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第50話 パトレシアと媚薬
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「パトレシア……!」
頭の中を駆け巡った映像から覚醒し、彼女の名前を叫ぶ。どれくらい気を失っていたかは分からないが、とりあえず身体はまだ穴の中を落下していた。
「くそっ、どれくらい深く掘ったんだ、あいつは!」
下にはクッションを敷いてあるからね、とふざけたことを抜かしていたが、人間の強度をどう考えているんだ。このままだとペシャンコだ。
果たしてパトレシアは無事なのだろうか。
そう不安に思っていると、落下地点と思われる場所にバチバチと壊れた蛍光灯のような光があることに気がついた。
あれは……パトレシアの電撃だ。
「固定!」
着地する直前で身体の勢いを押さえる。危うくパトレシアの真上に落下するところだった。ゆっくりと身体を動かして、ふわふわとした布団のような地面に足をつける。
足場は1人が立てるのがやっとだった。わざわざ暖色系の照明を付けていたりと妙に凝っているわりに狭すぎる。
どうあっても俺たちを密着させたいらしい。
覚束ない足場の上で、ぴったりと俺に身体をくっつけるパトレシアの肩をつかむ。
「パトレシア、大丈夫か?」
「あ、アンク……」
俺の方へと視線をあげたパトレシアは、とろんと溶けたバターのような瞳をしていた。息も苦しげで、肺の動きに合わせて大きく肩が動いている。
ふぅと息を吐き出して、彼女は艶っぽい唇を動かした。
「これは……夢?」
「現実だ。パトレシア、上へ上がろう。サティが媚薬を仕込んだんだ。ここにいるのは危険だ」
「びやく、ね。じゃあこれは現実だね。いや、夢かな。まぁどっちでも良いやぁ……」
俺の話を聞いてくれる様子はない。会話もふわふわとしているし、容量を得ていない。象何匹分か知らないけれど、かなりヤバい媚薬だ。何てことをしてくれたんだ。
もう記憶のピースは回収した。だからもうここにいる必要はない。
「パトレシア、起きろ!」
「何言ってるの? ほら、起きてるよー。えへへ、ぎゅー」
「おい、ちょっと……」
狭い足場の上で、パトレシアが俺にもたれかかる。火照って汗ばんだ上半身がぴったりと俺にくっついた。
身体のラインが手に取るように分かる。
男とは違うこの柔らかな感触は凶悪という他なかった。
「だめ……だろ」
なんとか脱出を試みようとするが、常にどこかしらがパトレシアの身体にあたって上手くいかない。身体のどこかに触れるたびに、パトレシアが「やぁ」とか「あぁ」とか喘ぐので、下手に動かすことが出来ない。
「あ……ん……」
「パトレシア、ちょっと動くな」
「そういわれても……や、そんなところ、触らないで……」
「あぁあ……ちくしょう!」
だめだ。
これはだめだ。俺がもたない。
ただでさえ媚薬の残り香があって理性を失いそうなのに、こんな状態のパトレシアと密着していて平静でいられるはずがない。
びっしょりと汗をかく俺に対して、パトレシアは楽しそうな顔で俺にくっついてきた。
「なんだか楽しいね」
「楽しんでる場合じゃないんだけど」
「そうなの? なにか予定あるの?」
「服を買いに行かなきゃいけないんだ。カルカットにレイナの服を選びに行くって、言っただろ」
「あはは、そうだった。それだけ?」
「それだけだ」
「じゃあ大丈夫だよ、カルカットまではもうすぐそこだし。服なら私が選んであげる。そんなに時間はかからないよ。まだお昼だし。だから急がなくても大丈夫」
ぎゅうっと更に強くハグされる。
蜜のように甘い誘惑は、心の中をバリバリバリと蝕んでいた。それから逃れる言葉を俺は必死に頭の中で探した。
「……だめだ。今は媚薬でおかしくなっているし、そんな状態の君の誘いに乗る訳にはいかない。この状況はどう考えても変だ」
「変なのはアンクじゃないかな。妙に頑固になっている。どうしたの、なんかあったの?」
「俺が変……か?」
「変だよ。何も恥ずかしがることなんてない。身体を重ね合わせるのは、私たちがもっと理解を深める手段の1つに過ぎないんだよ。だから、何も恥ずかしがることなんてないんだよ」
「恥ずかしがっているわけじゃない。ただ、君が……」
「私? 私のことを知りたいなら、もっと触って。ほら、ここにいる私に触れて。ただそれだけのことだよ」
パトレシアの手がすっと伸びてきて、ぶらりと力ない俺の腕をつかむ。彼女はそのまま自分の服の下へと、俺の手を導く。
熱い。真夏の砂浜のような火照りに触れる。
すべすべとした彼女の肌に手を重ね合わせた時、ポキンと何かが折れる音がした。
……本能がうごきはじめた。
頭の中を駆け巡った映像から覚醒し、彼女の名前を叫ぶ。どれくらい気を失っていたかは分からないが、とりあえず身体はまだ穴の中を落下していた。
「くそっ、どれくらい深く掘ったんだ、あいつは!」
下にはクッションを敷いてあるからね、とふざけたことを抜かしていたが、人間の強度をどう考えているんだ。このままだとペシャンコだ。
果たしてパトレシアは無事なのだろうか。
そう不安に思っていると、落下地点と思われる場所にバチバチと壊れた蛍光灯のような光があることに気がついた。
あれは……パトレシアの電撃だ。
「固定!」
着地する直前で身体の勢いを押さえる。危うくパトレシアの真上に落下するところだった。ゆっくりと身体を動かして、ふわふわとした布団のような地面に足をつける。
足場は1人が立てるのがやっとだった。わざわざ暖色系の照明を付けていたりと妙に凝っているわりに狭すぎる。
どうあっても俺たちを密着させたいらしい。
覚束ない足場の上で、ぴったりと俺に身体をくっつけるパトレシアの肩をつかむ。
「パトレシア、大丈夫か?」
「あ、アンク……」
俺の方へと視線をあげたパトレシアは、とろんと溶けたバターのような瞳をしていた。息も苦しげで、肺の動きに合わせて大きく肩が動いている。
ふぅと息を吐き出して、彼女は艶っぽい唇を動かした。
「これは……夢?」
「現実だ。パトレシア、上へ上がろう。サティが媚薬を仕込んだんだ。ここにいるのは危険だ」
「びやく、ね。じゃあこれは現実だね。いや、夢かな。まぁどっちでも良いやぁ……」
俺の話を聞いてくれる様子はない。会話もふわふわとしているし、容量を得ていない。象何匹分か知らないけれど、かなりヤバい媚薬だ。何てことをしてくれたんだ。
もう記憶のピースは回収した。だからもうここにいる必要はない。
「パトレシア、起きろ!」
「何言ってるの? ほら、起きてるよー。えへへ、ぎゅー」
「おい、ちょっと……」
狭い足場の上で、パトレシアが俺にもたれかかる。火照って汗ばんだ上半身がぴったりと俺にくっついた。
身体のラインが手に取るように分かる。
男とは違うこの柔らかな感触は凶悪という他なかった。
「だめ……だろ」
なんとか脱出を試みようとするが、常にどこかしらがパトレシアの身体にあたって上手くいかない。身体のどこかに触れるたびに、パトレシアが「やぁ」とか「あぁ」とか喘ぐので、下手に動かすことが出来ない。
「あ……ん……」
「パトレシア、ちょっと動くな」
「そういわれても……や、そんなところ、触らないで……」
「あぁあ……ちくしょう!」
だめだ。
これはだめだ。俺がもたない。
ただでさえ媚薬の残り香があって理性を失いそうなのに、こんな状態のパトレシアと密着していて平静でいられるはずがない。
びっしょりと汗をかく俺に対して、パトレシアは楽しそうな顔で俺にくっついてきた。
「なんだか楽しいね」
「楽しんでる場合じゃないんだけど」
「そうなの? なにか予定あるの?」
「服を買いに行かなきゃいけないんだ。カルカットにレイナの服を選びに行くって、言っただろ」
「あはは、そうだった。それだけ?」
「それだけだ」
「じゃあ大丈夫だよ、カルカットまではもうすぐそこだし。服なら私が選んであげる。そんなに時間はかからないよ。まだお昼だし。だから急がなくても大丈夫」
ぎゅうっと更に強くハグされる。
蜜のように甘い誘惑は、心の中をバリバリバリと蝕んでいた。それから逃れる言葉を俺は必死に頭の中で探した。
「……だめだ。今は媚薬でおかしくなっているし、そんな状態の君の誘いに乗る訳にはいかない。この状況はどう考えても変だ」
「変なのはアンクじゃないかな。妙に頑固になっている。どうしたの、なんかあったの?」
「俺が変……か?」
「変だよ。何も恥ずかしがることなんてない。身体を重ね合わせるのは、私たちがもっと理解を深める手段の1つに過ぎないんだよ。だから、何も恥ずかしがることなんてないんだよ」
「恥ずかしがっているわけじゃない。ただ、君が……」
「私? 私のことを知りたいなら、もっと触って。ほら、ここにいる私に触れて。ただそれだけのことだよ」
パトレシアの手がすっと伸びてきて、ぶらりと力ない俺の腕をつかむ。彼女はそのまま自分の服の下へと、俺の手を導く。
熱い。真夏の砂浜のような火照りに触れる。
すべすべとした彼女の肌に手を重ね合わせた時、ポキンと何かが折れる音がした。
……本能がうごきはじめた。
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