王都から追放されて、貴族学院の落ちこぼれ美少女たちを教育することになりました。

スタジオ.T

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48時限目 Dash! Dash!! Dash!!!(2)

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 間もなくして現れた3人の襲撃者は、倉庫の路地にフードをかぶりスカートをはいた人影が走るのを見て、迷いなく光弾を放った。素早い動きのそれは近くの倉庫の中へと消えていった。

「おまえは女を追え! イムドレッドは手負いだ! そう遠くへは行っていない!」

 男たちは二手に分かれて、走り始めた。倉庫の中へと回り込み中を捜索する一人と、シオンを追いかける二人。彼らはエスコバルのグループで、この辺りの構造を熟知していた。逃げ込んだ倉庫に出入り口が二つしかないのを分かっている。挟み撃ちにしてしまえば終わりだ。

 シオンを追いかけていた二人は、階段を上がり二階へと到達した。そこから先は行き止まりになっていて、がらくただらけの足場は今にも崩れ落ちそうなほどに、ひび割れていた。

 そこで立ちすくむ人影を追い詰めると、男たちは迷いなく光弾を放った。

 容赦のない攻撃はその頭部を吹き飛ばした。しかし血が噴き出すことはなく、代わりにカランと乾いた音が鳴った。

「……バケツ?」

 その中身が人でなく、小さな使い魔だったことに気がつくまでにわずかながら隙があった。バケツに服をくくりつけて、人に見せていただけ。動きを止めた敵の側頭部を、がらくたに紛れて潜んでいたシオンとイムドレッドが、鉄パイプで勢い良く殴りつけた。

「……かはっ……!」

 不意を突いたところをたたみ掛ける。いかに強力な魔導師といえど、殴れば昏倒こんとうする。ダンテから教わった通り、頭を打たれた彼らはばたりと倒れた。

「よし、あと一人だ!」

「し、死んでないよね……」

「多分大丈夫だろ。もう一人来ているぞ、気をつけろ」

 階段を最後の一人が駆け上がってくる。ばったりと倒れた二人を見て、男は青筋を立てて迫ってきた。

「ガキぃ、てめぇら……」

魔導弾マドア!」

「……! 魔光弾マドアス!」

 男の姿を見とめるや否や、打ち出されたシオンの魔導弾は、衝突する寸前で、対抗する男の光弾によって飲み込まれた。渾身こんしんの一発だったが、地力が違う。威力が足りていない。

 まっすぐに進んできた敵の光弾は、シオンの肩口を打ち抜いた。

「……あっ……!」

 驚きで悲鳴も出なかった。身体が崩れ落ちる。痛さよりも熱さが先にやってくる。シオンは膝をつき、血が噴き出した肩を抑えた。イムドレッドが叫び、駆け寄っていく。

「シオン!」

「……うぁあっ……!」

「ははは。二度も不意打ちが聞くと思ったか、ガキめ」

「てめぇ!」

 イムドレッドが懐から毒の入った小瓶を取り出して、男に投げつける。それをひらりとかわして、男はへらへらと笑った。

「危ない危ない。腐ってもブラッドだからな。おまえは倒れてろ。できるだけ苦しめて殺すように言われている」

 怪我をした脇腹に男は正確に魔導弾を撃ち込んだ。弱っていた箇所をさらに痛めつけられたイムドレッドは、その場にひざまずくしかなかった。 

「ぐ……おあっ……!」

 男はにやにやと笑いながらも、シオンの額にじっと照準を定めていた。

(強い……)

 痛みに耐えながらも、シオンは必死に敵の姿を見据えていた。敵の指先に魔力の光が集まりつつあった。

「さてお嬢ちゃん。良く頑張ったとは思うが、これでジエンドだ」

「く……そ……」

「……あぁ、良い顔をするねぇ。嗜虐心しぎゃくしんをそそられる。お前、俺のペットになるか?」

 恐怖に怯えた顔をするシオンを見ながら、男は下卑た笑いを浮かべていた。

「可愛がってやるよ。一日中ぶっとんで昼も夜も分からないくらいに楽しくさせてやる。気持ち良いぜ」

「……い、いやだ……」

「良いね、本当に良い。どうだ、命乞いをしてみろよ。そうすれば助けてやる」 

 男はうなだれるシオンを見下ろしながら、返答を待っていた。ゆっくりと近づきながら、脅すように光弾をひらめかせていた。

 心臓が高鳴る。

 身震いは心の芯を氷のように冷やしていった。失敗したら死ぬ。それでも持てるだけの勇気を振り絞って、シオンは口を開いた。

「……くたばれ、変態野郎」

 これが正真正銘のラストチャンス。
 溜めていた魔力を解放する。引き絞っていた弓を解き放つように、敵が油断しきった一瞬を狙って、シオンは攻撃に転じた。

「エレナ! お願い!」

 バケツの中からエレナが飛び出して、男の顔に猛スピードで激突する。ダメージには至らないが、予想外の攻撃で一瞬の隙ができる。 

 シオンが魔導弾マドアを放つ。

 打った手のひらが震える。

「死ね、ガキどもが!」

 男も攻撃を放つ。死が突きつけられる。殺傷能力の高い魔光弾は確実にシオンの額に向けて放たれていた。互いの弾丸が交差する。

「シオン!」

 イムドレッドの声がゆっくりとぼんやりと聞こえる。まるで時間を何倍にも膨らませたみたいだった。近づいてくる光弾は眩く輝き、一直線に向かってくる。

 シオンの視界はその一点だけに集中していた。自分に向かってくる一筋の流星。バルーン自分を狙ってくる小さな小妖精攻撃。ギリギリまで引きつけて軌道を見切る。

 そうだ。
 同じだ。
 いつもと。

 反射的に頭を左に動かす。頬を鋭い流線型の光弾がかすめる。頬から血が流れる。直撃はしていない。自分の攻撃は相手に当たっている。シオンの魔導弾マドアは確かに直撃していた。

「おまえがくたばれ!!」

 もう一発。二発。三発。

 続けざまに放たれた攻撃で、最後の一人が地面に崩れ落ちた。バクバクと耳奥で心臓の音が聞こえていた。シオンは荒い呼吸を沈めようとした。息を吸って吐いて、言葉をこぼした。

「……やった」 

 どっと汗が噴き出してくる。自分がやったことが信じられないでいた。突っ伏した男は完全に失神していた。脇腹を抑えるイムドレッドの方を振り向いて、シオンは口を開いた。

「……イム、やったよ」

「あぁ、見てた。……すごいな」

「あ、ははは」

 笑いがこみ上げてくる。安心からか嬉しさからか、知らず知らずのうちにシオンは笑っていた。張り詰めていた心が一気に弛緩しかんしていく。シオンは自分の手のひらを見つめた。

「……やった」

「よし急ごう。アカデミアまで行くんだろ。歩けるか」

「うん」

 急がなければ、次の敵が追ってくる。河岸倉庫はまだ危険だ。なるべく早くアカデミアまで逃げて、対抗戦に合流するまでがシオンの役目だ。

 慌てて立ち上がろうとしたシオンは、なぜかそのままガクンと崩れ落ちた。

「あ……れ……?」

 力が入らない。

 動かそうとした脚が棒のようになってしまったみたいだった。
 見ると、肩口からせきを切ったように大量の血が落ちてきていた。床に広がり、水たまりのようになっている。

「……血が……」

 暗闇が天井の方から落ちてきた。イムドレッドの声が遠くから聞こえて来る。こんなところで止まっている場合じゃないのに。

 シオンのまぶたはゆっくりと閉じていった。

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