魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

文字の大きさ
20 / 220

第18話 大英雄、嘘をつく

 自分の家の近くまで着いて、庭の様子を伺いながら玄関までたどり着く。
 
 大丈夫だ、レイナはいない。
 この前のように水をかけようと待ち伏せしている気配は無い。月の光が穏やかに庭を照らしている。色とりどりの花が静かに揺れている。異常はない。

 家はまだ光がともっていた。レイナはまだ起きているようだ。

「さすがに怒られるよな……」

 シチューが入った鍋を抱えながら、ため息をつく。レイナの大好物でもあるシチューを、家を出る時にパトレシアが分けてくれた。

『これ、レイナちゃんに渡してあげて。保証は出来無いけれど、少しは機嫌が良くなるはずだから』

『そ、そうだな……』

『私の家に泊まったことは絶対に言わないでね』

 絶対だよ、と念押ししながらパトレシアは俺を見送った。
 鍋の隙間からは手作りの牛乳ソースの良い香りがする。具材もっていて、採れたての新鮮な野菜がシチューを彩っている。

 何せあのパトレシアが作ったシチューだ。美味しいことは間違いない。
 
「ただいまー……」

 決意を固めて、家の扉を開ける。
 リビングの灯は消されていて、キッチンの方だけランプが灯っていた。その近くで、レイナがメイド服を着たまま椅子に突っ伏して寝ていた。

 扉を開けるギィという音に反応したのか、レイナの身体がぴくりと動いた。彼女は身を起こし、俺を見た。

「アンク……さま」

「レイナ、ただいま。遅くなってすまない」

「おかえりなさいませ…………なんでしょうか、それは?」

 目をこすりながら、レイナは俺が持っている鍋に視線を止めた。目つきで分かる。これは完全に疑っている時の表情だ。

「あぁ、シチューだよ。町外れの農場のおばちゃんからもらったんだよ。ほら、牛を育てているオクラさん、分かるだろ」

「オクラ……さん」

 いぶかしげに目を細めながら、レイナは口の中で『オクラさん』という言葉を、口の中で何度も反芻はんすうしていた。

 オクラさんは良く俺の家にシチューを分けてくれる。いつもなら、レイナも「あぁそうですか」とあっさりと頷く。

 しかし今日は様子が違う。
 あごに手を当てて、考え込む仕草をしていたレイナは顔をあげて質問した。
 
「どちらへ行かれていたんですか?」

「だからオクラさんのところだよ。トビッコウオ退治で泥だらけになったから、オクラさんのところの家で世話になっていたんだ」

「……オクラさん」

 その言葉を放ち急に立ち上がると、レイナは俺が着ているコートに顔を近づけて、クンクンと嗅いだ。鼻を動かし、しばらくすると、レイナは視線をあげて俺を見た。
 
「戦闘していたにしては随分と綺麗ですね。石鹸の匂いがします。どこかで洗われたのですか」

「あれだよ、オクラさんの家で洗ってもらったんだよ。泥だらけになっていたからね」

「オクラさんの家にかなり長い時間いたということですね」

「あぁ、そういうことになるかな。半日くらいはオクラさんの家にいたよ」

「半日……」

 レイナが視線を下げて、また何か考えるような表情をする。

 これは……地雷だったかもしれない
 あからさまにレイナの表情がおかしい。最初から俺の話を信じていないような雰囲気だ。

「少し待っていてください」

 そう言うとレイナはキッチンに戻り、なにやら巨大なボトルを抱えて戻ってきた。半透明のボトルにはちゃぷちゃぷと波打つ白い液体が入っていた。

 牛乳だ。

「この牛乳は先ほど、オクラさんから頂いたものです」

 冷や汗が伝う。
 まずい、非常にまずい。

「トビッコウオを退治してくれたお礼だそうです。パトレシアさんの雷に打たれながら、水車小屋を守ってくれたと感謝してくれました。私が、あなたがどこに行ったか知っているかと聞くと、オクラさんは『知らない』と言いました」

 もはや言い逃れが出来る状況ではなかった。下手に名前を出さずに、適当にやり過ごしていけば良かった。君子策におぼれる、とはまさにこのことか。

「どうしてオクラさんは嘘をついたのでしょうか?」

「それ……は」

「どうしてオクラさんは嘘をついたのでしょうか?」

 怖い。
 レイナの視線はまっすぐ俺の顔に向いている。下手に嘘をつけば、首をはねられかねない位の威圧感だ。

 その揺るがない瞳でレイナは再び同じ言葉を繰り返そうとした。

「どうして……」

「わ、分かった! 分かった! 俺が悪かった! 本当はパトレシアの家に行っていたんだ! すまない!」

「ほう、嘘をついていたのはアンクさまだったということですね。に落ちました」

「分かってくれたか」

「……どうして嘘をついたのですか」

 そう来たか。
 どうして嘘をついたかと聞かれると、パトレシアが言わないでくれと言ったからだが、そう言ってしまうともはや全部白状したも同然だ。

「どうして嘘をついたのですか」

 なにやらさっきから自分で自分の墓穴を掘っているような気がする。俺に残された選択肢は3つ。

 ①正直に白状する
 ②嘘をつく
 ③沈黙する

 ……どれも無いな。
 レイナが納得してくれる保証はないし、怒りを買ってご飯抜きになってしまう可能性の方が高い。

 そうなると④話をそらす、に賭けるしかなさそうだ。

 抱えていたシチューの鍋を持ち上げて見せて、レイナに見せる。

「そ、そうだ! このシチュー、パトレシアからもらったんだ。良かったら今から一緒に食べよう!」

「シチュー……ですか?」

「あぁ、好きだったろ、シチュー」

 シチューと聞いて、レイナの目の色が変わる。
 これは成功か。ホッと安堵のため息をつく間もなく、レイナの声のトーンが変わる。

「……それで私が納得するとでも?」

 彼女の声を聞いて背筋がぞっと震え上がる。
 その声は静かなトーンだったが、今まで聞いたどんな声よりもずっと悪阻らしかった。

「少し待っていてください」

 心臓が痛い。痛みで死にそうなほどに痛い。
 完全に道を誤った。せめて5分前に戻してほしい。

「アンクさま」

 なんで気がつかなかったんだ、俺の馬鹿野郎。
 リビングまで漂う香り、オクラさんから牛乳をもらったというヒントで気がつくべきだったんだ。

 レイナはキッチンから大きな鍋を抱えて戻ってきた。
 鍋のふたを開けると、そこには菜園で採れたの野菜が入った、ほのかな湯気を立てるシチューがあった。

「これはオクラさんからもらった牛乳で作ったシチューです」

 丸かぶりじゃないか、ちくしょう。完全にやってしまった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

マカロニ
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。