王都から追放されて、貴族学院の落ちこぼれ美少女たちを教育することになりました。

スタジオ.T

文字の大きさ
20 / 56

20時限目 女子部屋、再び

しおりを挟む

 女子部屋の暖炉の近くで、マキネスはすやすやと眠りこけていた。ずっと雨に打たれていた割には、熱が少しあるくらいで穏やかな顔で眠りについていた。

「怪我もなくて良かったです」

 彼女の顔を見ながら、フジバナはホッと息をついた。森の奥から巨大な触手が現れた時は何事かと思ったが、二人とも外傷がなくて、フジバナは安堵あんどした。触手を出した反動で、マキネスは気を失ったように眠ってしまったが、それだけだった。

「熱を下げる薬をもってきたニャ」

 ツボに入った軟膏薬なんこうやくを持ってきたミミが、マキネスの方に歩いてくる。「ちょっと失礼するニャ」と言いながら、マキネスの服の中に手を突っ込むと軟膏を塗り始めた。

「……ん」

「マキネスの腕、柔らかいニャ」

「あー良いなー。私も触らせてー」 

 彼女が眠っているのを良いことに、リリアとミミが手当たり次第に、マキネスの身体を触り始めた。ほっぺをつねられたり、お腹を触られたりで、マキネスは「ううん……」とうなされるように声をあげた。

「いつものお返しー」

「ミミは唐辛子食べさせられたニャ」

「顔に落書きとかしちゃう?」

「ぐっどあいであニャ」

「ちょっとちょっと、二人ともやめなさい」

 インクと筆を取り出したリリアを、フジバナが諌める。行儀よく正座した彼女は、きりっと咎めるような口調で言った。

「相手は病人ですよ」

「そんなこと言われても……今しかチャンスがないんだよ」

「フジバナ先生はマキネスの悪行を知らないニャ」

「そうそう、私だって何回、触手に巻き込まれたか。先生も昨日危うく服の中に入られるところだったじゃない」

「……っ。それとこれとは話は別です。やるなら正々堂々とやりなさい。夜襲をするのは戦争だけで十分です」

「正々堂々って言えばさ」

 ぴょんとソファに飛び乗ると、リリアはフジバナを見て言った。

「フジバナ先生とダンテ先生って、本当に付き合ってないの?」

「話に脈絡がなさ過ぎる気がするんですが」

「いやー前から気にはなっていたんだよねー。だってさだってさ、フジバナ先生って先生でもないのに、毎日学校に来てくれてるじゃん。それってつまりさ……」

「通い妻だニャあ」

「それそれ! ね、実際のところどうなのさ。付き合ってるの? ないの?」

 興味津々と言った感じで迫ってくるリリアに対して、フジバナはやや強めの口調で
答えた。

「前にも言った通り、私には隊長に命を救われています。他にもいろいろとお世話になっているので、力を貸したいと思うのは当然ではないですか」

「あ、先生、むきになってる」

「顔が赤いニャ」

「……!」

 思わずフジバナは自分の顔を抑えた。彼女の仕草を見て、ミミはニヤッと笑った。

「嘘ニャ」

「策士……!」

「ちょろいニャあ」

「フジバナ先生って真面目そうに見えるけど、天然だね」

 リリアとミミはおかしそうに笑いながら、狼狽するフジバナを見た。

「ふぅん、片思いかぁ」

「純情だニャあ」

「お、大人をからかうのはやめなさい……!」

 バンと机を叩いて、フジバナは視線をそらした。机を叩く音に反応したのか、寝ていたマキネスが「うーん」と声を発した。慌ててフジバナが駆け寄って行く。

「マキネス、起こしてしまいましたか。体調は大丈夫ですか」

「……はい。ごめんなさい、勝手に逃げてしまって」

「いえいえ。私もきちんと教えるべきでした。体調が戻ったらまた一から頑張りましょう」

「ぜひ……お願いします。ミミとリリアも迷惑かけてごめんね」

「良いってことよ」

「ニャニャ」

 任せなさいと自分の胸を叩いたリリアたちに、マキネスはにっこりと笑みを見せた。ふふと笑い声をあげた後、何かを思い出したように、マキネスはフジバナに質問した。

「そういえば、先生さっきの話は本当ですか……?」

「さっきの話?」

「……ダンテ先生のことが好きだっていうことです」

 その質問にフジバナの表情が固まる。「聞いていたんですね」とわざとらしく咳払いをすると、フジバナは言い聞かせるようにゆっくりと口を開いて言った。

「隊長はただの隊長です。恋心は一ミリもありません」

 その言葉にマキネスはすっと眼を細めた。胸の内にあるものを探るようにじいっと眼を向けていた。うーんと唇をかんだマキネスは、ちっと口の中で舌打ちした。

「……ライバルですよ。私たち」 

 そう捨て台詞をはくと、マキネスは再びすやすやと眠りこけてしまった。

「え? え?」

 どういう理屈なのか分からない。好きではないと言ったはずなのに、なぜライバル視されなければいけないのか。

「……ちょっと、どういうことですか。マキネス。マキネス・サイレウス?」

 なぜかフジバナの腕に鳥肌が立っていた。わたわたと混乱した様子のフジバナを、リリアとミミがにやにやと笑いながら見ていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...