48 / 56
48時限目 Dash! Dash!! Dash!!!(2)
しおりを挟む間もなくして現れた3人の襲撃者は、倉庫の路地にフードをかぶりスカートをはいた人影が走るのを見て、迷いなく光弾を放った。素早い動きのそれは近くの倉庫の中へと消えていった。
「おまえは女を追え! イムドレッドは手負いだ! そう遠くへは行っていない!」
男たちは二手に分かれて、走り始めた。倉庫の中へと回り込み中を捜索する一人と、シオンを追いかける二人。彼らはエスコバルのグループで、この辺りの構造を熟知していた。逃げ込んだ倉庫に出入り口が二つしかないのを分かっている。挟み撃ちにしてしまえば終わりだ。
シオンを追いかけていた二人は、階段を上がり二階へと到達した。そこから先は行き止まりになっていて、がらくただらけの足場は今にも崩れ落ちそうなほどに、ひび割れていた。
そこで立ちすくむ人影を追い詰めると、男たちは迷いなく光弾を放った。
容赦のない攻撃はその頭部を吹き飛ばした。しかし血が噴き出すことはなく、代わりにカランと乾いた音が鳴った。
「……バケツ?」
その中身が人でなく、小さな使い魔だったことに気がつくまでにわずかながら隙があった。バケツに服をくくりつけて、人に見せていただけ。動きを止めた敵の側頭部を、がらくたに紛れて潜んでいたシオンとイムドレッドが、鉄パイプで勢い良く殴りつけた。
「……かはっ……!」
不意を突いたところを畳み掛ける。いかに強力な魔導師といえど、殴れば昏倒する。ダンテから教わった通り、頭を打たれた彼らはばたりと倒れた。
「よし、あと一人だ!」
「し、死んでないよね……」
「多分大丈夫だろ。もう一人来ているぞ、気をつけろ」
階段を最後の一人が駆け上がってくる。ばったりと倒れた二人を見て、男は青筋を立てて迫ってきた。
「ガキぃ、てめぇら……」
「魔導弾!」
「……! 魔光弾!」
男の姿を見とめるや否や、打ち出されたシオンの魔導弾は、衝突する寸前で、対抗する男の光弾によって飲み込まれた。渾身の一発だったが、地力が違う。威力が足りていない。
まっすぐに進んできた敵の光弾は、シオンの肩口を打ち抜いた。
「……あっ……!」
驚きで悲鳴も出なかった。身体が崩れ落ちる。痛さよりも熱さが先にやってくる。シオンは膝をつき、血が噴き出した肩を抑えた。イムドレッドが叫び、駆け寄っていく。
「シオン!」
「……うぁあっ……!」
「ははは。二度も不意打ちが聞くと思ったか、ガキめ」
「てめぇ!」
イムドレッドが懐から毒の入った小瓶を取り出して、男に投げつける。それをひらりとかわして、男はへらへらと笑った。
「危ない危ない。腐ってもブラッドだからな。おまえは倒れてろ。できるだけ苦しめて殺すように言われている」
怪我をした脇腹に男は正確に魔導弾を撃ち込んだ。弱っていた箇所をさらに痛めつけられたイムドレッドは、その場に跪くしかなかった。
「ぐ……おあっ……!」
男はにやにやと笑いながらも、シオンの額にじっと照準を定めていた。
(強い……)
痛みに耐えながらも、シオンは必死に敵の姿を見据えていた。敵の指先に魔力の光が集まりつつあった。
「さてお嬢ちゃん。良く頑張ったとは思うが、これでジエンドだ」
「く……そ……」
「……あぁ、良い顔をするねぇ。嗜虐心をそそられる。お前、俺のペットになるか?」
恐怖に怯えた顔をするシオンを見ながら、男は下卑た笑いを浮かべていた。
「可愛がってやるよ。一日中ぶっとんで昼も夜も分からないくらいに楽しくさせてやる。気持ち良いぜ」
「……い、いやだ……」
「良いね、本当に良い。どうだ、命乞いをしてみろよ。そうすれば助けてやる」
男はうなだれるシオンを見下ろしながら、返答を待っていた。ゆっくりと近づきながら、脅すように光弾を閃かせていた。
心臓が高鳴る。
身震いは心の芯を氷のように冷やしていった。失敗したら死ぬ。それでも持てるだけの勇気を振り絞って、シオンは口を開いた。
「……くたばれ、変態野郎」
これが正真正銘のラストチャンス。
溜めていた魔力を解放する。引き絞っていた弓を解き放つように、敵が油断しきった一瞬を狙って、シオンは攻撃に転じた。
「エレナ! お願い!」
バケツの中からエレナが飛び出して、男の顔に猛スピードで激突する。ダメージには至らないが、予想外の攻撃で一瞬の隙ができる。
シオンが魔導弾を放つ。
打った手のひらが震える。
「死ね、ガキどもが!」
男も攻撃を放つ。死が突きつけられる。殺傷能力の高い魔光弾は確実にシオンの額に向けて放たれていた。互いの弾丸が交差する。
「シオン!」
イムドレッドの声がゆっくりとぼんやりと聞こえる。まるで時間を何倍にも膨らませたみたいだった。近づいてくる光弾は眩く輝き、一直線に向かってくる。
シオンの視界はその一点だけに集中していた。自分に向かってくる一筋の流星。バルーンを狙ってくる小さな小妖精。ギリギリまで引きつけて軌道を見切る。
そうだ。
同じだ。
いつもと。
反射的に頭を左に動かす。頬を鋭い流線型の光弾がかすめる。頬から血が流れる。直撃はしていない。自分の攻撃は相手に当たっている。シオンの魔導弾は確かに直撃していた。
「おまえがくたばれ!!」
もう一発。二発。三発。
続けざまに放たれた攻撃で、最後の一人が地面に崩れ落ちた。バクバクと耳奥で心臓の音が聞こえていた。シオンは荒い呼吸を沈めようとした。息を吸って吐いて、言葉をこぼした。
「……やった」
どっと汗が噴き出してくる。自分がやったことが信じられないでいた。突っ伏した男は完全に失神していた。脇腹を抑えるイムドレッドの方を振り向いて、シオンは口を開いた。
「……イム、やったよ」
「あぁ、見てた。……すごいな」
「あ、ははは」
笑いがこみ上げてくる。安心からか嬉しさからか、知らず知らずのうちにシオンは笑っていた。張り詰めていた心が一気に弛緩していく。シオンは自分の手のひらを見つめた。
「……やった」
「よし急ごう。アカデミアまで行くんだろ。歩けるか」
「うん」
急がなければ、次の敵が追ってくる。河岸倉庫はまだ危険だ。なるべく早くアカデミアまで逃げて、対抗戦に合流するまでがシオンの役目だ。
慌てて立ち上がろうとしたシオンは、なぜかそのままガクンと崩れ落ちた。
「あ……れ……?」
力が入らない。
動かそうとした脚が棒のようになってしまったみたいだった。
見ると、肩口から堰を切ったように大量の血が落ちてきていた。床に広がり、水たまりのようになっている。
「……血が……」
暗闇が天井の方から落ちてきた。イムドレッドの声が遠くから聞こえて来る。こんなところで止まっている場合じゃないのに。
シオンのまぶたはゆっくりと閉じていった。
0
あなたにおすすめの小説
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。
故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。
一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。
「もう遅い」と。
これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!
防御力ゼロと追放された盾使い、実は受けたダメージを100倍で反射する最強スキルを持ってました
黒崎隼人
ファンタジー
どんな攻撃も防げない【盾使い】のアッシュは、仲間から「歩く的」と罵られ、理不尽の限りを尽くされてパーティーを追放される。長年想いを寄せた少女にも裏切られ、全てを失った彼が死の淵で目覚めたのは、受けたダメージを百倍にして反射する攻防一体の最強スキルだった!
これは、無能と蔑まれた心優しき盾使いが、真の力に目覚め、最高の仲間と出会い、自分を虐げた者たちに鮮やかな鉄槌を下す、痛快な成り上がり英雄譚! 「もうお前たちの壁にはならない」――絶望の底から這い上がった男の、爽快な逆転劇が今、始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
かくろう
ファンタジー
【ためて・放つ】という地味スキルを一生に一度の儀式で授かってしまった主人公セージ。
そのせいで家から追放され、挙げ句に異母弟から殺されかけてしまう。
しかしあらゆるものを【ためる】でパワフルにできるこのスキルは、最高ランクの冒険者すらかすんでしまうほどのぶっ壊れ能力だった!
命からがら魔物の強襲から脱したセージは、この力を駆使して成り上がっていく事を決意する。
そして命の危機に瀕していた少女リンカニアと出会い、絆を深めていくうちに自分のスキルを共有できる事に気が付いた。
――これは、世界で類を見ない最強に成り上がっていく主人公と、彼の元へ集まってくる仲間達との物語である。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる