魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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第24話 イザーブの悲劇

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 照明も付いていない小部屋の中は、ドアの隙間からわずかに入ってくる明かりだけで照らされていた。視界は闇に閉ざされていて覚束おぼつかなく、一緒の袋にくるまるリタの表情を読み取る事はできなかった。

 それでも、彼女がカタカタと震えているのは感じて取れた。それが寒さからくるものか、恐怖からくるものなのかは分からなかった。

「怖いか……?」

 静かな息遣いのあとで、リタの肩が動く。小さく息を吐き出した後で、リタの唇が動いた。

 彼女が口にした言葉は、想像以上に素直な感情だった。

「正直ね、怖いよ」

「……悪かったな、こんなことになって」

「あんたのせいじゃないよ。それに、隣に誰かがいるだけで安心できる。実はあんまり狭いところが好きじゃなくてさ」

 フフとおかしそうに笑って、リタは俺の方へと首を傾けた。肩にリタの頬が当たって、髪を纏う石鹸せっけんの香りがして距離の近さを一層感じさせた。

 しばらくの間、何も言わない時間が続いた。冷たい空気が肌を刺したが、それ以上に温かな人間の体温が心地よく思えた。
 
 震えをこらえながら、リタは口を動かした。
 
「昔もね、あったんだよ。こういうこと。パトレシアと2人でね、暗くて狭い食糧庫の中で震えていた。それ以来ずっと密室が嫌いなんだ。暗闇の中に魂ごと吸い込まれてしまいそうな気分になる」

「あぁ、少し分かる」

「暗闇が怖くない人間はいない。特にそれがトラウマと直接繋がっている人間にとってはなおさらだ」

「……イザーブか」

「最悪な記憶だ。私たちの親はそこで死んだ」

 何の感情も込めることなく、リタはその言葉をつぶやいた。まるで昨日の天気のことを話すようにあっさりと言った。彼女にとってそれは、そういう風にしてしか話せない類の出来事なのだろう。
 
 イザーブの悲劇は魔物災害の中でも、被害者数が多い。
 
 プルシャマナの中心部に存在したイザーブ市は、交易で栄えていた商業都市だった。国家を持つことなく、商人たちの自治会によって運営されていた。
 
 金さえ持っていれば、誰だって平等に扱われる。
 身分や出生に左右されることがない。金さえあれば自由に暮らせる、持っていない者は持てるように努力するしかない。

 ある意味で合理的で、またある意味ではひどく残酷な社会だった。

「私たちの親……まぁ、少なくとも善人では無かった。色んなしがらみが終わって、ようやく全てが上手く回り始めたと思った時、イザーブの悲劇が起きた」

 言葉を重ねるにつれて、リタの身体は俺の方へと徐々に寄ってきていた。
 寒さのせいか、それとも他の何かのせいか、カタカタと彼女の身体は震えていた。俺はその背中に手をやって、そっと自分の方へと引き寄せた。

 リタの身体は冷え切っていて、いつも酒場で元気な良い声を出す彼女とは、正反対の姿だった。

「どんな悪行だって、あんなに酷い死に方をして良い理由にはならない。どんな悪人だって、苦しんで死ぬことが正しいはずがない。私が最後に見たのは絶望に顔をゆがませた、父と母の姿だった」

 イザーブの悲劇とは端的に言うと、魔物による大虐殺だ。
 大量の魔物たちが一斉にイザーブ市を目指して、人々を無差別に殺戮した。他国とは中立関係にあり、小規模な自治機構しか持っていなかったイザーブ市は一瞬にして血の海と化した。

 魔物による攻勢は一晩中続いた。運良く生き延びた数10人を除いて、約3万人の市民は魔物に殺された。

「パトレシアは今はあんなんだが、当時はもっとピリピリとしていて、大人に負けず劣らずの判断力がある娘だった。魔物たちが家を襲ってきた時に、パトレシアは私の手を引いて逃げた。父と母が助からないことを知って、地下室の扉を閉めて隠れた」

 リタが吐く息は徐々に荒く、苦しげなものになっていた。

「『助けて』という叫び声が今でも耳を離れない。どれだけ耳を塞ごうとしても、呪いのように頭の中で反響する。私たちは息を殺した。パトレシアは『大丈夫だから』と言って、手を握っていてくれた」

 なぜ魔物たちがイザーブ市を襲ったのかという原因は、いまだに分かっていない。生き残った人たちも、急に魔物の大群が襲ってきたということ以外のことが分からなかった。

 イザーブ市に現れた魔物たちは、一際凶暴で巨大な魔物ばかりだった。中には竜種のような、人の力では歯が立たないような強力な魔物すらいた。

 リタは自分の記憶をなぞるように、俺の手を握った。確かめるように強く手を握りながら、俺の正面へとゆっくりと身体を動かした。

「ごめん、実は言っていなかったことがある」

「何を?」

「実はパトレシアが媚薬びやく醸造じょうぞうしていてね。その煙をさっき口に入れてしまったんだ」

「…………なに?」

 出し抜けにリタの舌が、俺の口の中へと侵入してくる。
 冷え切った唇とは裏腹に、リタの口の中は熱く昂揚こうようしていた。くちゅくちゅと音を鳴らす長く激しいキスが続いた。
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