王都から追放されて、貴族学院の落ちこぼれ美少女たちを教育することになりました。

スタジオ.T

文字の大きさ
33 / 56

33時限目 窮地(2)

しおりを挟む
「シオン!」

 イムドレッドの声にぼんやりと気だるげな瞳で、シオンは顔を上げた。

「……あ、イム」

「無事か! 俺の顔が分かるか!?」

「う、ん。イムも元気そうで良かっ、た……」

 シオンの声は弱々しくかすれていた。焦点が合っておらず意識が朦朧もうろうとしているようだった。そのまま目を閉じて、彼はがっくりと気を失った。

「バカ野郎……どうしてこんなところに」

 イムドレッドは怒りに満ちた表情で、無言で並ぶエスコバルのメンバーを見た。

「……お前ら」

「少し話をしてもらいたくなるようにしただけだ。大丈夫、身体に害はないし依存性もない。ちょっと眠くなるくらいだ」

 彼の後ろからパブロフがゆっくりと歩いて追ってきていた。ぐったりとうなだれるシオンを見下ろしながら、彼は言った。

「ルブランの嫡子ちゃくしか。確かにこれは金が入用になるね。あそこの家は確か取り潰し寸前だったか。先代が詐欺にあって、かなりの借金を抱えているとか」

「……」

「君が私たちと手を組んだのはこの子のためかい?」

「だからどうした」

「どうというほどでもない」

 パブロフがちらりと合図を送る。トニーはナイフの切っ先を、シオンの頬の近くに掲げた。

「例えば、この子の命が脅かされていたら、君はすぐに動いてくれるのかな」

「……脅迫か。上等だ」

「交渉だよ。これから先、君がエスコバルに協力してくれれば良い。君がいれば私たちはもっともっと強くなれる。他の二つの組織を潰して旧市街を支配するだけじゃない。王都まで支配できる。成り上がれるんだ。良い話じゃないか」

 パブロフの言葉に耳を貸すことなく、イムドレッドはシオンに当てられたナイフを睨みつけた。

「それをシオンからどけろ」

「答えは?」

「良いからどけろ!」

 そう叫んだイムドレッドは懐から、毒の入った小瓶を取り出した。

「どけないと、こいつを撒く」

「だからと言って、この子が助かる訳でもない」

「……その時は地獄の果てまで、お前たちを殺しに行く。絶対に殺す」

「冷静になれよ、イムドレッド。そこまで悪い話じゃないはずだ。俺なら君の力を有用に使うことができる」 

 イムドレッドの脅しにも関わらず、トニーはシオンからナイフを離そうとしなかった。決定権は自分にあると言わんばかりに、冷たい笑みを浮かべていた。

「さぁ、どうする? 私たちの味方になってくれるか。それともこの場の全員殺すか?」

 パブロフの言うことは全て当たっていて、イムドレッドは攻撃に転じることができなかった。この小瓶は脅しにすらなっていない。彼は目を閉じるシオンを見下ろした。

「……くそっ」

 何もできない。

 自分にとってシオンが致命的な弱点であることがバレている。イムドレッドは唇を噛み締めて、小瓶を床に降ろした。

 俺を導いてくれた手のひらだ。それをこんなところで失う訳にはいかない。イムドレッドは両手を挙げて降参した。

「……分かった」

「良い子だ」

 トニーがナイフを収めた。イムドレッドは悔しそうに歯ぎしりをした。自分の甘さを噛み締めて、シオンを巻き込んでしまったことを後悔していた。

「イム……」 

 うなだれたイムドレッドを、シオンが必死に顔を起こし、青ざめた顔を向けていた。ぱくぱくと口を動かして、なんとか言葉を紡ぎだそうとしていた。

「……めだ」

「シオン、無理するな。喋るな」

「だ、めだ」

 シオンは震える声で言った。朦朧もうろうとする意識の中で、必死に自分の言葉を探した。

「だめだ。人を殺しちゃだめだ」

「何を言って……」

「君は道具なんか、じゃ、ないよ」

 辛そうに息をしながらシオンは、すがりつくようにイムドレッドに手を伸ばした。

「僕が君のことを知っている。だから、おいで、僕と一緒に帰ろう」

 シオンの瞳から涙が伝った。ぽろりとこぼれた涙のしずくは、まっすぐに伸びた髪を伝って、床へと落ちた。崩れゆく意識のふちから、シオンは必死に言葉を吐き出していた。

「俺は……」

 シオンの手を取ってイムドレッドは呟いた。
 本当は帰りたい。あの断裂の向こう側の穏やかな景色を見たい。運命から逃れて、好きなように生きてみたい。

 でもそれを取ってしまったら、自分はさらに大事なものを失う。心の奥底から出かかった言葉を押し殺して、彼は言った。

「ごめん、俺は帰れない」

「イム……そんな」

 シオンはがっくりとうなだれ再び意識を失った。その様子を見ながらパブロフが口を挟んだ。

「けなげな友情だね」

「それ以上茶化すようなら殺すぞ、パブロフ」

 ひゅうと口笛を吹いて、パブロフは言った。

「そう噛み付くなよ。今日から俺とお前はパートナーだ。まずは他の組織を潰して旧市街を取ろう。おい、そこの彼女を地下室に入れておいてくれ」

 そう言うとトニーは気絶するシオンを部下たちに受け渡した。

「話が違うぞ……!」

「ほんの一週間さ。話を聞かれてしまったからには、すぐには帰せない。計画が終わるまではここで軟禁させてもらう。大丈夫、危害はくわえないよ」

 パブロフは「最大限の譲歩だ」と付け加えると、イムドレッドの前に立った。イムドレッドは男に担がれたシオンに視線を移して、拳を握りしめた。

「本当だな。計画が終われば無事に帰すんだな」

「もちろん」

 シオンの姿が扉の外に消える。階下へと降りていく足音を聞きながら、イムドレッドは自分の無力さにうなだれていた。結局、シオンを危険にさらしてしまった。

 甘かった。
 こいつらの非道さと狡猾こうかつさを甘く見ていた。自分の犯した過ちを実感して、イムドレッドはただ立ちすくむしかなかった。なすすべなく遠ざかる足音を聞いていると、ふと、その音が終わりを告げた。

「……ぐあっ!」

 階下から男の叫び声が聞こえてきた。痛々しい打突音の後で、階段を上がってくる音が近づいてくる。

「なんだ……?」

 パブロフは眉をひそめて、部屋のドアの方を振り向いた。その足音は、もうすぐそばまで来てドアノブに手をかけていた。かつてない緊張感が部屋を包む。

 ドアを開けて入ってきた男は、数週間はまともに寝てなさそうな表情で言った。

「どうも、おじゃましてます」

 シオンを抱えたダンテは、部屋の中にいるパブロフを見て「あー最悪だ」とぼやいた。
  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

防御力ゼロと追放された盾使い、実は受けたダメージを100倍で反射する最強スキルを持ってました

黒崎隼人
ファンタジー
どんな攻撃も防げない【盾使い】のアッシュは、仲間から「歩く的」と罵られ、理不尽の限りを尽くされてパーティーを追放される。長年想いを寄せた少女にも裏切られ、全てを失った彼が死の淵で目覚めたのは、受けたダメージを百倍にして反射する攻防一体の最強スキルだった! これは、無能と蔑まれた心優しき盾使いが、真の力に目覚め、最高の仲間と出会い、自分を虐げた者たちに鮮やかな鉄槌を下す、痛快な成り上がり英雄譚! 「もうお前たちの壁にはならない」――絶望の底から這い上がった男の、爽快な逆転劇が今、始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう
ファンタジー
【ためて・放つ】という地味スキルを一生に一度の儀式で授かってしまった主人公セージ。  そのせいで家から追放され、挙げ句に異母弟から殺されかけてしまう。  しかしあらゆるものを【ためる】でパワフルにできるこのスキルは、最高ランクの冒険者すらかすんでしまうほどのぶっ壊れ能力だった!  命からがら魔物の強襲から脱したセージは、この力を駆使して成り上がっていく事を決意する。  そして命の危機に瀕していた少女リンカニアと出会い、絆を深めていくうちに自分のスキルを共有できる事に気が付いた。 ――これは、世界で類を見ない最強に成り上がっていく主人公と、彼の元へ集まってくる仲間達との物語である。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

処理中です...