王都から追放されて、貴族学院の落ちこぼれ美少女たちを教育することになりました。

スタジオ.T

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43時限目 B12倉庫(1)

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 同日、ロス・エスコバルの襲撃計画も佳境かきょうを迎えようとしていた。

 他の二つの麻薬組織の会合は旧市街の端にある河岸かがん倉庫で行われる。かつてはいくつもの船が行き来し、他国との貿易の要になっていた倉庫街は、今ではほとんど放棄されてしまっている。

 薄暗い倉庫のいくつかは建物としての原型を失い、屋根などもがれ落ちている。人気のないその場所は、二つの麻薬組織たちにとって絶好の取引場所となっている。その倉庫街の外れにあるアルトゥーロ・セタスのアジトで、会合は開かれようとした。

 襲撃を目前した、イムドレッドとパブロフの姿は河岸倉庫にあるひときわ古い建物の中にあった。B12倉庫と呼ばれる建物で、エスコバルの幹部たちは集まり、旧市街の今後を決める襲撃作戦の準備を進めていた。

「怖いかい、イムドレッド?」

 毒をく巨大な散布機を見つめるイムドレッドに、パブロフが声をかけた。イムドレッドは表情を変えずに、静かな声で答えた。

「何のことだ?」

「人を殺すことがさ。初めてだろう」

「何も怖くはない」

 イムドレッドは首を横に振った。

「怖いものなどないさ。俺は全ての恐怖を知っている」

「良い返答だね。……さ、決行の時間だ。約束のものを渡してくれ」

「……ほらよ」

 イムドレッドは革のケースをパブロフの足元に置いた。部下の一人が中身を確認する。そこには紫色の液体の入った小瓶が、三十ほど入っていた。

「俺が作れる最上級の毒だ。三百人は殺せる」

壮観そうかんだな」

「今度はそっちの番だ。金を渡してくれ」

 イムドレッドは部下の一人が抱えるケースを見て言った。払われるはずの報酬の金貨がそこに入っていた。イムドレッドが歩み寄ろうとした時、パブロフが手を挙げて制止した。

「待ってくれ」

「……なんだ。対価は毒と交換のはずだ」

「この毒が本当に効くか確かめたい。報酬の受け渡しはそれからだ。それくらいは許されるだろう」

 パチンとパブロフが指を鳴らすと、部下が後方から鎖で縛られた男を連れてきた。息を荒げ、両目から大粒の流す男は、以前ダンテに叩きのめされた金髪の男だった。

「ちょうど罰を執行しっこうしたい部下がいてね。彼を使って確かめたい。万が一とは思うが、私は心配性でね」

「……へぇ」

「イムドレッド? 顔色が悪いが、どうかしたかい?」

「勝手にしてくれ」

 イムドレッドの返答に、パブロフは淡々とケースから小瓶を取った。コルクのふたを抜くと、注射器を使ってその毒を吸った。死を運ぶ毒。ブラッドによって作られたそれは、光を吸い込むほど暗い色彩をしていた。

「さぁ、楽しみだ」

 辛そうにあえぐ男を見下ろしてパブロフは嬉しそうに笑った。むき出しになった男の腕にゆっくりと針が差し込まれていく。注射器を押し込み、液体が男の中へと入っていく。

「……あ……あ……」

 縛られた男はぶるぶると震えていた。うわごとのように「死にたくない。死にたくない」と何度もつぶやくその身体に、パブロフは容赦ようしゃなく液体を注射した。

 注射金の中の毒の液体が、全て体内に注ぎ込まれた。空っぽになった注射器をパブロフが男から離した。縛られた男は狂ったように叫び、そして絶望したように沈黙した。静寂せいじゃくが辺りを包む。

 一分、その時間が過ぎ去った。

「イムドレッド」

 男を見下ろしながらパブロフは言った。

「何も起きない」

 男は変わらず息をしていた。先ほどと変わらずに涙を流していた。笑いもせず怒りもせず、パブロフは男を見下ろしていた。

「説明してもらおうか」

「……説明も何も見た通りだよ。その薬は偽物だ」

 イムドレッドはあっけらかんとした様子で言った。「まさかこんなに早くバレるとは思わなかった」とため息をついた。

「作戦が失敗して、吠え面をかくところが見たかったんだけどな」

「私たちを裏切るもりだったのか」

「最初はそんなつもりなかった。でも、やっぱり許せなかったんだ」

「許せなかった?」

 腰に構えたナイフを取り出す。イムドレッドはその切っ先をパブロフに向けた。自分で思っていたより平静だった。本当の窮地きゅうちに立たされると、存外ここまで冷静になれるのだとイムドレッドは思った。

 彼は息を吸って、言葉を吐き出した。

「俺の友達を人質に取ったよな。まずはその落とし前からだ」

「そんなことが理由で私たちに逆らうのか」

「もちろん。絶対に許さない。パブロフ、まずはお前から殺す」

 イムドレッドに返答に、パブロフの眉間みけんに一筋の稲妻のようにシワが走った。

「……ガキが」

 彼が初めて見せる表情らしい表情は、周囲の身を震わせるような怒りの表情だった。手に持った注射器を割ると、その破片で縛られた男の頚動脈けいどうみゃくを引き裂いた。

 鮮血が吹き出す。

「仕方がない。本当は生きたまま欲しかったが、その異界物質、臓器だけでも貰い受けるしかない」

「やってみろよ」

 返り血を浴びて、赤く染まったパブロフは部下の一人に視線を送った。後ろに控えていたトニーと呼ばれる大男がイムドレッドの前に立ち塞がり、長尺の槍を構えた。
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