上 下
95 / 220

第83話 孤児院へ

しおりを挟む
 病院を出ていると待ち構えていたのは、サティだった。『シャラディ病院』と書かれた看板の上を、堂々と足蹴あしげにしながら座っていた。

「やあ、どこに行くかは分かったかい?」

「大体な。おかげさまで魔力も回復した。次に行くのは邪神教の1人が暮らしていたと記録してある孤児院だ。情報をまとめると、そこにしか手がかりはないような気がする」

「それは結構。じゃあ私も付いていくことにするよ」

 ピョンと立ち上がるとサティは俺の隣に立った。どこでもらったのか、ジャムを挟んだパンをもぐもぐと食べながら、俺の横を歩き始めた。

「おまえが自ら行動するなんて珍しいな」

「今回は流石に君の手にもあまるんじゃないかと思ってね」

「俺のこと、信用していないのか」

「うん、今回の件に限ってはね。力でどうにかなる問題でもないんだ。ましてや君は頭が柔らかくないからね、中身はおっさんだし」

 さらっと傷つくことを言いながら、サティはパンを飲み込んだ。
 何を考えているかは定かではないが、付いてきてくれるのなら有難い。純粋な戦力としてサティ以上のものは無いのだから。

「ところで、目的の孤児院の場所は分かってるのかい?」

「大体の検討は付いている。イザーブの近郊にあるはずだ。魔物の襲撃で建物が破壊されていないか、心配だけど」

 リタから聞いた情報によると、孤児院はイザーブの南の外れにあったらしい。ここからイザーブまではだいたい3日歩けばたどり着く。
 
 創立祭を終えたカルカットは、もう普段通りの様子に戻っていた。人と出店で賑わう通りを歩いていくうちに、サティが抱えている食料は2倍に膨れ上がっていた。

「お前なぁ……遠足に行くんじゃないだぞ」

「遠足じゃなければ、デートかな?」

「違う違う、これはレイナを助けに行くという重大な……」

 使命、だと言おうとした言葉が途中で止まる。サティが視線をやっている先に2つの人影があることに気づいてしまった。

 ナツとパトレシアだ。

「あ、アンクだー。おーい!」

「アンク、奇遇じゃない。昨日ぶりだね」

 まるで待ち構えていたように、2人は俺たちの行く手を塞ぐように立っていた。

「どこに行くの?」

 逃げ場がない。
 見ると2人の格好は、冒険をするような格好で整えられていた。馬鹿でかいリュックに沢山の荷物を抱えて、まるで俺が最初からどこに行くか知っているみたいだった。

「いや。実はもう帰るんだ」

「ほんと? サラダ村は方向はあっちだけど」

「……ぐ」

 言い訳が聞かない。ナツとパトレシアは目を輝かせて俺のことを見ている。そんな2人を見ながら、サティがあきれたように言った。

「ほら、デートって言っただろ。優しい君のことだ。きっと2人も連れて行くんだなぁ」

 そう問われると、否定はできない。
 だが今回ばかりは、サティがいるとはいえ、どう事態が転ぶかも分からない。正直に言って、断るしか無い。

「……実は、レイナを助けに行くんだ。とても危険なところで、2人を連れていくわけには……」

「私たちも行く!」

 最初から分かっていたと言わんばかりに、ナツがぴょんぴょんと跳びながら自己主張をした。

「危険なところなら尚更なおさらだよ! レイナちゃんの危機なら、私たちだって役に立ちたい!」

「そう言われても、危険は危険。ダメなものはダメだ」

「また、魔力炉が枯渇したらどうするの。サティさん1人じゃ荷が重いんじゃない?」

 続けてパトレシアが反論してくる。確かに魔力が枯渇した時は、人が多ければ多いほど有難い。

 しかし待っているのは『異端の王』だ。万が一ということもある。2人が危険にさらされないという保証はできない。

「どうする、サティ?」

「私は反対だけど、魔力要因としては悪くない。子作りも進むし」

「お前な。真面目に考えてくれよ」

 俺の言葉に「私はどっちでも良い」とサティは肩をすくめただけで、それ以上何も言おうとはしなかった。

 最初から誰にも期待はしていないと顔が言っていた。

「連れて行くしかないのか……」

 期待を込めた視線を向ける2人にこれ以上何も言えなかった。2人だってレイナの友達だし、役に立ちたいというのは本当だろう。

 こっちには女神もいるし、いざとなればサティに丸投げすれば良いか。

「分かった。その代わり危険を感じたら、すぐに帰ってもらうからな」

「やったー!」

 喜んで飛び跳ねた2人は、俺に寄り添うように抱きついた。ぎゅうっと抱きしめられて、腕がおっぱいで挟まれた。

「両手に花だねぇ」

 サティがにこにこと笑いながら、進んでいく。
 パトレシアとナツは付いていくことが嬉しくて仕方ないらしく、うきうきとした足取りで俺のことを引っ張り始めた。

 浮かれている2人に、張り詰めていた緊張が随分と狂わされてしまった。これからイザーブまでの3日の間、何も起こらない事を切に願っている。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

二番目の夏 ー愛妻と子供たちとの日々— 続「寝取り寝取られ家内円満」

kei
大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:26

始まりはよくある婚約破棄のように

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:380

いけ好かない部下に脅迫ラブハメされる話

BL / 完結 24h.ポイント:177pt お気に入り:675

お高い魔術師様は、今日も侍女に憎まれ口を叩く。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,478pt お気に入り:121

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

BL / 連載中 24h.ポイント:674pt お気に入り:301

処理中です...