王都から追放されて、貴族学院の落ちこぼれ美少女たちを教育することになりました。

スタジオ.T

文字の大きさ
27 / 56

27時限目 旧市街にて(2)

しおりを挟む

 完全な袋小路にあって、ダンテは最初から追い詰められるような形になった。視界の悪い路地裏で、肉食獣のような男達の目がギラリと光っていた。手にはそれぞれ長尺の剣を握っている。

「死ねぇ!」

 一人の男がダンテに突撃してくる。大ぶりに振られた剣をひらりとかわして、ダンテはみぞおちに拳を入れた。

「構えが雑だ。出直してこい」

「……ぐ、おぉ」

 白目をむいた男を、他の三人に向かって蹴り飛ばす。ボゴッと追撃をくらった男はうつ伏せに昏倒こんとうした。

「舐めんなよ、ジジィ」

 残された男は三人。距離をダンテから距離をとっていた。接近戦で仲間がやられたことで警戒した彼らは、遠くから蜂の巣にする作戦に切り替えていた。

魔導弾マドア!」

 男の一人が弾を発射する。続いて他の2人も合わせて、ダンテめがけて雨のごとく魔導弾マドアを浴びせかけた。衝撃で辺りの地面から粉塵ふんじんが舞い上がり、流れ弾に破壊された水道ポンプから、勢い良く水が吹き出した。

 シュウシュウという音ともに辺りは水浸しになり、徐々に砂埃すなぼこりが消えていく。一人の男の合図で攻撃をやめた彼らは、せせら笑いを浮かべながら、ダンテが立っていたところへ足を向けた。

 ピチョン。
 足音が一つ。蜂の巣にしたはずの場所から聞こえた。反応した男たちが身をこわばらせる。まさか、と思った瞬間にはすでに目前に、黒い影が迫ってきていた。

「……がっ!」

 暗がりの中からダンテが現れる。一人を手刀で沈めると、続いてもう一人のあごを剣の鞘で打突だとつする。ぐるんと目をむいて男の身体が崩れる。一挙に二人を倒したダンテは、疲れを見せず平然とした顔で最後の一人の前に立った。

 握った剣は容赦のなく、男の額に向けられている。男は自分の剣を落として、両手をあげた。

「……あ、う……」

「さぁ、知っていることを話してもらおうか。イムドレッド・ブラッドはどこにいる?」

「い、えない……」

「口の利けない舌はいらないんじゃなかったのか?」

 剣を向けられた男はガタガタと震えてひざまずいた。ダンテがかもし出す殺気に、男の全身を恐怖が走っていた。呆然と空いた口が何か言葉を発しようとした時、後ろから呼びかける声があった。

「やぁ、どうにも楽しそうなことになっていますね」

 この修羅場に似合わないすずやかな雰囲気の声だった。舞台の上で聞いたら、よく通りそうな俳優のような精悍せいかんな声色だった。

 ダンテが声のした方向を振り向く。タッパの良い何人かの男たちに囲まれて、黒いロングコートの若者が立っていた。八対二で分けられた銀髪、几帳面そうな四角いメガネの奥の細目は笑っているように見えた。

「リー……ダー……」

 倒れている男が銀髪の男に助けを求めるように、手を伸ばした。

(……早くもご登場か)

 彼の登場で一気に緊張感が増したのが分かる。戦場と同じ血と悪意の匂いを、あの男は発していた。ある程度予想していたとはいえ、ダンテは事態の早さに思わず驚いていた。

「あんたがロス・エスコバルのリーダーか」

「えぇ、いかにも」

 ここまではダンテの計画通りと言って良かった。
 アジトに怪しいやつが来れば、必ず追ってくる。追ってきたやつを叩きのめせば、さらに上の立ち位置のメンバーが現れると踏んでいた。

(だが、リーダー自らが現れるとはな)

 彼を囲む部下の数は十数人いる。おそらくロス・エスコバルの幹部たちだろう。さっきの奴らのように生半可な実力ではないことは、立ち姿を見て容易に理解できた。
 まともに相手をするのは得策とくさくじゃない。ダンテは剣をおさめて、両手を挙げた。

「悪いな、お前らに手を出すつもりはなかったんだ。こいつらがいきなり襲い掛かってきたんだよ」

「ち、違う! リーダー、こいつがブラッドのことを聞いてきたから……」

 叫んで主張した男を、すっと目を細めてリーダーと呼ばれた銀髪の男がにらんだ。たったそれだけで、震えていた男は口をつぐんだ。ガタガタと脚を震わせると、それ以上何も言わなかった。

 銀髪の男は改めてダンテに向き直った。

「すみませんね。メンバーが増えすぎて、末端まで教育が届いていないんですよ。私はパブロフと言います。それで、どういったご用件でしょうか?」

「俺はダンテって言うんだ。ここに来た用だが……イムドレッド・ブラッドを探している」

 ダンテの言葉に、パブロフはまったく表情を変えなかった。落ち着いた様子で視線を動かさないパブロフは、得体の知れない雰囲気をまとっていた。

 何かを確かめるようにジッとダンテのことを見ていたパブロフは、ようやく口を開いた。

「イムドレッド・ブラッドは現在、我が組織に属しています。確かに居場所は分かりますが、会ってどうするつもりですか?」

「話がしたい。俺はソード・アカデミアの教師だ」

「教師……」

 そこでパブロフの表情が変わった。「ははは!」と吹き出すように笑い始めた彼は、乾いた笑い声を路地裏に響かせた。

「いや失敬。えらい恐ろしい教師がいたものですね」

「事実だ。イムドレッドの退校は決まっていない。ロス・エスコバルに属する前に、俺のクラスの生徒でもある」

「へぇ……」

 笑みをやめたパブロフは隣の屈強な男に視線をやった。男は自分の背の高さほどもある長尺の槍を持っていた。

「トニー、どう思う?」

「嘘をついているとは思いません」

「私もだ。だが、あの男は相当に強い。ひょっとしたら、お前よりもずっと強いかもしれんぞ」

「まさか」

 トニーと呼ばれた男は槍を握る手に力を込めた。

 再び嫌な緊張が走る。いつでも槍を振るえるように、トニーが戦闘態勢を整えているのが分かる。

 ……ただの威嚇いかくだ。こらえろ。ダンテは自身の剣から手を離しながら、パブロフに問いかけた。

「話がしたいだけだ。お前らをどうこうするつもりはない」

「イムドレッド・ブラッドは我が組織の強力な武器です。ブラッド家が所有する異界物質の価値を分からない訳でもないでしょう。ここはお帰りいただきたいのですが」

「それはできない。イムドレッドを出してもらおう」

「……そうですか。それでは」

 パブロフが合図をする。トニーが槍を持って、パブロフの前に立った。黙したまま、その先端をダンテの額に向けている。明らかに殺すつもりであることは間違いなかった。

「そっちがその気ならそうするしかないか」

 ダンテは肩を落として、剣に手をかけた。もう逃げられはしないだろう。厄介な相手だったが、自分に分があるとダンテは見込んでいた。

「……待った」

 身も凍るような緊張感の中、声をあげるものがいた。パブロフの後ろから歩いてきた男が、正面から近づいてくる。その人影はフードを目深にかぶっていて、表情までは分からなかった。

 取り囲んだ男たちを制すると、その人影は呆れたような声で言った。

「パブロフ、あんたらしくもないな。こんな狭い通りでやり合ったら、数の利が活かせない。この男はそれを分かっていて、この袋小路まで誘い込んだんだ」

 ダンテが組んだ作戦を一瞬で見通して、人影はパブロフに小言を言った。

「どうせやるなら、もっと奇襲しがいがあるところを選べ。これじゃあ良いようにやられるだけだ」

「すまないね。君のこととなるとつい、平静を忘れてしまうみたいだ」

「……もう良い。この人は本当に俺の客人みたいだ。あんたらは下がっていてくれ」

 男はそう言うとフードを外して素顔をさらした。肩の近くまで無造作に伸びた黒髪。切れ長の目と端正な鼻筋。薄い唇が開いて、彼は自らの名前をつぶやいた。

「初めまして。俺はイムドレッド・ブラッド。信じられないが、あんたが新しい教師なんだな」

 ダンテが剣をおさめてうなずくと、イムドレッドは「そうか」と年相応の少年のような笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...