魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

文字の大きさ
18 / 220

第16話 イザーブという街

しおりを挟む
 最初にパトレシアと会った時に果たして想像出来ただろうか。肌と肌が触れ合うような状態で一緒にお風呂に入ることを、あの時の俺は夢にも思わなかっただろう。

「わー、男との人って本当に背中おっきいんだねー。わたし、父親と仲悪かったから全然知らなかったー」

 シャカシャカと音を立てながら、パトレシアが俺の背中を洗う。何かのハーブのような爽やかな香りを放つ石鹸せっけんの香りが鼻腔びこうをくすぐった。

 今、俺の後ろには裸のパトレシアがいる。
 湧き上がる煩悩ぼんのうをなんとか押しとどめようと、理性が必死に戦っていた。がんばれ、がんばるんだ。

「あ、また傷跡きずあとみっけ。これで16個目。ねぇこれって消えないの?」

「たぶんな。毒を持った敵も多かったから、早めに治療しなかった傷は後が残った」

「へー……大変だったんだね。あ、17個目」

「……多分、キリが無いぞ」

 俺の忠告にも関わらず、パトレシアは俺の傷跡を探す遊びを続けた。

 怪我をいくつ負ったかなんて覚えていない。
 『異端の王』を倒す旅路は並の困難さでは無かった。敵の本拠地へと近づけば近づくほど、魔物の強さはけた違いに増していった。

「ねぇ、これとか、ひどい。やけどの跡」

「それはたぶんヒドラの息炎ブレスだな」

「ヒドラとも戦ったんだ……あんなの想像上の生物だと思ってたのに」

「俺が戦ったのは『異端の王』が作り出した贋作がんさくだ。土でこねて魔力を通したまがい物。それでもとんでもない大きさだったけれどな」

 俺が戦ったのは、いわゆる幻影魔獣と呼ばれるものだ。
 動物が魔物化したものではなく、『異端の王』によって想像された魔物。紛い物だが、幻影魔獣の力は恐ろしく強力だった。

 そんな話をパトレシアは興味深げに聞いていた。時折、俺の傷跡を撫でる彼女の指が妙にくすぐったかった。
 
「道理でこんな身体になるわけだ。私と最初に会った頃とはずいぶんと変わっている」

「……俺の方からすれば、お前の変わりようの方が信じられないけれどな」

「わたし?」

「昔はもっとピリピリしていただろ。人を寄せ付けないあの感じ」

「あーそういえば、そうだったかもしれない」

 パトレシアは照れ臭そうに言って、俺を洗うタオルに力を込めた。彼女の身体が一層近づいて、濡れた髪が俺の背中に触れる。

「余裕無かったからかなー、あの時の私は。今考えると恥ずかしくなっちゃう」

 サラダ村に帰ってきた時にパトレシアの変わりようは、正直驚いた。緊張した空気感は全く無くなっていた。常に人を警戒する雰囲気はもうまとわないようになっていた。
 
 かつて一緒に過ごしていた時は、外を歩けば穏やかとは程遠い感じでパトレシアは周囲の視線を気にしていた。

「変わったのよ。全てはアンクたちと一緒にいたことのおかげ。私はやるべきことを見つけて、そして終わらせることが出来た」

「……それはもう辺りを警戒する必要がなくなったってことか」

「うん、もう必要性がなくなったの。私は資産家の令嬢であることを捨てたから」

 パトレシアの手が優しく泡を立てていく。タオルを捨てて、彼女は素手で俺のに触れた。
 背骨をパトレシアの指の腹がなぞる。ごつごつとした感触を確かめるように、ゆっくりと丹念に洗っていく。

「どう?」

「あぁ、とても良い」

「良かった」

 泡立った手で隅から隅へと丹念に、彼女の手のひらが肌の上を滑る。20個近くあった傷跡の1つ1つもなぞるように触れていく。

 多分、パトレシアの変化は喜ぶべきことなんだろう。
 最近の彼女は本当に楽しそうで活き活きしている。こんな片田舎に出てきて、普通の暮らしを満喫している。

「アンク」

「なんだ」

「私ね、あなたとまた一緒にいられてホッとしているの」

 彼女の声のトーンが変わる。それはささやくような小さな声だった。
 パトレシアの身体が動く。後ろから覆いかぶさるように、彼女の身体が俺に触れる。背中から腰の方へと手を回して、パトレシアは俺を抱きしめた。

 素肌と素肌。
 生々しい感覚。暖かくて柔らかくて、干したばかりの布団よりもふわふわな感触。

「パトレシア……?」

「じっとしていて。こっち向かないで」

 耳元でパトレシアの声が聞こえる。
 俺の肩の上で動いた彼女の髪が、頬にかかる。太ももから足を静かに動かして、俺の腰をはさむ。温かな体温が伝わってくる。

 彼女の胸は俺の背中に密着したピタリとくっついた。柔らかな膨らみを感じ、熱がこもる。

「またこんな日が訪れるとは思わなかった。アンク、あなたと過ごしたかつての日々は私にとって夢のように楽しかった。あなたが離れてしまったあとの日々は胸が張り裂けそうなほどに苦しかった」

「あぁ、俺も……寂しかった」

「……きっと私の方が寂しかった。残された後は最悪だったわ。一緒に付いていけば良かったって何度思ったことか」

「そんなことはないだろう。だってパトレシアは1人でも十分、強いじゃないか。俺がいようがいまいが、うまくやれる奴だよ」

 その言葉にパトレシアは何も言わず、俺の背中に顔を押し付けた。抱きしめる腕の力が少し強くなる。

「パトレシア?」

「じっとしていて。ねぇ、あのままだったら私はきっと自分の街に潰されていた」

「…………イザーブか」
 
「そう、私の故郷。私が憎んでやまなかった場所」

 かつて俺たちが暮らした都市の名前を口にする。
 プルシャマナでも異質な商業都市として栄えたその都市は、資産の有無による弱肉強食で成り立つ世界だった。

 この世界ではいびつとも言えるシステムの世界で育ったパトリシアも、また厳しい教育を施されていた。

 持たざるものになってはいけない。与えるものになってもいけない。
 奪うものになること。金を、物品を、人を奪い続けるものになること。それがイザーブという都市で生き残るたった1つの術だった。

「昔はね、私は世界で一番強くならなくちゃと思っていた。大人たちに負けないように。誰にも負けないようにって考えて、私は師匠に魔法を教わりに訪ねた」

「切羽詰まっていたな。あの時のパトレシアは」

「けれど、あなたと師匠が私の町に来た時、本当に驚いた。中の世界しか知らなかった私にとって、外の世界のあなたはあまりにまぶしかった。しなやかなくせに、たくましい。与えることを拒まず、奪うことを嫌う。私と変わらない年齢なのに、あなたは私と真逆の価値観を持っていた。肩の力を抜いて、それでも自分でいられる術を持っていた」

「……それは買いかぶりすぎだ。俺は少しヒネくれていただけだ」

「私はそうは思わなかった。少なくとも当時の私は。大人たちの中で生きることに必死だった私とはあなたは違っていた。イザーブの中にあってもなお、あなたは太陽のような輝きを失わなかった」

 パトレシアはどこか後悔するように、昔のことを話し始めた。

 ……イザーブと呼ばれるその都市はもう存在しない。
 数年前、幻影魔獣の大侵略を受けて崩壊した。パトレシアが言った「役割を終えた」というのは、憎んだ街もろとも彼女を取り巻いていた全てが消滅したからなんだろう。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。 なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。 2月13日完結予定。 その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...