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42時限目 学内対抗戦(3)
しおりを挟む彼女は腰につけた剣を取らずに、十数人の生徒たちと対峙していた。一人の男子生徒が、にやりと笑ってリリアに剣を向けた。
「おう、友達に見捨てられたみたいだな」
「剣も握れないんじゃ当然か」
「……っ」
じりじりと近寄ってくる敵を警戒しながら、彼女は腰にぶらさげた模擬剣を見つめた。
(平静に。冷静に。これは訓練と同じなんだから)
私が相手をするのは剣士じゃない。無数の妖精たちだ。何も怖がる必要なんてない。風を切る音を読み取れ。剣筋を見極めて、最低限の動きで足を動かせ。
ダンテの言葉を思い出す。
リリアの意識はかつてないほどに集中し始めていた。視界がスッと開ける。音がだんだんと消えていく。かつて訓練所で戦った時と等しいくらいに、集中し始めていた。
(きた……!)
そこから先はほとんど反射だった。
迫ってくる無数の剣撃。それを受け止めず、ステップだけでかわしてみせる。右と左。姿勢を低く保ちながら、決してバルーンを破られないように、模擬剣を避ける。
「かわした!?」
「逃がすな、追え!」
一定の距離を保ちながら、逃げずに立ち続ける。極限まで集中したリリアは一種のゾーンに入り始めていた。
(エレナを相手するより、ずっと楽だ……!)
妖精たちの猛攻を受け続けた今だから理解出来る。直線的な動きは剣を避けるだけなら、彼女にとってなんてことはなかった。
「くそ、こいつ素早いぞ!」
「ちょこまかと逃げやがって。逃げてるだけじゃ、ポイント取れねぇぞ!」
生徒たちは息を合わせて一斉にリリアに向けて、剣を振りかぶった。
もはやリリアしか見ていない。
彼らの攻撃の隙を狙って、一筋の魔導弾が空を切った。森の方角から飛んできた弾丸は、リリアを攻撃しようとした生徒のバルーンを突き破った。
「おい、誰だ今攻撃しやがったのは!?」
バルーンを破られた生徒が叫ぶ。しかし、攻撃した敵の姿はどこにも見当たらない。大量に集まってきた生徒のどれも、急襲した敵の正体を見ていなかった。
パン!
その間にもう一人のバルーンが破裂する。先ほどと違う方向から飛んできた弾丸は、さっきとは違う木々の奥から飛んできていた。
続けてもう一発。四方八方から飛んでくる魔導弾を浴びた生徒たちは、だんだんと混乱し始めた。
「誰かが狙ってきているぞ!」
「あの子だ! あの子が撃っていたよ!」
女生徒の一人が、他の生徒を指差す。名指しされた生徒は、慌てた様子で否定した。
「俺は撃ってない!」
「黙れ! この、裏切りものめ! てめぇだけポイントを稼ぐつもりか!」
襲いかかられた生徒も必死で防御する。集まってきた生徒たちの数が増えたことによって、混乱は大きくなっていた。さらにそこに向けて上空から、うねうねした奇妙な物体が落ちてくると、混乱は一層広がった。
「うわ、なんだこれ!?」
「触手だ! 触手が降ってきている!」
「マキネス・サイレウスだ!」
手出しのできない上空から、マキネスはぶつぶつと魔導を唱えて、次々と触手を召喚していた。生徒たちの首元に絡みついて、バルーンを割っている。逃げ出す生徒たちは触手付近から離れて、逃げ出そうとしていた。
彼らの標的はリリアにとどまらずに、徐々に乱戦の様相を呈していった。
(……作戦通り……!)
思惑通りの展開に、フジバナが小さくガッツポーズをする。これで袋叩きになることは逃れた。一部始終を見ていたアイリッシュ卿は感心したように言った。
「あえて人を集めて、乱戦に持ち込んだ。森の方から奇襲したのはミミですね」
「はい、彼女の敏捷さはピカイチです。木の間を動きながら、敵を撹乱するにはもってこいです」
「……敵の疑心暗鬼を利用するとは。この作戦を考えた人はかなり性格が悪いんですね」
くすくすと笑いながら言ったアイリッシュ卿に、フジバナも困ったように頷いた。
「隊長は手段を選びませんから」
「さてさて、この後はどうするんですか。ミミとマキネスはポイントを稼げているようですが、他の生徒たちはまだですね」
「それは……」
フジバナは敵の攻撃を避け続けるリリアに視線を送った。
「彼女に委ねるしかありません」
素早く動くリリアに生徒たちはほとんど手詰まりのようだった。空を切る剣の手応えのなさに、生徒たちのほとんどは疲れ果ててしまっていた。
同時にリリアからの攻撃もできていない。剣を握るなと言われているし、握ることもできなかった。
それでも襲いかかってくる生徒たちの数にきりはない。膠着状態に陥った戦況を壊したのは、まばゆく燃え上がる青い炎だった。
「下がれ。それは俺の獲物だ」
その声と共に、身を焦がすような熱波が周囲を襲う。悲鳴があがり、蜘蛛の子を散らすように生徒たちが逃げ惑う。
剣を振り下ろした襲撃者は、リリアの周りにいた生徒のバルーンを破壊していった。剣を持ったままリリアの目の前に立つと、怒りに満ちた目で言った。
「決着をつけに来たぞ」
「……ブラム・バーンズ」
クラス「パラディン」。その中でも随一の実力を持つブラム・バーンズ。目の前に現れた彼を倒さない限り、リリアに道はなかった。
歩いてくるブラムは、リリアを見つけてうれしそうに笑っていた。
「ようやく会えた。今日こそ本気でお前を潰す。もう二度と歯向かう気など起きないようにな」
ブラムの腕から燃え上がる炎は、模擬剣を包んで煌々と輝いてた。周囲を包む熱波は全て、彼の右腕から放たれているものだった。
(……怖い)
いざ正気になって目の前にしてみると、彼の実力のほどは痛いほどに伝わってきた。怒りに燃える彼の実力は、この前のような児戯ではない。途端に湧き上がる恐怖と戦いながら、リリアは自分の剣を握った。
作戦名『カモイメルム』は今、一つの山場を迎えようとしていた。
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