンカニアと出会い、絆を深めていくうちに自分のスキルを共有できる事に気が付いた。
――これは、世界で類を見ない最強に成り上がっていく主人公と、彼の元へ集まってくる仲間達との物語である。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる